赤 赤の色料

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/23 08:38 UTC 版)

赤の色料

赤は太古よりの色などと関連させられ、人を高揚させる色として多くの人間に認識されていた。当然であるが各色の物理的顕示は各色を示す物体によって為される。赤色気味の色料の入手は比較的容易であった為、赤は殊更使われて来た色となった。ただし、赤色と我々の緊密性はこれにのみ依るものであるのではない。また、赤の色料は一般に耐光性が高くなかったが、近年高い耐光性を持つ顔料が開発され、自動車等にも使われている。

赤色無機顔料

朱 (vermilion, cinnabar)

ドロマイト上の辰砂

赤色の中で特筆すべきなのは、朱色([vermilion,vermillion)である。朱色は朱の色のことである。朱色の顕色は、辰砂(しんしゃ)、朱砂(しゅしゃ、すさ)、辰朱(しんしゅ)、丹砂(たんさ)と呼ばれる硫化第二水銀(硫化水銀)を用いる。赭土(丹、焼成土、弁柄。合成弁柄、三酸化二鉄)、鉛丹(光明丹、四酸化三鉛)、鶏冠石(リサージ、硫化砒素)を用いるか、或いはそれ以外の顔料染料単独によって若しくはこれらの混合に基づいて、或いは他の朱色の発光物によっても、実現できる。

辰砂による朱(≠朱色)は壮美な発色をするので、紀元前から利用された。合成法は古くから知られ、その歴史は古代にさかのぼる。合成されたものは銀朱とも呼ばれ、現在の朱(≠朱色)の多くをまかなう。現在でも朱砂は山口県萩などで採掘される。赤の色料の中でも、太古から使われている朱砂は、東洋では寿(ほぎ)の色材、呪術的な意味を付与された色材として重用されていた。例えば平等院鳳凰堂、中堂の四面扉には朱(≠朱色)が塗られた[3]。また朱漆としても用いられた。これは朱砂が持っている色彩自体の印象以外に、硫化水銀や水銀そのものの毒性に依存・依拠するものとも考えられている。そして、乾性油で練り上げられた朱は、今日台頭しているジスアゾ縮合顔料やジケトピロロピロール、カドミウム赤を以ってしても代替不可能な、油絵具の内で最高の不透明性を誇る類例のない色材である。ただし、色材としての硫化水銀の運用にあっては、硫化水銀の黒変を回避しつつ目的の色彩を定着させる高次の技術が要請される。Colour Index Generic NameはPigment Red 106である[4]

丹 (light red, hematite)

合成赤色酸化鉄
Pigment Red 101

死者を葬る際や祭祀の場に魔除けの意味で朱塗りを施した例が知られている。古代日本の軍場(いくさば)では顔を代表する身体の各部位に丹色(にいろ)を塗布し武運と安全を祈願したという。また、弁柄はしばしば朱漆の代用となった弁柄漆として器物と組み合わせられたりしてきた。

三酸化二鉄は鉱物としては、赤鉄鉱(セキテッコウ)として産する。現在、三酸化二鉄は「マルスレッド」としても流通している。この「マルス (mars)」は、ギリシャ神話におけるアレースに相当するローマ神話軍神Marsの意味を持つ。これは先述の事態に関連するものとして看取してよい。三酸化二鉄は高彩度ではないものの安価にして比類ない耐光性を具えた色料である。そして、三酸化二鉄は土の発色成分の主たるものであって、古画や土器に見られる赤褐色の発色成分の大半は三酸化二鉄である。黄土を強熱すると酸素が取れて酸化鉄となり、赤色を呈する。これは特にレッドオーカーとする呼び習わしがある。ただし現代では、これ以外のレッドオーカーもある。Colour Index Generic Nameは天然赤色酸化鉄がPigment Red 102で[4]、合成赤色酸化鉄がPigment Red 101である[4]

鉛丹 (red lead, minium)

鉛丹
Pigment Red 105

鉛丹は紀元前から使用されたといわれるが、硫化水銀との混同とも考えられる。朱と同じ位高彩度の赤色顔料として知られているが、硫黄と反応し黒変する為、一般に絵具などには用いられない。最も大きい用途はの錆止め塗料の着色剤である。Colour Index Generic NameはPigment Red 105である[4]

赤色有機顔料

ブラジリン (en)
淡赤色を呈するブラジルレーキの主成分となる

耐久性の高い赤色有機顔料が生産される以前には、自然由来の赤色染料を不溶化させて、顔料として用いることも盛んであった。

アントラキノン

アリザリンレーキの原料となるアリザリン
Pigment Red 83

赤色のレーキ顔料に主として用いられたのは、アントラキノン染料を主成分とする赤色染料であった。具体的には、ケルメス酸、カルミン酸、ラック酸、アリザリンプルプリンである。特にアリザリンは、その特異な色相と際立った透明性、高い耐久性に着眼され、現代でも工業生産されており、例えば美術家用として人気がある。

