超心理学 研究者の態度のマッピング

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超心理学

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/29 04:03 UTC 版)

研究者の態度のマッピング

マイケル・フリードランダーは、概観すると超常現象が実在すると頑固に信じている人と、実在を頭から一切否定する人に、真っ二つに分かれている[18]と指摘した。この両者の中間地帯に、比較的人数が少ない、第三のグループが存在していて、超常現象に関する主張を検討するにはやぶさかでないという姿勢で実験に勤しんでいる[19]。この第三のグループも、さらに二派に分かれているように見える[19]と述べられることがあり、片方の派は、非常に懐疑的であるものの、厳密で科学的な対照標準を持ち込んで実験や研究[注 4]を行っている。この人たちは、今でも中立的な姿勢を守っており結論を出していないが、(超常現象の実在の立証に関して)成果と呼べるようなものは今日まで提出していない[19]と言う。もうひとつの派は、上記の派とは鏡像のような関係にあり、現代科学のテクニックを大いに活用しているものの、超常現象を共感をもって受け入れたがっていて、実験の対象に(上記の派に比べて)より思いやりがあり、また自身の過ちにも寛容であるように見える[19]、と述べた。

研究者の態度について、石川幹人明治大学教授は、公開サイト「超心理学講座」の「超心理学における7つの誤解」では、「(超心理学者は)信奉は棚上げにして、経験的事実にもとづいた研究を行なっている。超心理学者のなかには、懐疑論者も多くいる。当然、霊魂の存在などを前提とすることはない。」とした[20]

研究・実験の例

初期

この種の研究でもっとも有名なのは、ジョゼフ・ラインが行なったテレパシーあるいは「超感覚的知覚」(ESP)の研究である[7]。ラインの方法の一つはボランティアを集め、特別なカード(ゼナー・カード)のなかから、ランダムに一枚を選んで伏せ、それがどんな図柄のカードか、被験者に当てさせることであった[7]。この研究は統計学の見地からも難癖のつけようがない結果を出した、といわれる[9]。例えば、実験対象者の一部は普通に予想される5回以上の的中率を反復的に実現することを示した、という[9]。その一方で、ラインの実験結果のほとんどに批判が寄せられている[10]、ともされる。ただし批判があるにせよ、「霊」の存在の介在を排した形での超能力研究を確立した意味で、ラインの功績は評価されるべきだ[3]、ともされる。

現代

ロバート・ジャンやチャールズ・ホノートンなどといった人々が行っている現代の実験では、被験者が実験装置から感覚的な手がかりを得たりしないように、電子機器やコンピュータによる乱数、地球にランダムに降り注ぐ宇宙線などを利用して標的の選択を自動化している[21]

ロバート・ジャンとその協力者らによって、プリンストン大学工学部の変則現象調査研究所で行われた実験は、ランダムに選ばれる数列に対して、精神が何らかの影響を与えられるのではないかという可能性を測定するために、大規模テストを自動的に行う電子装置を設計し、被験者らは、選ばれた数値を大きくしたり小さくしたりするように求められた[22]。ジャンの実験のサンプル数、試行回数はきわめて大きかった。例えば、平均値の予想が100.00となるテストを、55000回試行し、ある被験者はスコアを上げようと努力した時の平均は100.082に、逆に下げようとしたときには平均が99.86になったと報告された[23]。 (この実験についても、批判者たちは例によって、実験手続きや統計分析を微に入り細に穿って検証し、懸念を表明した[24]

スタンフォード研究所(SRI)に在籍していた科学者、ラッセル・ターグ英語版ハロルド・パソフ英語版は、遠くの情景を叙述できると述べるユリ・ゲラーの透視能力をテストした。ゲラーから数百マイル離れたテストの現場へ出かけ、ゲラーは前もって決められていた時間に、遠く離れた場所にいる実験者のまわりの景色がどうなっているか言葉や絵で描写した。パソフとターグは、描写を採点するシステムを考案した。論文を書き上げ、査読制度がある科学雑誌「ネイチャー」に投稿し、それが掲載されるという栄誉を受けた[25][21][注 5]。(だが、絵の同定方法や実験手続きが批判を受けた[21]。)

