避難
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/06/16 15:14 UTC 版)
避難中の被災を避ける安全確保
市町村の避難指示などを受けた避難や、自主避難の最中に被災する事例も存在する(例えば[事例 1])。2000年代頃には、風水害の犠牲者のおよそ1割が避難中の被災だった。2010年代に入ると、危険性の段階や状況に応じて垂直避難など多様な選択肢も周知されるようになった[37][35][34]。避難中の被災を避けるために気を付ける点は以下の通り。
- 夜間や暴風が吹く時の屋外の避難は危険を伴うため、明るいうちから、風が強くなる前に避難を済ませる[27]。
- 大雨(洪水)では避難のタイミングが遅いと、避難中に洪水流に巻き込まれたり、道路の路肩崩壊に巻き込まれたり、濁った水で足元が見えず側溝や蓋が外れたマンホールに落下したり、避難経路が浸水や土砂災害で寸断されたりする可能性がある。大規模な洪水や高潮では、浸水が広範囲かつ長期間におよび、救援に時間がかかることが考えられる[27]。
- 雨が止み台風が過ぎてからも、水位が上昇したり、土砂災害が遅れて発生する場合があるため、帰宅の判断は、避難情報などを踏まえて慎重に行う[27]。
- 自動車による避難は、移動中に浸水により故障する可能性や、渋滞により迅速な避難が難しい可能性に留意する。車中泊をする場合、浸水など危険性が高いところに留まらないようにし、エコノミークラス症候群の予防が奨められる[27]。
屋内安全確保
屋内安全確保は具体的には、自宅や滞在している建物の浸水しない上階へ移動し留まることを指す。また、特に避難場所が遠い場合などは、近くにある身の安全を図れるマンションやビルなども選択肢となる[27]。屋内安全確保にあたって気を付ける点は以下の通り。
- 屋内安全確保が可能なのは、留まる自宅などが(堤防決壊による浸水や水流による浸食の)氾濫想定区域などに該当せず、浸水しない階があり、一定期間留まることができる(水や食糧、薬が確保でき、電気、ガス、水道、トイレなどが使えなくても許容できる)場合。マンション高層階では安全は確保できるが、浸水が長引いた場合に生活が継続できるかどうかの考慮が必要[27]。
- 浸水の恐れがある降雨のある場合、避難指示などが出されていなくても、安全な上階で就寝することが奨められる[27]。
- 土砂災害や津波が及ぶ範囲内では、頑丈な建物も倒壊する恐れがあり、早期に立ち退き避難することが奨められる。特に、土石流で通常の木造家屋は全壊し2階以上に退避しても被災する可能性がある。立ち退き避難が難しい緊急時は、崖から少しでも離れた部屋に退避したり、ごく近くのできるだけ堅牢な建物に移ったりすることが選択肢となる[27]。
注釈
- ^ 2016年12月から2021年5月までは「避難準備・高齢者等避難開始」。2005年から2016年12月までは「避難準備情報」。
- ^ 2021年5月にそれまでの「避難勧告」を統合。なお、2016年12月から2021年5月までは避難勧告との違いを明確化するため「避難指示(緊急)」と括弧書き付記をしていた。
- ^ 2021年5月施行の改正災対法により、一律の立ち退き避難に限定せず、浸水が及ばない高層階居住者などには自らの判断で屋内安全確保も検討するよう促す規定となった(対象地域の住民にまとめて避難指示を出す運用は変わらず)。
- ^ 2019年5月から2021年5月までは「災害発生情報」。
- ^ 内閣府の「避難情報に関するガイドラインの改定(令和3年5月)」(2021年5月発表)において、市町村が各々の事情に応じて基準を設定するにあたっての目安として示された事項を記載している。
避難中の主な被災事例
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- ^ デジタル大辞泉. “退避”. コトバンク. 2018年10月31日閲覧。
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- ^ 片田敏孝「東日本大震災にみるわが国の防災の課題」、『安心・安全と地域マネジメント』、27 - 29頁。
- ^ a b 片田敏孝「東日本大震災にみるわが国の防災の課題」、『安心・安全と地域マネジメント』、29頁。
- ^ 片田敏孝「東日本大震災にみるわが国の防災の課題」、『安心・安全と地域マネジメント』、30 - 31頁。
- ^ 片田敏孝「東日本大震災にみるわが国の防災の課題」、『安心・安全と地域マネジメント』、31 - 33頁。
- ^ a b c d e f g h i 水谷、2002年、194 - 196頁。
- ^ a b c d 片田敏孝「災害に備える主体的姿勢を生む防災教育」、『安心・安全と地域マネジメント』、37 - 49頁。
- ^ “災害対策基本法施行令”. e-Gov法令検索. 総務省行政管理局. 2015年9月22日閲覧。
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- ^ 『安全・安心の基礎知識』、204-205頁
- ^ 『安全・安心の基礎知識』、205頁
- ^ 『安全・安心の基礎知識』、206頁
- ^ 『安全・安心の基礎知識』、232-233頁
- ^ 『安全・安心の基礎知識』、240頁
- ^ a b c d e f g h i j k 「避難情報に関するガイドラインの改定(令和3年5月) 」、2021年5月、8 - 18頁, 22 - 36頁。
- ^ a b c d e f g h 「参考資料2 避難準備情報、避難勧告及び避難指示について」、「参考資料3 災害対策基本法(抜粋)」、内閣府『災害時の避難に関する専門調査会』 第4回資料 より、2011年1月18日
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- ^ a b 『大災害と法』、146 - 156頁。
- ^ https://www.kobe-np.co.jp/news/shakai/201703/0010009807.shtml
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- ^ McLean, Demian; Peter J. Brennan (2007年10月24日). “California Fires Rout Almost 1 Million People, Kill 5 (Update7)”. Bloomberg
- ^ “原発事故による避難者数 正確に全体を把握せよ 衆院総務委 塩川議員求める”. しんぶん赤旗. (2011年6月17日) 2011年9月11日閲覧。
- ^ 「資料3-1 帰還困難区域について (PDF) 」文部科学省、原子力損害賠償紛争審査会(第35回)、2013年10月1日
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