《忘れ》の敬語
「忘れ」の敬語表現
「忘れ」を敬語表現にする場合、相手が忘れた場合の尊敬表現と、自らが忘れた時の謙譲表現の2通りに分かれます。そして、それぞれで適した表現が異なります。尊敬の場合は、「お忘れになる」「お忘れでいらっしゃる」といった表現が適しています。尊敬の表現である「お～になる」あるいは、尊敬語の「いらっしゃる」を使用した形で、目上の相手に対して使用することが可能です。謙譲の場合は、「失念する」という表現を使用すると良いです。「忘れる」の謙譲語で、使用すると、自らをへりくだらせることができます。それを丁寧な形の「失念しました」という表現にするだけで、敬語表現として十分通用します。「忘れ」の敬語の最上級の表現
「忘れ」を最上級の尊敬語表現にする場合、一般的な尊敬語表現と同じ「お忘れになる」「お忘れでいらっしゃる」を使用する形で問題はありません。「お忘れになる」と「お忘れでいらっしゃる」はいずれも、それ以上強い敬意を示す表現にはできません。そのため、特に形を変えることなく使用しましょう。謙譲の場合も同様に、「失念しました」を使用するのが基本です。ただ、「忘れていました」という意味で使用するのであれば、「失念しておりました」という形で、敬意を強めることが可能です。謙譲語である「失念する」と、「していました」を謙譲語表現にした「しておりました」が組み合わさった形です。「忘れ」の敬語のビジネスメール・手紙での例文
「忘れ」の尊敬語表現をビジネスメールや手紙で使用すると、「いくつか写真を同封いたしました。お忘れになった商品の特徴を思い出すきっかけになるかと存じます」「お客様が注文内容をお忘れでいらっしゃるようですので、担当者の代わりに注文書を再送しておきました」という風になります。謙譲表現の場合は、「イベントのスケジュールを失念してしまいましたので、確認した後、改めてご連絡差し上げます」「予定の変更内容についてのご連絡を失念しておりました。大変申し訳ございません」のような形です。「忘れ」を上司に伝える際の敬語表現
上司に対して「忘れ」の尊敬表現を使用する場合は、「お忘れになる」を使用すると良いでしょう。「お忘れでいらっしゃる」の場合は、冗長表現だと受け取られる恐れがあるため、「お忘れになる」を使用した方が無難です。謙譲表現の場合は、「失念しました」を使用するのが基本です。ビジネスシーンでは、忘れてしまうことは、良くない場合がほとんどです。そのため、かしこまった表現にした方が良いです。丁寧な「忘れました」という表現も不可能ではありませんが、忘れたことを反省している意思を伝えるためにも、へりくだった「失念しました」の使用が望ましいです。「忘れ」の敬語での誤用表現・注意事項
「忘れ」の敬語表現では、尊敬と謙譲のいずれも、過剰な二重敬語にならないよう注意する必要があります。敬語表現では原則として、敬語表現を重ねることはできません。重ねた場合、過剰な二重敬語という誤用になってしまいます。尊敬の場合は、「お忘れになる」を、「お忘れになられる」という形にしてしまうと、誤用表現となります。「お忘れになる」は、「お～なる」という敬語表現です。「お忘れになられる」だと、「お～なる」と尊敬の助動詞「れる」が重なって、「お～なられる」という、二重敬語表現となります。謙譲表現では、「失念いたしました」が、誤用の二重敬語となります。「失念する」は、それだけですでに謙譲語として成立しています。したがって、「する」の部分を謙譲語の「いたす」に変えると、謙譲表現が重なる形になってしまいます。「お忘れになる」も「失念する」も、一般的な敬語表現です。そのため、敬意を強めようとした結果、「お忘れになられる」「失念いたす」という表現になる恐れがあります。しかし、それらは二重敬語で誤用なので、「お忘れになる」も「失念する」も、余計な尊敬要素を付け加えずに使用するようにしましょう。
「忘れ」の敬語での言い換え表現
「忘れ」の尊敬語表現は、「お忘れになる」「お忘れでいらっしゃる」で問題はありません。ただ、「忘れてください」という意味合いであれば、「ご放念ください」という表現が使えます。「放念」とは、とりとめのないことを忘れるという意味の言葉です。つまり、「ご放念ください」は、気にせず忘れてもらっても問題ありませんという表現となります。謙譲表現の場合は、「忘失」という表現が使えます。失念と同様、「忘れ」の言い換え表現です。失念の場合は、うっかり忘れてしまうという意味合いが含まれています。それに対して忘失は、完全に忘れてしまうという意味合いです。細かな意味合いが異なるため、状況に応じて使い分けると良いでしょう。また、「面忘れ」という表現も使用可能です。人の顔を忘れてしまったという表現です。ただ、顔を忘れたことを本人に伝えるのは失礼なので、本人に対して使用することはありません。あくまでも、第三者を目的格にして使用するのが基本です。
そして、「忘失」と「思忘れ」はいずれも、「失念する」のように謙譲の要素が含まれていません。そのため、敬語表現にする場合は、「忘失いたす」「面忘れいたす」という風に、謙譲語と組み合わせるようにしましょう。
- 《忘れ》の敬語のページへのリンク
