青木まりこ現象
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対策
青木まりこ現象は原因がはっきりとしないため、個々人が状況に応じて対策を講じているのが現状である[35]。
事前の準備
まず考えるべきは、あらかじめ利用可能なトイレを用意しておくことである[13][58][33][65]。例えば、フリーライターの高橋良平は書便派のため、事前に近隣のトイレの位置と混雑状況を確認してから書店に入っているという[46]。同様に小説家の浅田次郎も店内の混雑状況を確認してから入店しているという[39]。このようなニーズに応じる形で、雑誌『散歩の達人』(2005年10月号、交通新聞社)に「青木まりこ現象お助け帖」と称する神保町で利用可能なトイレの清潔度や混雑状況を評価し、独自のトイレマップが掲載したことがある。
エッセイストの群ようこは、本を探すのに長い時間をかけることが多いため、書店に行く際は用便を済ませることを習慣づけている[46]。このため青木まりこ現象の経験は一度もないという[46]。形成外科医の松尾清も便を出した後に書店に行くことを推奨している[49]。これが実践できれば今まで悩んでいた書便派のクオリティ・オブ・ライフ(生活の質)も改善が見込まれる。ただし便意が自覚されるのはあまりに突然のため、準備する余裕はないという書便派の意見もある[66]。さらに、朝に排便したにもかかわらず、この現象に襲われてしまうという症例も報告されている[39]。
腸の蠕動運動は午前中に亢進するため、書店に行くのは午後にするというのも有効な手段とされる[13]。
入店後
入店後は、症状が出現する前に購入を済ませ、すぐに書店から出るのが理想である。形成外科医の松尾清は30分以内という目安を提示している[49]。ただしとっさに退店するのが難しい構造の書店もあるので注意が必要である[63]。
難易度の高い書籍で特に強い症状が出現する症例においては、そのような書籍が並ぶ場所になるべく近づかないようにする必要がある[107]。このとき注意しなければならないのが、新書や文庫のコーナーである。新書や文庫のコーナーにおいては、平易なノウハウ本に混じって、難解な学術書が散見されるからである[107]。
ブックオフのウェブページには、本の匂い刺激の作用を緩和させる目的でマスクの着用が良いというコラムが掲載されたこともある[65]。
それでも発症してしまった緊急時の対処法として、小説家の浅田次郎は「コビキ(木挽)」を紹介している。コビキとは、その場で書棚の下段にある本を探すふりをしながら、しゃがみこみ、片足のかかとで肛門を圧迫するというものである[107]。浅田によると、この対処法は書便派の間で多くとられる手段らしく、書店でコビキを行っている者は少なからず目撃できるという[63]。
また、精神科医のゆうきゆうは、肛門括約筋を緊張させ、腸の蠕動運動を減弱させるには、自律神経を交感神経優位にさせることが有用であるとし、「太ももをつねる」ことを具体的な対処法として挙げている[58]。
医学的介入
症状が重い場合は、過敏性腸症候群や不安神経症として治療を受けることになる。精神科医の墨岡孝によれば、必要に応じて安定剤を処方することもあるが、多くの場合「そう心配する必要はない」と患者に説明しているという[13]。実際、中高年になると自然経過で軽快することも知られており、予後は良好とみられる[13]。
有効活用
青木まりこ現象を逆に有効利用する試みもある。そもそもこの現象が知られる発端となった青木自身が、体験談を投稿した時点で、この現象を既に便秘解消法として利用していた[44]。この現象をいち早く取り上げた週刊文春においても「便秘にお悩みの向きには朗報、となるかもしれない」と評された[108]。タレントの関根勤も書便派であり、便秘気味のときは薬を買うのではなく、本屋で立ち読みをして排便を促している[109]。関根は「これがたまんない」と言っているという[109]。複合型書店「ヴィレッジヴァンガード」社長の菊地敬一は、「便秘に悩んでいる人に較べれば、書店でトイレに行きたくなる人は幸せ者である」と自著で述べている[110]。
1995年にはテレビ番組「生活ほっとモーニング」(1995年7月26日放送、NHK総合)では「便秘解消に役立つ方法」として紹介されたこともある[13]。これに対して作家の上前淳一郎は「テレビ番組が茶化している」と評した[42]。
2011年に、4名の便秘女性を「本が読めるおしゃれカフェ」で飲食させる実験が行われたところ、4名中3名が間もなく便通が得られたというデータも存在する[26]。
精神科医の酒井和夫は、「便秘の人は週1回、書店に行くとよいかもしれない」と提案している[6]。作家の上前淳一郎は、形成外科医の松尾清の説から、「(便秘解消のためには)30分以上立ち読みする必要がある」と述べている[49]。整形外科医・作家の藤田徳人は、書店に通うことにより便秘が改善することから「本屋通いダイエット法」を提唱している[70]。
また、この体験を共有できる者同士では、見知らぬ中でもすぐにうちとけ、固い絆で結ばれるというメリットもあるらしい[31]。恋人同士の場合、その愛はいっそう深まるだろうという意見もある[110]。
雑誌編集者の関口裕子は、本を選ぶ楽しみについて「便意で測れるようになるかもしれない」と述べている[47]。
書評家の豊﨑由美は、「書店の便意問題」は五感にまつわるフェティッシュな愛着につながるという紙の出版物の効用を説き、出版の電子化に反対しているという[111]。一方で雑誌『ダ・ヴィンチ』編集長の横里隆は、現状の電子書籍には便意を生じさせるほどのインパクトはないと認めつつ、将来的に何らかの付加価値を見出して「電子書籍を前に、どきどきして便意をもよおすような日が訪れてほしい」と述べている[112]。
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