妖怪 語彙と語義

妖怪

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/21 09:37 UTC 版)

語彙と語義

日本

妖怪のほかに古文献などでは妖恠・夭怪など異体字を含めた表記例もみられる。妖(夭、あやかし)・変化(へんげ)・妖怪変化・お化け(化け物、化け)・化生(けしょう)・妖異・怪異・怪物百鬼魑魅魍魎(ちみもうりょう)・魔物憑き物物の怪(勿の怪、物の気、もののけ)なども同様な意味で使われる。

奈良時代など古代の日本では、漢語を通じて得られた知識にしたがい「妖怪」という語は「怪しい奇妙な現象」を表していたが、様々な神や伝承怪談宗教や価値観と結びつき、詳細の解らない現象を、具体的な形を持ったものの仕業としたため「怪異を起こす存在」を妖怪と呼ぶようになったと考えられる。

  • 宝亀8年(772年) - 『続日本紀』に「大祓、宮中にしきりに、妖怪あるためなり」という記述があり、同様になにかの物を指すのではなく、怪奇現象を表す言葉として妖怪を用いている。
  • 平安時代中期 - 清少納言は『枕草子』のなかで「いと執念き御もののけに侍るめり」と記し、紫式部も「御もののけのいみじうこはきなりけり」という記述を残しており、「もののけ」という言葉がこの頃に登場する。
  • 応安3年(1370年)頃 - 『太平記』の第5巻には「相模入道かかる妖怪にも驚かず」という記述がある。

海外で伝承される魔物妖精の類も翻訳されることによって「妖怪」として扱われることがあり、日本で「妖怪」と称されるカテゴリーへ内包される対象は洋の東西を問わない。西洋吸血鬼狼男や、古代中国の『山海経』に見られる禽獣などを俗に「西洋妖怪」・「中国妖怪」と総称する例もある。日本の風俗から外れた、海外の魔物を「妖怪」と呼び習わすのは、こうした日本以外の文化が様々な時代に流入し、ある程度の歴史を持っているからである。英語圏などでは区別されることのあるFairyフェアリー/妖精)とMonsterモンスター)の区別は日本においては曖昧であり、両者は包括されて取り扱われる。怪物(モンスター)については、日本の民間信仰で伝承されていないもの、また創作の妖怪で歴史の浅いものや、海外の民間伝承に登場するもの。または、正体の解らない不気味な生き物として、フィクションの上での、宇宙生物や未確認生物を指す傾向もある。

中国・朝鮮

中国では、妖精や精霊精怪といった語が日本でいうところの「妖怪」に近い言葉として用いられている。ほかに魅(邪魅、妖魅、鬼魅、老魅)、妖鬼・妖魔・妖霊・妖厲[39]などの語がある。「鬼」は幽霊、霊鬼という意味でつかわれており日本語における「おに」のイメージとは差異が見られる。妖精や鬼など、同じ漢字であってもその意味合いやイメージに異なるものも存在しているのは他の日本語と中国語の関係と同様である。

  • 1世紀初頭 - 今の中国の書物『循史伝』に「久之 宮中数有妖恠(妖怪) 王以問遂 遂以為有大憂 宮室将空」という記述があり、「人知を超えた奇怪な現象」という意味で、妖怪という言葉が使われている。

朝鮮半島では、鬼・鬼神・鬼変、妖怪、妖鬼、妖物、霊怪などの語が文献に見られる。15世紀に書かれた伝奇小説『金鰲新話』には中国の説を引いた妖怪・鬼の解説を説いた場面なども見られ、「妖」を「物に依るもの」、「魅」を「物を惑わすもの」であるなどと描写している[40]

欧州

fairy:妖精

ヨーロッパの「fairy」(フェアリー)は日本では一般的に妖精と翻訳されることが多いが、文化人類学などでは妖怪も妖精も包括されて扱われている。また現在の日本文化としての「妖怪」が紹介される際には「monster」:怪物と翻訳されることも多い。これらの語義の違いは、背景となる自然に対する姿勢や歴史性はもちろんだが、翻訳とニュアンスに留まるところが多いため翻訳される語同士が完全に同義であるとはいえない。