アカネ色素をレーキ化したマダーレーキ(真正ローズマダー、真正ピンクマダー等)は天然レーキ中最も安定した色材のひとつである。カイガラムシエンジムシの色素をレーキ化したものはコチニールレーキである。これらは最大の顕色成分と同一の化学組成を有する合成品のレーキ顔料であるアリザリンレーキや類似した色相の有機顔料が存在する為、真正品が使用されることは稀である。

顔料色素型の赤色アントラキノン顔料としては、Pigment Red 168とPigment Red 177がある[4]。Pigment Red 177はアリザリンレーキと比較すると幾分不透明である透明な顔料で、耐久性が高く鮮明で、耐水性にも問題が無い。Pigment Red 168はPigment Red 177より随分黄味[4]

アゾ

青味赤を呈するモノアゾ顔料
Pigment Red 170

アゾ基を有する化合物で、顔料としては顔料色素型とレーキ顔料型がある。顔料色素型のモノアゾ赤の種類は膨大であるが概して耐溶剤性に劣る。ただし高分子化するにつれ耐溶剤性は高まる。レーキ顔料型は鮮明な色相を有し耐溶剤性も有する。

ジスアゾ縮合顔料は従来の不溶性アゾ顔料に比べ、耐光性、耐溶剤性などは高まっているが、製造コストが高い。Colour IndexにはPigment Red 48、Pigment Red 57、Pigment Red 170、Pigment Red 188、Pigment Red 221、Pigment Red 242等が記載されている[4]。Pigment Red 188やPigment Red 242は黄味の赤、PigmentRed 221は青味の赤といった色合いである[4]

キナクリドン

無置換キナクリドン
Pigment Violet 19

キナクリドンは、対称性の高い複素環顔料である。この名称は1896年Nimerovskyが、キノリンアクリジンが合わさった化合物としてつけたもので、無置換キナクリドンのCAS名はquino[2,3-b] acridine-5,12-dihydro-7,14-dioneである。無置換キナクリドンはPigment Violet 19とも呼ばれる。Colour IndexにはPigment Red 122、Pigment Red 202、Pigment Red 206、Pigment Red 207、Pigment Red 209、Pigment Violet 19、Pigment Violet 42等が記載されている。

Pigment Violet 19には色相が異なるβ型(赤味紫)やγ型(青味赤)がある。また、α型は顔料として使用されていない。Pigment Red 122は両者の中間的色相を備え、印刷等においてはマゼンタとしても使用されている。Pigment Red 202はPigment Red 122より若干青味が強いものの、その差異は希釈などによって両者の色合いを似せることが出来る程度の差異である。Pigment Violet 42はキナクリドンの混晶であり、やや彩度が低く、不鮮明。

Pigment Red 202とPigment Red 209は化学組成的には良く似ていて、共にジクロロキナクリドンであるが、塩素の位置が異なる。Pigment Red 207とPigment Red 209は色相的には良く似ていて、共に黄味赤であるが、Pigment Red 207はγ型結晶のPigment Violet 19とPigment Vioret 122の中間の色合いであるが、混晶であり、やや彩度が低く、不鮮明。

これ以外に褐色系統のキナクリドンもあるが、無置換キナクリドンと無置換キナクリドンの一部を酸素で置換した化合物の混晶であり、彩度が低く、不鮮明。Colur Indexには、Pigment Orange 48とPigment Orange 49の記載がある。

ペリレン

ペリレン
ペリレンテトラカルボン酸二無水物 (en)
Pigment Red 224

ペリレン顔料は、ペリレンテトラカルボン酸二無水物の六員環を構成している酸素原子2個を脱落させた構造を有する顔料である。赤から紫、そして、緑(ただし黒い緑)といった幅広い色相を持つ顔料グループであり、一般に着色力、堅牢性に優れる。

赤色のペリレン顔料、Pigment Red 149は、やや青味のある赤色だが他の有機顔料に比べて希釈した色が相対的に黄味に寄る傾向がある[4]。Pigment Red 179は、アントラキノン系の高級顔料であるPigment Red 216よりも、更に暗く強い色調で、より堅牢である[4]

