貧困
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/13 05:40 UTC 版)
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基準

貧困とは状態であり、基準(定義)の定め方により貧困か否かその程度が異なったものと評価される。絶対的な基準を定める場合もあれば、相対的な基準を用いる場合もある。
ノーベル経済学賞受賞者のアマルティア・センは、貧困を「潜在能力を実現する権利の剥奪(英語: a capacity deprivation)」と表現した[6]。以下に代表的な基準を記す。
絶対的な基準
絶対的な基準として、当該国や地域で生活していく為の必要最低限の収入が得られない者とする例が挙げられる。必要最低限をどのように設定するかが大きな問題となり、国・地域・一部の先進国の労働者が原因で全世界での貧困が増大しているという見方がある。
- 気候
- 一般に寒冷地であれば多くの光熱費や衣料費が必要になる。また、降水量などによって水の価格も異なったものとなる。
- 農作物
- 化学肥料の誕生以前は単位面積当たりの農作物の量に限界があるため、農作物の量が人口増加に追いつかず、人類は常に貧困に悩まされていた(マルサスの人口論)[7]。
- 物価
- 物価によって、同じ物・サービスを購入するために必要な収入が異なる。それぞれの国や地域の物価は国際的な為替相場に大きく影響される。資源国または農業大国であるかどうかによって、物価の貧困への悪影響に格差がある[要出典]。
- また、同じ国・地域でも都市部と農村部(非都市部)では物価が異なり、特に住居費などに差が生じる。
- 習慣・文化
- どの程度までその国や地域の習慣・文化などを考慮するかは、人により大きな差となりやすい点である。
- 例えば、日本において最も安く生活に必要なカロリーを得るためには、米よりも小麦やイモ類を食べるのが良いであろうし、もちろんタンパク質として牛肉などを食べる必要はない[誰?]。
- しかし、そのように考えていくと、通常の日本の食生活とは全く異なった食事を強いることにもなりかねない[誰?]。
- 同様のことは他の分野にも言え、どの程度の衣服が必要最低限であるか、テレビ・ラジオ・電話・パソコンなどの電化製品・冠婚葬祭など、どこまで必要最低限であるかなどにおいて明確な基準の設定は困難である。
- 教育
- どの程度の教育水準を必要最低限とするかも様々である。
- 義務教育(初等教育及び中等教育)程度は当然のものとされるが、大学教育(高等教育)・専門技能習得のための費用などが必要最低限の中に含まれるか否かは明確ではない。
- 教育格差の固定化に否定的な立場からは、より高い収入を得るための高度な教育も必要最低限に含まれやすい[誰?]。
- 健康・寿命
- 一般により良い食生活・より快適な衣服・住居は、よりよい健康状態・より長い寿命・立派な体格をもたらす。
- 例えば長い寿命を当然とすれば最低限とされる生活水準は高くなるが、どの程度の健康・寿命が必要最低限であるかを決定することは困難である。
また他の基準として、1人当たり年間所得370ドル以下とする世界銀行の貧困の定義や、死亡率・識字率などを組み合わせた国際連合開発計画の定義などがある。
相対的な基準
相対的な基準として、OECDの統計で用いられる「等価可処分所得の中間値の半分に満たないもの」あるいはアメリカ合衆国の「収入が世帯の食料購入費の平均の3倍に満たないもの」などがある。
日本における定義は、「等価可処分所得(世帯の可処分所得を世帯人員の平方根で割って調整した所得)の中央値の半分に満たない世帯員」(この「中央値の半分」という基準は科学的根拠に欠けるということが研究者の共通した認識となっている[8])のことで、この割合を示すものが相対的貧困率である。預貯金や不動産などの資産は考慮していない[9]。
相対的な基準を用いると、一定の計算式によって貧困か否かが判断されるため、判断者による恣意が入り込む余地は少ないものとなる。しかし、平均値との比較によって判断するため、国全体が貧しい場合には絶対的に見て相当貧困な状況にあっても、貧困でないとされる場合がある。また、ある発展途上国の貧困でないものは、ある先進国の貧困者よりずっと貧しい、ということにもなる。
ある国や地域の中で貧困という部類に分類されるかどうかが表されるのであり、経済格差という面から見た基準である。
貧困や不平等度を測る尺度
貧困についての統計は、貧困がある国や地域においてどの程度のものであるかを示す統計である。貧困の状況を調査するため、様々な主体によって様々な統計がとられており、貧困対策の基礎的情報となる。しかし、それぞれの統計で貧困の基準や捉えることの出来る貧困の状況が異なるため、貧困の理解に際しては複数の統計を注意深く分析することが求められる[誰?]。
貧困者数・貧困率
貧困者数とは、その国や地域において何人の貧困線以下の者が存在するかを示した指標であり、これを全人口に対する比率としたものが貧困率である。
貧困率には絶対的貧困率と相対的貧困率とがあり、前者は当該国や地域で生活していける最低水準を下回る収入しか得られない国民が全国民に占める割合を表す。一方の後者は自身の所得が全国民の所得の中央値の半分に満たない国民の割合を表す(詳細は貧困線を参照)。
これらの指標は、そこで用いられている基準がどのようなものであるか、の他にも貧困の程度については考慮されていないことに留意する必要がある[誰?]。より深刻な貧困の方がより大きな問題である。しかし、例えば格差の拡大によって貧困線を僅かに下回っていたものが、最底辺の酷い貧困に追いやられたとしても、これらの指標は変化しない。貧困者数や貧困率は改善しているものの、貧困者の貧困の程度は悪化している場合もある。
貧困ギャップ