日本での超心理学の草分け、福来友吉念写を研究した。

ケストラー記念超心理学部の主任教授であったロバート・モリスは、チャールズ・ホノートン英語版と合流し、ホノートンはガンツフェルト実験英語版を開発した。(ガンツフェルトとは「全体野」を意味する)。ガンツフェルト実験では、被験者の目はアイマスクで覆われ、耳にはイヤホンを付け、ホワイトノイズが流される。被験者の全感覚、すなわち全体野への入力がどれも遮断されるのである。こうして世界から感覚的に隔絶した状態で被験者は隣の部屋で一連の絵を眺めている実験者からの情報を受け取ろうと試みる。この実験を何千回も繰り返すことによって、期待される確率よりもほんの少しだけ正しく有意な予知ができるという結果が得られた[26]と言われている。ホノートンが厳密に練り上げた研究プログラムは、ホノートンが1991年に亡くなった後も続けられている[27]とも言われている。

日本

小久保秀之、笠原敏雄らが、1990年代に日本で行われた研究についてまとめている[28]

実験結果に関わる要因

超心理学における実験では、以下の要因が重要とされている。

ヤギ・羊効果

超心理学実験の得点は、超心理現象を信じる者(ヒツジ)が被験者の時は高く、超心理現象を信じない者(ヤギ)が被験者の時は低い傾向がある。この現象は偶然には1万分の1未満の確率でしか起きないにもかかわらず、集合実験でも個別実験でも検出された。この効果はジョン・パーマー、ガートルード・シュマイドラー、T・R・ローレンスなどの超心理学者らの実験によって検出された。パーマーによれば、実験が成功するという状況に被験者が「心理的快適さ」を感じていた場合、ターゲットを当てやすいとされる。[29]

実験者効果

全く同一の実験であっても、実験者がだれであるかにより結果に違いが出ることがある。これを実験者効果と呼ぶ。「ヤギ・羊効果」は被験者側の信念が影響する例であるが、実験者側の信念も実験に影響することが広く知られている。 懐疑論者のリチャード・ワイズマンと超心理学者のマリリン・シュリッツが実験者効果を調べる実験を行ったところ、全く同じ条件の実験であるに関わらず、シュリッツが行った実験のみに優位な結果が得られた。ガートルード・シュマイドラーの実験では「独善的で冷たく自信過剰」な印象の実験者の結果が失敗しやすいという結果が出た。また実験者の妻が入院している期間のみ著しくスコアが低いという結果が出た実験なども見られる。[30]

自発的想像傾向

自発的想像傾向とは「心のうちに自然に現れるイメージを積極的に求め、重要視する傾向」のことである。ジョン・パーマーの実験によれば、自発的想像傾向はESPが発揮されるについて重要な性格傾向であるとされる。こうした傾向を持つ被験者が、社会心理的に快適な状況の実験に参加すれば成功しやすいとされる。またフィオナ・シュタインカンプの実験では「外向性が高く、神経質傾向が低く、知能が高い」被験者はESP得点が高い傾向が見られた。そうした被験者は社会心理的快適さを得やすいため、と考えられる。[30]

不正防止と科学的な方法

不正行為とその防止

「超心理学の実験では学者によって"でっちあげ"が行われている」といった批判的な見解を示す人もいた。「レヴィ事件」や「ソール事件」など、歴史上そうした事件は存在した。しかし、1970年代後半以降の超心理学上のデータについては(ガンツフェルト実験メタ分析の結果)でっちあげ説は当てはまらない、とされる。[30]

お蔵入り効果、全試行の記録、実験のメタ分析

超心理学を批判する者からは「お蔵入り効果」が生じている可能性が指摘されることがあった。「お蔵入り効果」とは、(超心理学に限らず自然科学の実験全般で起きる可能性があるもので)研究者が望みの結果ではない実験("失敗"の実験)は報告せず「お蔵入り」にしてしまい、望み通りの結果が出た実験のほうばかりを報告すると基礎データに偏りが生じ、結論にも影響する、ということである。この問題は超心理学で初期から指摘されていたが、1974年からガンツフェルト実験メタ分析(複数の研究報告をまとめて、全体の傾向を分析する手法)が発展するにつれ、これらの実験でこの効果が生じている可能性は否定されるに至った。メタ分析の結果、失敗した実験もお蔵入りされることなく報告されている状況が判明したのである。[30]


