典拠管理 協調的管理

典拠管理

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/09/21 09:24 UTC 版)

協調的管理

従来、書誌データや典拠ファイルは図書館ごとに管理されていたが、国家単位でデータをまとめる取り組みが盛んになった。日本国では国会図書館により『日本全国書誌』が刊行されており、またWorld Wide Web (WWW) を通じてアクセス可能な典拠ファイルとして『Web NDL Authorities』にて個人名・家族名・団体名・地名・統一タイトル・普通件名の典拠ファイルが提供されている[8]

2003年には、各国で構築されたデータを相互リンクして世界規模の典拠ファイルを構築する『バーチャル国際典拠ファイル』 (VIAF) がOnline Computer Library Centerドイツ国立図書館アメリカ議会図書館により始められた。その後参加機構は拡大し、2014年11月現在では26カ国から、『Web NDL Authorities』も含む35の国立図書館・文献サービスが参加している[14]。図書館の典拠ファイルのみならず、ウィキペディアのファイルをロードする試行も行われている[14]

なお、VIAFでは各国で付与された識別子の情報を残した上で、VIAFとしての識別子を付与しており、これにより各国の典拠ファイルが横断的にリンクされている[11]。例えば「#概要」節で例示したシェイクスピアのNDLレコード中の「NDL|00456207 (VIAF)」というリンクにも見られるように、他サービスのIDはそのままVIAFのレコードへのアクセスポイントとなる。

メリット・デメリット

典拠やアクセスを管理することによって得られるメリットには、以下のような点があげられる。

利用者にとっての利便性の向上
資料を探す労力が軽減される。集中機能により、関連する文献が一覧できる。加えて、典拠ファイルそのものが簡易的な事典の役割も果たす(「情報機能」)[注 4]。個人の生没年や、団体の名称の変遷を知ることができるほか、主題典拠では、念頭にあった概念より広義または狭義の単語を知ることができる。[16]
図書館運営の効率向上
典拠ファイルが提供する構造化された情報は、図書目録を整備する側にとって有用な情報となる。[16]
セマンティック・ウェブへの貢献
典拠ファイルが機械読み取り可能な形でオンライン提供されることは、WWW上の情報資源に意味の明確なデータを付与して機械的な意味処理を目指すセマンティック・ウェブの技術の進展に向けても有効活用できるものであり[12][8]、図書館管理業務の枠を超えて有用なものになることが期待される[11]

一方で、典拠を管理する行為自体にかかる作業負担やコストを無視することはできない。近年のオンライン資料の増加は網羅されるべき対象を爆発的に増大させている。これに対応するためには多くの機関の間での連携が必要になるが、そのためにはシステムの相互運用性を確保する必要がある[5]。元来、図書目録はその図書館内で完結するものであった経緯などから、データの共有に向けての課題は多い。

また、典拠管理が有効に働くためにはデータベースが完璧に近い形である必要があり[5]、初期労力が大きい。そもそも出版や情報流通の変化にともないデータベースに要請される特性は絶えず変化し続け、人類の知識・文化体系が変化し続けることなどからすべての情報を網羅することは現実的に不可能であるが、それでもなお情報を整理し続けることは今日の図書館が担うべき任務であるとされる[17][18]

脚注


注釈

  1. ^ 識別や集中など図書目録が備えるべき役割と構造は、1961年に国際目録原則会議で採択された国際図書館連盟『原則覚書』(通称パリ原則)で規定されている[6]OPACの登場やオンラインによる目録にふさわしい原則として、2009年には新たに『国際目録原則覚書』が刊行されている[7]
  2. ^ 新『国際目録原則覚書』では「名称の異なる形」と呼ぶ[10]
  3. ^ 新『国際目録原則覚書』では「名称の典拠形」と呼ぶ[10]
  4. ^ ただしこれは副次的な機能にすぎない。典拠ファイルが事典のような情報を記録するのは、適切な標目の選択や重複・見逃しの防止、管理作業の手助けとするためにすぎない。[15]

出典

  1. ^ Michael Levine-Clar and Toni M. Carter, ALA Glossary of Library and Information Science, Fourth Edition, American Library Association, 2013, p. 22. ISBN 9780838911112
  2. ^ 図書館用語集』東京理科大学図書館、2014年11月16日閲覧
  3. ^ 用語集:典拠リスト」『科学技術情報流通技術基準 (SIST)』独立行政法人科学技術振興機構、2014年11月16日閲覧
  4. ^ 書誌データの基本方針と書誌調整:What's 書誌調整? 第1回 書誌調整とは?」『国立国会図書館月報』506号、2003年5月
  5. ^ a b c d e 渡邊隆弘「典拠コントロールの現状と将来」『情報の科学と技術』60巻9号371 - 377頁、2010年9月
  6. ^ Statement of principles : adopted by the International Conference on Cataloguing Principles Paris, October 1961, London : International Federation of Library Associations, 1963
  7. ^ 新『国際目録原則覚書』の日本語訳」『カレントアウェアネス・ポータル』国立国会図書館、2009年3月11日
  8. ^ a b c Web NDL Authorities について」『Web NDL Authorities』国立国会図書館、2014年11月16日閲覧
  9. ^ a b 典拠(もれなく探せます)」『本のデータのしくみ』東京都立図書館、2010年12月15日、2014年11月16日閲覧
  10. ^ a b c 国立国会図書館収集書誌部訳『国際目録原則覚書』国際図書館連盟(IFLA)目録分科会、2009年
  11. ^ a b c 渡邊隆弘「典拠コントロールとオントロジー : 豊かな情報アクセスのための基盤」『情報の科学と技術』61巻11号434 - 440頁、2011年11月
  12. ^ a b Robert H. Burger, "Artificial Intelligence and Authority Control", Library Resources and Technical Services, Vol. 28, No. 4, pp. 337-345, 1984
  13. ^ Linda Barnhart, "Access Control Records: Prospects and Challenges", Authority Control in the 21st Century: An Invitational Conference, 1996
  14. ^ a b バーチャル国際典拠ファイル』2014年11月16日閲覧
  15. ^ Karen Calhoun, "A Bird's Eye View of Authority Control in Cataloging", Proceedings of the Taxonomic Authority Files Workshop, Washington DC, 1998.
  16. ^ a b “Cataloguing authority control policy”. National Library of Australia. (2012年11月25日). http://www.nla.gov.au/policy-and-planning/authority-control 
  17. ^ 書誌データの基本方針と書誌調整:What's 書誌調整? 第9回 全国書誌は文化の鏡」『国立国会図書館月報』520号、2004年8月
  18. ^ Kathleen L. Wells, "Got Authorities? Why Authority Control Is Good for Your Library", Tennesee Libraries, Vol. 56, No. 2, 2006


「典拠管理」の続きの解説一覧



英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「典拠管理」の関連用語

典拠管理のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



典拠管理のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの典拠管理 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS