制約条件の理論 継続的改善プロセス

制約条件の理論

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/12/24 07:00 UTC 版)

継続的改善プロセス

制約の改善を継続するために、TOCでは「5つの集中ステップ(The Five Focusing Steps)」を提唱している[16]。以下は『ザ・ゴール』で記述されている「5つの集中ステップ」である[17]

  1. ボトルネックを見つける。
  2. ボトルネックをどう活用するか決める
  3. 他のすべてをステップ2の決定に従わせる
  4. ボトルネックの能力を高める
  5. ステップ4でボトルネックが解消したら、ステップ1に戻る

このステップで重要な点は、制約以外の改善には取り組まないことだ。ゴールドラットは『The Haystack Syndrome』の中で、制約と非制約の区別を欠いた意思決定が、組織全体に大きなダメージを与えることを説明している。ゴールドラットは「TOCの真髄を一言で言うなら、集中である。しかしその意味は、辞書に書かれている意味とはいささか異なる。やらないことを決めることこそがTOCでいう集中である」とも語っている[18]

ちなみに『ザ・ゴール』の原書の副題が、本節のタイトルにもなっている「A Process of Ongoing Improvement(継続的改善プロセス)」である[19]

TOC 思考プロセス

思考プロセスはプロジェクトの開始と実施の各ステップ間を管理者がくぐりぬけるのを助ける一群のツールである。思考ツールの論理的フローでの使用は、説得のプロセス:

  1. 問題について同意を得る
  2. 解法の方向について同意を得る
  3. その解法が問題を解決できることについて同意を得る
  4. いかなる潜在的否定的波及効果も克服することに同意する
  5. 実施する際のいかなる障害も克服することに同意する

を進める助けになる。

TOCの実践者は、抵抗層としてはたらくマイナス面を変えるために、これらを参照する。

思考プロセスは、ゴールドラットその他によって成文化されている

現状構造ツリー (Current Reality Tree = CRT, 多くの組織で使われている現状マップに類似)
好ましくない結果 undesirable effects (UDE, ギャップ要素としても知られる)のあいだの因果関係のネットワークを評価して、好ましくない結果のほとんどの根本原因(複数可)を突きとめるのを助ける。
蒸発する雲 (Evaporating cloud 対立解消図 conflict resolution diagram または CRD)
好ましくない状況の原因をいつも持続させている対立を解消する。
中核対立の雲 (Core Conflict Cloud = CCC)
いくつかのUDEをもとにした、対立の雲の組み合わせ。好ましくない結果を作り出しているより深い対立を探すこと。
未来構造ツリー (Future Reality Tree = FRT, 将来マップに類似)
CRTのなかで明らかになった原因の解消のために、また、CRDのなかの対立を解決するために、いくつかの行動(インジェクション)がいったん(かならずしも詳細でなくても)選ばれるとき、FRTがシステムの将来の状態を提示する。FRTはその変化のありうる否定的な結果(ネガティブブランチ)を識別することを助ける。FRTは変化が実施される前にその変化を熟成させることを助ける。
ネガティブブランチ (Negative Branch Reservations = NBR)
任意の行動(インジェクション、または生焼けのアイディア)についての潜在的な否定的影響を識別する。NBRのゴールは、行動と否定的影響の因果の経路を理解し、その否定的効果を追い出せるようにすることである。
ポジティブ強化ループ (Positive Reinforcement Loop = PRL)
好ましい結果 desired effect (DE) がFRT中にあり、ツリーの最初のほう(低いほう)にある中間物 intermediate objective (IO) を増幅すること。中間物が強化されているあいだ、それはこのDEに肯定的に影響する。PRLが見つかる場合、FRTは長持ちする。
前提条件ツリー (Prerequisite Tree = PRT)
選ばれた行動を遂行し、プロセス中に発生するだろう障害を克服するのに必要なすべての中間物の状態。
移行ツリー (Transition Tree = TT)
変化(PRTで概要が示されていてもいなくても)を実施する計画を完遂するために指導的となる行動の詳細を記述する。
戦略と戦術 (Strategy & Tactics = S&T)
成功する実施およびPOOGI(Process of Ongoing Improvement 継続的改善プロセス)によって進行中のループをもたらす全体的なプロジェクトの計画および測定基準。