  1. ^ フロイト、ユングらは、心理学を語る上で欠かせない人物らであるが、現在ではこれらの研究を、現代的な意味では心理学と認めない心理学者も多い。
  2. ^ 英語式の発音では「パラサイコロジー」。
  3. ^ ロバート・モリスと3人の同僚は、関連分野におけるさまざまな方法や展開に関する論評をまとめた400ページの分厚い1冊の穏健な教科書を著した。Foundations of Parapsychology (London : Routledge and Kegan Paul, 1986)
  4. ^ 関連項目:対照実験
  5. ^ しかし、そもそも「ゲラーの立ち振る舞いはまったく監視されておらず、程度はともかく、ゲラーに課される試験の準備はゲラー本人の自由にゆだねられていた」という意見もある『「超科学」をきる』化学同人p.125
  6. ^ 大学で終身在職権を得るために必要なことは、どれだけしっかりした結果が出せたかということだからである。
  1. ^ 「超心理学とは、未だに物理的には説明がつかない、心と物、あるいは心同士の相互作用を科学的な方法で探究する研究分野です。」(日本超心理学会HPでの定義文。 2009年1月-2014年9月 確認)
  2. ^ 超心理学の定義は、「既知の自然の法則では説明できない現象を研究する学問」(出典:リン・ピクネット『超常現象の事典』青土社、1994年、ISBN 4-7917-5307-0 p.486)
  3. ^ a b c d e f g 羽仁礼 2001, p. 36.
  4. ^ 羽仁礼『超常現象大事典』
  5. ^ ピーター・バーク 2015, p. 242.
  6. ^ ピーター・バーク 2015, p. 242−243.
  7. ^ a b c d e f g h ピーター・バーク 2015, p. 243.
  8. ^ リン・ピクネット『超常現象の事典』
  9. ^ a b c d e f g h 羽仁礼 2001, p. 486.
  10. ^ a b c 羽仁礼 2001, p. 57.
  11. ^ 『きわどい科学』p.228
  12. ^ a b c 羽仁礼 2001, p. 487.
  13. ^ マイケル・フリードランダー『きわどい科学』白揚社 p.231
  14. ^ a b 羽仁礼 2001, p. 53.
  15. ^ 『超常現象の事典』p.488(元は1990年の原著の情報)
  16. ^ a b c d 『超常現象の事典』p.488
  17. ^ a b ピーター・バーク 2015, p. 244.
  18. ^ マイケル・W. フリードランダー 1997, p. 226.
  19. ^ a b c d マイケル・W. フリードランダー 1997, p. 227.
  20. ^ 「超心理学における7つの誤解」
  21. ^ a b c マイケル・W. フリードランダー 1997, p. 232.
  22. ^ マイケル・W. フリードランダー 1997, p. 236.
  23. ^ マイケル・W. フリードランダー 1997, p. 237-238.
  24. ^ マイケル・W. フリードランダー 1997, p. 238.
  25. ^ Nature 245 (1973)
  26. ^ マイケル・W. フリードランダー 1997, p. 241.
  27. ^ マイケル・W. フリードランダー 1997, p. 242.
  28. ^ 小久保秀之、笠原敏夫 2006「特異現象に関する1990年代の日本の研究」
  29. ^ 石川幹人『超心理学 封印された超常現象の科学』紀伊国屋書店
  30. ^ a b c d 石川幹人『超心理学 封印された超常現象の科学』紀伊国屋書店
  31. ^ 羽仁礼 『超常現象大事典』第2章。成甲書房、2001年。ISBN 978-4880861159
  32. ^ a b c 懐疑論者の事典』 下 p.61
  33. ^ 関連項目:科学における不正行為
  34. ^ 著書『実在の境界領域―物質界における意識の役割 』技術出版 1991年 ISBN 4-906255-07-8
  35. ^ マイケル・W. フリードランダー 1997, p. 237.
  36. ^ a b c マイケル・W. フリードランダー 1997, p. 239.
  37. ^ マイケル・W. フリードランダー 1997, p. 240.






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