ジケトピロロピロール

1980年代初頭に開発された新しい、対称発色団を持つ複素環顔料である。粒子径を制御することにより透明性を操作することが出来る。粒子径が小さいものは青味が強く、透明性は比較的高いがそれでもやや不透明である。Colour IndexにはPigment Red 254、Pigment Red 255、Pigment Red 264、Pigment Orange 71、Pigment Orange 73等が記載されている。これらはいずれも鮮明で堅牢である。キナクリドンとの固熔体も研究されており、市場に流通している。キナクリドン-ピロールは手近な所では絵具として入手できる。Pigment Red 254やPigment Red 255の色相は実用的なRGBのRにも似た黄味赤である[4]。Pigment Red 254は赤のカラーフィルターによく採用される。以前よく採用されていたPigment Red 177よりもこの用途には適する。このとき補助的に用いられるのはPigment Orange 71やPigment Yellow 139などのより黄味の顔料である。Pigment Red 255はPigment Red 254より相当黄味が強くやや彩度が低い[4]

赤色天然染料

自然物から抽出される赤色天然染料は多数存在する。植物由来の染料としてベニバナスオウアカネが、動物由来の染料としてコチニールがある。

紅花

ベニバナ(紅花)は媒染剤に灰汁を用いる赤色染料である[5][6]繊維の染色のほか口紅をはじめとする化粧品にも用いられる[6]。ベニバナ染めによる赤を紅の節で既出のように紅色(べにいろ)と呼ぶ。Colour Index Generic NameはNatural Red 26である[4]

蘇芳

スオウ(蘇芳)は媒染剤に灰汁や明礬を用いる赤色染料である[5][7]。媒染剤として灰汁を用いると紫味を帯びた赤に[5][7]、明礬を用いると茶色味を帯びた赤に染まる[5][7]。なお媒染剤としてを用いると紫に染まるため[5][7]、スオウは紫色染料としても用いられる[5][7]。スオウ染めによる赤を蘇芳色(すおういろ)と呼ぶ。Colour Index Generic NameはNatural Red 24である[4]

アカネ(茜)は媒染剤に灰汁や明礬を用いる赤色染料である[5][8]。同じく植物由来の赤色染料であるベニバナやスオウよりも堅牢な染料である[8]アントラキノンの節で既出の赤色有機顔料・マダーレーキはアカネ染料をレーキ化したものである。アカネ染めによる赤を茜色(あかねいろ)と呼ぶ。Colour Index Generic NameはNatural Red 9である[4]

コチニール

コチニールはカイガラムシやエンジムシの色素を染料として用いたものである[9]。媒染剤にアルミナクロム、鉄等を用いることにより鮮紅色から紫味を帯びた赤まで幅広い色相に染色することが出来る[9]アントラキノンの節で既出の赤色有機顔料・コチニールレーキはコチニール染料をレーキ化したものである。コチニール染めによる赤を臙脂色(えんじいろ)と呼ぶ。Colour Index Generic NameはNatural Red 4である[4]

赤色合成染料

化学的に合成された赤色合成染料も多数存在する。


  1. ^ 日本工業規格「物体色の色名(JIS Z 8102:2001)」p.2。
  2. ^ a b 日本工業規格「物体色の色名(JIS Z 8102:2001)」p.20, 23。
  3. ^ http://www.kyoto-arc.or.jp/leaflet/222.pdf 「平安宮の赤い色」(財)京都市埋蔵文化財研究所・京都市考古資料館
  4. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p The Color of Art Pigment Database : Pigment Red,PR
  5. ^ a b c d e f g 『日本大百科全書 7』、394頁、草木染めの表(草木染めの項目自体は395頁に掲載)より。
  6. ^ a b 『日本大百科全書 21』、71頁、紅の項目より。
  7. ^ a b c d e 『日本大百科全書 12』、901頁、蘇芳の項目より。
  8. ^ a b 『日本大百科全書 1』、153頁、茜の項目より。
  9. ^ a b 『日本大百科全書 9』、308頁、コチニールの項目より。
  10. ^ 井上容子『有彩色光照明が視認性と雰囲気に及ぼす影響』p.3。
  11. ^ a b 消防車はなぜ赤い」『消防雑学辞典』東京消防庁(東京連合防火協会『新 消防雑学辞典』二訂版より)。
  12. ^ https://flagmakers.co.uk/blog/resources/what-is-the-rarest-colour-on-national-flags/#:~:text=The%20most%20common%20colour%20used,50%25%20of%20all%20national%20flags.
  13. ^ a b c 『スーパー大辞林』三省堂、2013年。
  14. ^ 「疫病から伝染病へ」『東西の古医書に見られる病と治療 - 附属図書館の貴重書コレクションより』九州大学附属図書館、2007年。
  15. ^ 青山洋二『琉歌おもしろ読本』郷土出版、1998年、p.200。
  16. ^ 夜の灯火(その1)”. 国土交通省海難審判所. 2018年2月3日閲覧。






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