何人かの観察者は、これらのプロセスは基本的にはPDCA"Plan-Do-Check-Act"(checkがただ見ることであるのに対してstudyが積極的な取り組みを育むことから、現在ではPDSA "Plan-Do-Study-Act"とされることも多い)や"Survey-Assess-Decide-Implement-Evaluate"のような、他のいくつかの管理の変化モデルと大きく違ってはいないと書いている。しかしこの方法はより明確で直接的である。これについてはWilliam Dettmer 「Goldratt's Theory of Constraints - A Systems Approach to Continuous ImprovementISBN 0-87389-370-0 (日本語訳は H.ウイリアム デトマー『ゴールドラット博士の論理思考プロセス―TOCで最強の会社を創り出せ!』内山 春幸 訳、中井 洋子 訳 ISBN 4-4960-4098-0) に詳しい。

スループット会計

スループット会計は制約条件の理論にリンクされた特定の会計方法論のことである。スループット会計は、ある人が吟味する製品と操作の変化のインパクトをビジネスのスループットにおけるインパクトとして語ることを示唆する。これは原価会計に代わるものである。


  1. ^ a b c d 岸良裕司 (2017). “全体最適のマネジメント理論TOC”. IEレビュー 301: 45-55. 
  2. ^ 「全体最適のマネジメント理論TOC」(岸良)と同様の趣旨の論文「全体最適のマネジメント理論 TOC 科学的理論を定義する『仮説の論理構造』とよりよい社会への可能性」(https://www.tocclub.net/performance_06.html)がインターネット上でも公開されている。
  3. ^ 日本TOC推進協議会(http://www.j-toc.jp/index.html)、全体最適の行政マネジメント研究会(http://tocgyousei.sakura.ne.jp/main/abouttoc.html)、教育のためのTOC 日本支部(https://tocforeducation.org/about/)、TOCPA Japan(https://tocpractice-japan.com/tocpa-japan/)が「制約理論」と表記。日本TOC協会(https://japan-toc-association.org/toc/basic_concept)は「『制約理論』または『制約条件の理論』」としている。
  4. ^ サプライチェーンの原点TOCとは何か”. ITmedia. 2020年12月25日閲覧。
  5. ^ ITレポート(キーワード3分講座)TOC”. 日経クロステック. 2020年12月25日閲覧。
  6. ^ エリヤフ・ゴールドラット「巨人の肩に立って」”. 何が、会社の目的を妨げるのか. ダイヤモンド社. (2013/2/22). ISBN 978-4478024010 
  7. ^ 「『トヨタ生産方式』の著者、大野耐一氏 ゴールドラット博士について語る」(動画、1分30秒あたりでゴールドラットについて語っている)『TOCクラブ』。 https://www.tocclub.net/19841129_ohno.html
  8. ^ 村上悟. “利益創出! TOCの基本を学ぶ(1):制約条件に着目した業績改善手法、TOCとは? (3/3)”. @IT MONOist. アイティメディア. 2020年12月25日閲覧。
  9. ^ 「エリヤフ・ゴールラット 何が、会社の目的を妨げるのか」(ダイヤモンド社)において、ゴールドラットの息子でゴールドラットグループのトップを務めるラミ・ゴールドラットが執筆した序文(はじめに)のタイトルが「日本を愛してやまなかった父の危惧」である。
  10. ^ 何が、会社の目的を妨げるのか. ダイヤモンド社. (2013/2/22). p. 4 
  11. ^ ゴールドラットグループの中核会社である、イスラエルに本拠を置くゴールドラット・コンサルティングの「会社紹介」。 (https://goldrattgroup.com/about/)
  12. ^ 岸良裕司 (2019/4/4). 優れた発想はなぜゴミ箱に捨てられるのか? 限界を突破するTOCイノベーションプロセス. ダイヤモンド社 
  13. ^ Kristen Cox; Yishai Ashlag (2018). Stop Decorating the Fish. North River Press 
  14. ^ アレックス・ナイト (2019). Pride and Joy プライド アンド ジョイ 誇りと喜びを取り戻す病院経営. 株式会社メディカルトリビューン 
  15. ^ 例えば、日本TOC推進協議会が「トップページ」でパブリックドメインである旨を掲載している。(http://www.j-toc.jp/
  16. ^ a b エリヤフ・ゴールドラット「TOCとは何か」、「エリヤフ・ゴールラット 何が、会社の目的を妨げるのか」(ダイヤモンド社)に収録されている論文。
  17. ^ エリヤフ・ゴールラット (2001/5/18). ザ・ゴール ― 企業の究極の目的とは何か. ダイヤモンド社. p. 464-465 
  18. ^ エリヤフ・ゴールドラット 何が、会社の目的を妨げるのか. ダイヤモンド社. (2013/2/22). p. 57 
  19. ^ The Goal: A Process of Ongoing Improvement. North River Press. (2012) 





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