複雑性 複雑性の概要

複雑性

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/09/12 06:14 UTC 版)

定義

複雑性の定義は、「システム」の概念と結び付けられていることが多い。システムとは部品や要素の集合であり、その部品や要素には互いに関係があり、システム外の要素とは関係の質が異なる。多くの定義は、システム内の多数の要素の状態とその要素間の関係の様々な形態を表現するのが複雑性という言葉だと仮定する傾向がある。同時に、何が複雑で何が単純なのかは相対的であり、その場その場で変化する。

定義によっては、システムの特徴が指定されたとき、与えられたシステム状態に遭遇する確率の問題に焦点を合わせている。ウォーレン・ウィーバーは、システムの部品毎の属性が与えられたとき、システム全体の属性を予測する困難さの度合いを複雑性であるとした。ウィーバーの観点では、複雑性は組織化されていない複雑性 (disorganized complexity) と組織化された複雑性 (organized complexity) という2つの形態に分類される[1]。ウィーバーの論文はその後の複雑性の研究に影響を与えている[2]

システム、複数の要素、複数の関係の型、状態空間といった概念を具体化するアプローチは、定義されたシステム内の識別可能な関係の型(およびそれらの関連する状態空間)の数を複雑性とすることを暗に示していると言えるかもしれない。

定義によっては複雑な現象やモデルや数式を説明するアルゴリズムとの関係が深いものもある。

マサチューセッツ工科大学セス・ロイドは、複雑性の定義を32種類集めてプレゼンテーションしたことがあるという[3]

組織化されていない複雑性と組織化された複雑性

複雑性に関連した問題の1つは、無作為に選んだ事物の関係の豊富なバリエーションとシステム内の要素間の関係の概念的な区別である。システムには制約があり、要素のバリエーションも減少すると同時に、より一様または相関する関係や相互作用の識別可能な型 (regimes) を生成する。

ウィーバーはこの問題に気づいており、少なくとも予備的な方法でそれに対処した。それが「組織化されていない複雑性」と「組織化された複雑性」の区別である。

ウィーバーの観点では、組織化されていない複雑性は非常に多数の部品(例えば数百万やそれ以上の部品)を持つシステムから生じる。「組織化されていない複雑性」における部品間の相互作用は大部分が無作為に見えるが、システム全体の特性は確率論や統計学的手法により理解できる。

組織化されていない複雑性の好例として、コンテナに詰めたガスがある。この場合ガスの分子がシステムの部品に相当する。

ウィーバーの観点では、組織化された複雑性では部品間の相互作用は全く無作為的ではなく相関している。これらの非無作為的かつ相関的な関係は明確に区別される構造を生成し、それがシステムと呼ばれ、他のシステムと相互作用する。調整されたシステムは個々の部品にはない特性を明確に示す。主体的なシステム以外のシステムでこのような組織化された複雑性がある場合、何らかの「導きの手 (guiding hand)」が無いなら「創発」と言う事ができる。

システムが創発的特性を示すかどうかという点に、部品数はあまり重要ではない。組織化された複雑性のシステムがどのような特性を示すかは、モデリングシミュレーション、特にコンピュータを使ったモデリングやシミュレーションで理解できる場合もある。組織化された複雑性の例としては、都市近郊の生活のメカニズムがある。この場合、システムの部品に相当するのは近郊に住む人々である[4]

複雑性の源と要因

組織化されていない複雑性の源は、システムの部品数が膨大で、システム内の要素間の相関が欠如していることである。

組織化された複雑性の源については今のところ統一的な見解は存在しないが、無作為的でないということは要素間に相関があることを暗示している。例えば、Robert Ulanowicz による生態系の扱いを参照[5]。組織化されていない複雑性と同じく、システムの部品数や部品間の関係の数が重要かもしれないが、重要か重要でないかを区別する統一的な規則は存在しない。

オブジェクトあるいはシステムの複雑性は相対的特性である。例えば、計算問題の複雑性を計算にかかる時間としたとき、テープが1本のチューリングマシンよりもテープが複数本のチューリングマシンの方が計算にかかる時間が少なくなる。ランダムアクセス機械はさらに時間を削減でき[6]、帰納的チューリングマシンは関数や言語や集合の複雑性クラスさえも減少させることができる[7]。このようにツールの選択が複雑性の重要な要因となりうる。


  1. ^ Weaver, Warren (1948), “Science and Complexity”, American Scientist 36: 536 (Retrieved on 2007–11–21.), http://www.ceptualinstitute.com/genre/weaver/weaver-1947b.htm 
  2. ^ Johnson, Steven (2001). Emergence: the connected lives of ants, brains, cities, and software. New York: Scribner. pp. p.46. ISBN 0-684-86875-X 
  3. ^ Lloyd, Seth (2006). Programming the Universe. Knopf. ISBN 978-1400033867 
  4. ^ Jacobs, Jane (1961). The Death and Life of Great American Cities. New York: Random House 
  5. ^ Ulanowicz, Robert, "Ecology, the Ascendant Perspective", Columbia, 1997
  6. ^ Greenlaw, N. and Hoover, H.J. Fundamentals of the Theory of Computation, Morgan Kauffman Publishers, San Francisco, 1998
  7. ^ a b Mark Burgin (2005), Super-recursive algorithms, Monographs in computer science, Springer.
  8. ^ Blum, M. (1967) On the Size of Machines, Information and Control, v. 11, pp. 257-265
  9. ^ Burgin, M. (1982) Generalized Kolmogorov complexity and duality in theory of computations, Notices of the Russian Academy of Sciences, v.25, No. 3, pp.19-23
  10. ^ Burgin, M. and Debnath, N. Hardship of Program Utilization and User-Friendly Software, in Proceedings of the International Conference “Computer Applications in Industry and Engineering”, Las Vegas, Nevada, 2003, pp. 314-317
  11. ^ Debnath, N.C. and Burgin, M., (2003) Software Metrics from the Algorithmic Perspective, in Proceedings of the ISCA 18th International Conference “Computers and their Applications”, Honolulu, Hawaii, pp. 279-282
  12. ^ Johnson, Neil F. (2007). Two’s Company, Three is Complexity: A simple guide to the science of all sciences. Oxford: Oneworld. ISBN 978-1-85168-488-5 
  13. ^ Lissack, Michael R.; Johan Roos (2000). The Next Common Sense, The e-Manager’s Guide to Mastering Complexity. Intercultural Press. ISBN 9781857882353 


「複雑性」の続きの解説一覧




複雑性と同じ種類の言葉


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「複雑性」の関連用語

複雑性のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



複雑性のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの複雑性 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS