国際藻類・菌類・植物命名規約 先取権の原則の例外措置

国際藻類・菌類・植物命名規約

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/09 03:02 UTC 版)

先取権の原則の例外措置

先取権の原則は学名の有効性の確認には簡便で有益であるが、これを厳密に適用すると学名の安定性には不都合が生じる。すなわち、それまで広く一般に受け入れられていたよく知られる学名が、出自の怪しい学名によって覆されることもあり得るのである。このような事項はむしろ学名を使用する際の利便を失うとの考えから、命名規約には先取権の原則には制限や例外が盛り込まれている。

植物命名規約ではそのような場合に供えて、あらかじめ可能性のある学名について、保存するべき学名(保存名)、廃棄するべき学名(廃棄名)をリスト化しておくことで対処している。たとえば、新参異名であることが判明したとしても、保存名リストに載っていれば引き続きその種の学名として使用できるのである。このリストは不変ではないが、変更には常設命名法委員会全体委員会の承認が必要となる。

また規約では、特定の著書に記される学名をその著者によって「認可されている」と定義している。認可名と呼ばれるこれらの名前は、保存名と同じように扱われる。ただし、保存と廃棄は認可に対して優先される。

他の命名規約との関連

植物・原核生物・動物それぞれの命名規約は互いに独立しており、学名の規定に関する細部は規約ごとに異なる。これらを総括する規約は現在のところ存在しない。ただし、これらを統一して "Bio Code" や "bionomenclature" と呼ばれるものを制定しようという運動はあり、試案も作成されたことがある。そのための歩み寄りも各分野で少しずつ行われており、植物では門の名称への phylum の認可、(僅差で否決されたものの)種小名は人名由来であろうと必ず小文字からはじめる、などの提案がそれに当たる。しかしながら、その統一への道のりは果てしなく遠い。ただ、規約の規定機関については、植物には国際生物科学連合 (International Union of Biological Sciences, IUBS) への移管が視野におかれた条項の規定がすでになされている。

このような状況のため、同じ規約の下なら禁則とある同名Homonymum)が、別の規約下で共存している例は稀でない。例えば Oenanthe 属は植物ではセリ科セリ属、動物ではヒタキ科サバクヒタキ属を指す。一応、現在では他の規約で既に発表された名前は命名を控えるべきと勧告されている。

植物命名規約と動物命名規約の規約上の差異の例については藻類・菌類・植物命名規約と動物命名規約のおもな相違点を参照。

用語

国際植物命名規約で使用されている、学名についての用語をいくつか解説と共に挙げる。略号は語句の対応する規約の条項を示す。また、動物命名規約で相当する語句の呼称が異なるものについては並記しておいた。以下の解説に現れる「同タイプ異名」「二次同名」など、異名同名の種類とその説明については各リンク先を参照のこと。

  • (ICBN 1.23. ):国際植物命名規約セントルイス規約・第1.23条
正名 (correct name)
そのタクソンに対して唯一正しいと考えられる学名。もちろん人によって何を正名とするかの見解が異なることは多い。合法名の中から後続異タイプ異名 (later heterotypic synonym) や後続二次同名 (later secondary homonym) などを除いて選択される。動物命名規約での「有効名」 (valid name) に相当する (ICBN I.IV.)。
合法名 (legitimate name)
正式発表された学名のうち、非合法でないもの。動物命名規約での「潜在的な有効名」 (potentially valid name) に相当する。ある人にとっての「正名」は別の人にとってはただの合法名に過ぎないこともある (ICBN 6.5.)。
非合法名 (illegitimate name)
正式発表された学名のうち、以下のようなもので、保存名や認可名に指定されていないものを指す。動物命名規約での「客観的無効名」 (objective invalid name) に相当する (ICBN 6.4.)。
  • 後続同タイプ異名 (later homotypic synonym) であると判明したもの。
  • 後続一次同名 (later primary homonym) であると判明したもの。
  • また、それらに基づいて作られた科・亜科などの階級群名。
正式発表された学名 (validly published name)
有効発表された学名が以下のような条件を満たすことをいう。動物命名規約での「適格名」 (available name) に相当する (ICBN 32.-45.)。
  • 起点日時以降に有効に発表されている。
  • 各分類階級の守るべき書式(アルファベット強制使用、共通語尾など)を守っている。
  • 適切な記載文・判別文を伴っている。
  • その他の細目(記載の言語、模式標本の指定等)を満たしている (ICBN 33.-45.,61.)。
有効発表された学名 (effective published name)
本規約においては、公共性を持った適切な媒体に発表されている学名を指す。ただし、有効ではあっても正式に発表されない限り本規約では取り扱われない (ICBN 29.-31.)。

注釈

  1. ^ ここではいくつかのルールが出てくるので、 loi(フランス語、lois は複数形。英語の law に相当)は「法」(法律の法ではなく法則の法)、rule は「規則」、code は「規約」とした。
  2. ^ 第6回会議を受けたアムステルダム規約の発行が遅れたのは第二次世界大戦の影響である。

出典

  1. ^ Daniel Cressey (2011年7月20日). “Botanists shred paperwork in taxonomy reforms”. Nature News. doi:10.1038/news.2011.428. http://www.nature.com/news/2011/110720/full/news.2011.428.html 2011年7月22日閲覧。 
  2. ^ May, T.W., et al. (2019). “Chapter F of the International Code of Nomenclature for algae, fungi, and plants as approved by the 11th International Mycological Congress, San Juan, Puerto Rico, July 2018”. IMA Fungus 10: 21. doi:10.1186/s43008-019-0019-1. 


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