貧困ギャップとは、貧困線をどの程度下回っているかを表した指標である。貧困線を下回る人々の不足額を足しあわせて平均を求め、その貧困線に対する比率を求めたものであり、貧困の程度を示したものといえる。
しかしこの指標では、貧困者数や貧困率の変化について捉えることができない。また、貧困者同士の格差の拡大を捉えることはできず、例えば貧困者から別の貧困者に所得が移転し、一方の貧困者はましになったもののもう一方の貧困者の貧困が酷くなった場合、この指標は変化しない。
貧困線を大きく下回るものをより重視した、貧困線からの不足額を2乗して足しあわせる指標なども用いられる。
その他の尺度
詳細は当該項目参照。
統計に影響するもの
ここではその他の統計に影響を与えるものを挙げる。
- 家族規模
- 多くの貧困に関する基準は1人当たりで計算される。しかし通常消費活動は世帯単位で行われ、規模の経済により一般的に大規模な世帯の方が同じ1人当たりの収入でも生活水準は高くなる。これは大人数の世帯の方がより効率的に食糧・衣料・耐久消費財・家屋などを利用できるためである。等価可処分所得など、世帯規模の影響を考慮した指標もあるが、どのように家族規模を考慮するかによって貧困に関する数値は異なったものとなる。またこれにより、貧困の指標は社会の家族規模の変化(核家族化など)に影響を受ける。
- 家族構成・人口構成
- 多くの貧困に関する基準は1人当たりで計算される。しかし1人当たりに必要となる収入は子供か成人あるいは高齢者かで異なったものとなる。それらを考慮するかしないか、あるいはどのように考慮するかによって貧困に関する数値は異なったものとなる。またこれにより、貧困の指標は少子化・高齢化の影響を受ける。
- 調査対象の偏り
- 統計全般に言えることであるが、貧困の統計においても調査対象が偏ったものとなる可能性がある[誰?]。例えば政府の統計であれば、富裕層の方が政府に協力的である可能性がある[要出典]。あるいは、若者の方が個人情報の記述に抵抗を覚える可能性がある[誰?]。また、読み書きできない貧困者は、調査に対して回答できない可能性がある[誰?]。その統計資料がどの程度信用に値するかは様々である。
その他の統計
上記のような直接貧困に関する統計の他に失業率・識字率・死亡率・乳児死亡率・GDP・家計調査・所得再分配調査など各種の統計が貧困に関した判断・理解に参照される。
注釈
- ^ 国際連合腐敗防止条約を含めて条約は批准しない国に対して法的拘束力を持たないことも要因の一つ。
出典
- ^ World Bank Open Data >Data Catalog > World Development Indicators > Tables >1.2 Poverty rates at international poverty lines, 世界銀行, (2020-10-13) 2021年1月11日閲覧。
- ^ a b PovcalNet Regional aggregation using 2011 PPP and $1.9/day poverty line, 世界銀行, (2020-09-10) 2021年1月11日閲覧。
- ^ 2016 Global Hunger Index chapter2 Global, regional, and national trends, International Food Policy Research, (2016-10)
- ^ a b c d Healthy life expectancy (HALE) at birth, WHO, (2020-12-04) 2021年3月15日閲覧。
- ^ “Human Development Report 2019 – "Human Development Indices and Indicators"”. HDRO (Human Development Report Office) United Nations Development Programme. pp. 22–25. 2019年12月9日閲覧。
- ^ 関根由紀「日本の貧困--増える働く貧困層 (特集 貧困と労働)」『日本労働研究雑誌』第49巻第6号、労働政策研究・研修機構、2007年6月、 21頁、 NAID 40015509240。
- ^ a b 独立行政法人農業環境技術研究所「情報:農業と環境 No.104 (2008年12月1日) 化学肥料の功績と土壌肥料学」
- ^ 山野良一(2014)『子どもに貧困を押しつける国・日本』、光文社(光文社新書)、p.31
- ^ 男女共同参画社会の形成の状況内閣府男女共同参画局
- ^ 石井光太『絶対貧困-世界最貧民の目線』光文社 2009年 ISBN 9784334975623 pp.35-38.
- ^ “World Economic Outlook Database, October 2020” (英語). IMF (2020年10月). 2021年3月16日閲覧。
- ^ “2021 CIA World Fact Book Infant mortality rate” (英語). CIA (2021年). 2021年3月16日閲覧。
- ^ 教育における差別を禁止する条約
- ^ ジェフリー・サックス『貧困の終焉――2025年までに世界を変える』、鈴木主税・野中邦子共訳、早川書房、2006年。
- ^ 原田泰・大和総研 『新社会人に効く日本経済入門』 毎日新聞社〈毎日ビジネスブックス〉、2009年、33頁。
- ^ a b How globalization begets inequalityS. Garlock, Harvard Magazine, March-April 2015
- ^ ポール・コリアー『最底辺の10億人: 最も貧しい国々のために本当になすべきことは何か?』中谷和男訳、日経BP社、2008年
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