注釈

  1. ^ 草双紙の分類の一つ。安永から文化にかけての約30年間に出版された。それまでの青本などに洒落本などの影響が加わり大人向けの言語遊戯などを取り入れた作品が多く見られた。
  2. ^ 古語では神留まる(かんづまる)
  3. ^ 磐境の境は境界や坂を意味し、このときの坂も神域との境界の意味を持つ。
  4. ^ 神籬の籬も垣の意味で、同様に神域との境界を意味する。
  5. ^ 結界としての神祭具でもある。
  6. ^ ヨーロッパやその他の大陸は、城壁の中に居住していることが多く、集落と自然環境が隔絶されている。
  7. ^ 町奉行が管轄した町場()に設けられた、時間制限で閉じられてしまう集落の出入り口にある門。門限の語源となっている。
  8. ^ 配置や間取りや構造が、自然と居住空間の境が曖昧な作りになっている。

出典

  1. ^ 宮田登 2002, p. 24、小松和彦 2015, p. 53
  2. ^ 宮田登 2002, p. 24、小松和彦 2015, p. 48-49
  3. ^ 近藤瑞木・佐伯 孝弘 2007
  4. ^ 小松和彦 2015, p. 24
  5. ^ 小松和彦 2011, p. 16
  6. ^ 小松和彦 2011, p. 16-18
  7. ^ 宮田登 2002, p. 14、小松和彦 2015, p. 201-204
  8. ^ 宮田登 2002, p. 12-14、小松和彦 2015, p. 205-207
  9. ^ a b c 小松和彦 2011, p. 21-22
  10. ^ 小松和彦 2011, p. 188-189
  11. ^ 民俗学研究所『綜合日本民俗語彙』第5巻 平凡社 1956年 403-407頁 索引では「霊怪」という部門の中に「霊怪」「妖怪」「憑物」が小部門として存在している。
  12. ^ a b 小松和彦 2011, p. 20
  13. ^ 『今昔物語集』巻14の42「尊勝陀羅尼の験力によりて鬼の難を遁るる事」
  14. ^ 小松和彦 2011, p. 78
  15. ^ 小松和彦 2011, p. 21
  16. ^ 小松和彦 2015, p. 46
  17. ^ 小松和彦 2015, p. 213
  18. ^ 宮田登 2002, p. 12、小松和彦 2015, p. 200
  19. ^ a b 太刀川清 『百物語怪談集成』国書刊行会、1987年、365-367頁。 
  20. ^ 世説故事苑 3巻”. 2015年12月16日閲覧。
  21. ^ 『江戸化物草紙』アダム・カバット校注・編、小学館、1999年2月、29頁。ISBN 978-4-09-362111-3 
  22. ^ 『『江戸怪談集 上』』高田衛岩波書店、1989年、369-397頁。ISBN 4-00-302571-7 
  23. ^ 尾崎久弥 編著 『大江戸怪奇画帖 完本・怪奇草双紙画譜』国書刊行会、2001年、5頁。 
  24. ^ 石川純一郎 『新版 河童の世界』時事通信社、1985年、27-34頁。ISBN 4-7887-8515-3 
  25. ^ 兵庫県立歴史博物館,京都国際マンガミュージアム 『妖怪画の系譜』河出書房新社、2009年、58-59頁。ISBN 978-4-309-76125-1 
  26. ^ 石上敏 『森島中良集』国書刊行会、1994年、372-373頁。 
  27. ^ 多田克己 2008, p. 272-273
  28. ^ 湯本豪一 2008, p. 30-31
  29. ^ 湯本豪一 『今昔妖怪大鑑』パイインターナショナル、2013年、158頁。ISBN 978-4-7562-4337-9 
  30. ^ 渋谷保 訳補 『西洋妖怪奇談』博文館、1891年。"凡例"。 
  31. ^ 竹柴金作 『日本戯曲全集 河竹新七及竹柴其水集』春陽堂、1929年、716頁。 
  32. ^ 西本晃二『落語『死神』の世界』 青蛙房 2002年 289-290頁 ISBN 4-7905-0305-4
  33. ^ 泉鏡花 『夜叉ヶ池・天守物語』 岩波書店<岩波文庫> 134頁 1984年 ISBN 4-00-310273-8 澁澤龍彦「解説」
  34. ^ a b 山口敏太郎 2007, p. 9
  35. ^ 湯本豪一 2008, p. 2
  36. ^ a b c と学会 2007, p. 226-231
  37. ^ a b c 妖怪王(山口敏太郎)グループ 2003, p. 16-19
  38. ^ 水木しげる 1974, p. 17
  39. ^ 諸橋轍次 『大漢和辞典 巻三』大修館書店、1956年、645-647頁。 
  40. ^ 朝鮮総督府 編 『朝鮮の鬼神』国書刊行会、1972年、87-98頁。 






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