誤謬 誤謬と合理性

誤謬

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/09/22 23:16 UTC 版)

誤謬と合理性

私たちはそれが全くのデタラメであると知って信じることはない。誤謬がその一面においてもっともらしさ、合理性を持っているということを認めるならば、我々が誤謬を克服するには「誤謬はバカげたもの」「ついうっかりから間違えた」「知識の不足」等によって生じたものに過ぎないという常識的な見方を変えなくてはならない[4]。誤謬がもっともらしい、合理的だと考えられるのはそれが確認されている真理(事実)に基づいており、それを支える事実があると思われるからである。すなわち我々が誤謬に陥いったときにも、初めは真理と事実の上に立っていたのである[2]。真理と事実から出発しても誤謬に陥るのは、真理というものは常に条件的にのみ真理であるということを忘れるからである[注 2]

我々が誤謬に陥らないためには、ある事実、真理から出発するときにその条件に十分注意して推論することが大事である。ではそのような注意をすれば我々は一切の誤謬を無くすことができるかといえばそれは否である[6]。微視的領域では古典力学が成立しないという認識は、古典力学をそこに適用して失敗することで初めて明らかになったことである。我々が自然を認識しようとするときには誤謬はつきものであり、本質的なものである。それは対象が無限に多様であることに対して、我々の認識そのものは限界があることによる[7]

誤謬を恐れずに自然に働きかけ、誤謬から学ぶことが認識を深める唯一の基礎である。また我々が決して克服できない誤謬もある。それは自然そのものの中に矛盾を持っている場合である[注 3]。そのためこのような誤謬の克服には弁証法を必要とする[8]


  1. ^ 「Fallacyの訳語は色々ある、似而非推論、誤謬、謬論、過誤論、論過、謬見、不正論、謬見、相似、虚偽等であつてまちまちである、適当な訳語に苦んで居るやうに思はれる、著者は「曲論」と訳した。」(荒木良造『詭弁と其研究』、「凡例」、内外出版、1922年)。他に、心理学用語等では「錯誤」とも訳されるがこの二字はerrorの訳語にも当てられるので紛らわしく、その点は「誤謬」や単に「誤り」とする訳し方も同じ問題がある。最も早く最も普及した訳語は「虚偽」であり、井上哲次郎編『哲学字彙』(1881年)34ページに掲げられ、以来、文部省『学術用語集 論理学編』(大日本図書、1965年)で「虚偽」に統一され、平凡社『哲学事典』1971年に「虚偽」で、『岩波 哲学・思想事典』1998年には「虚偽論」で立項されている。
  2. ^ たとえばパスツールは生物の自然発生説を打ち破ったが、これから「いついかなるときでも無生物から生物は発生しない」とするならばそれは誤りである。地球上のある時期には無生物から生物が発生したからである。またニュートン力学は真理であるといっても、それは量子力学や相対性理論の領域まで真理であるのではない。これらの理論はその適用範囲を超えて用いられるならたちまち誤謬となる[5]
  3. ^ たとえば光は波と粒子の性質を持つとされるが、光は波動であるとすればそれは誤りであり、粒子であるとしても誤りである。両者を折衷しても問題は解決しない[8]
  1. ^ (Grootendorst van Eemeren (1992), p.[要ページ番号]
  2. ^ a b 板倉聖宣 1953, pp. 66–67.
  3. ^ 麻柄啓一 1988.
  4. ^ 板倉聖宣 1953, p. 67.
  5. ^ 板倉聖宣 1953, p. 68.
  6. ^ 板倉聖宣 1953, pp. 69–70.
  7. ^ 板倉聖宣 1953, p. 70.
  8. ^ a b 板倉聖宣 1953, p. 71.


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