信号刺激
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/11 14:10 UTC 版)
この記事は検証可能な参考文献や出典が全く示されていないか、不十分です。2021年8月) ( |
概説
動物の本能行動は、さまざまな個々の反応や行動が、目的に合った形で一定の順番で組み合わされている。それらがどのような仕組みで行われるかについて、ニコ・ティンバーゲンは実験的な研究を行った。その結果、ある個体の表すごく限られた視覚的刺激などが、それを受け取った個体に決まった反応や行動を引き起こすきっかけとなっていることを見つけた。このような、特定の反応や行動を引き起こすきっかけとなる信号のことを、信号刺激と呼ぶ。モデルに取り組んではグレーのガチョウ役割撮影 オファーの信号刺激と呼ばれる。
具体例
ティンバーゲンの研究したトゲウオの一種イトヨでは、雄は繁殖期になると、腹面が真っ赤になり、水草をまとめて小鳥の巣のような巣を作る。雄はそのそばに陣取り、近くに雄がやってくると激しくつついて追い出す。つまり、縄張りを作る。雌が近づくと、巣へ誘って産卵させようとする。つまり、やってくる個体が雄であった場合と雌であった場合では対応する行動が異なっている。そこで、ティンバーゲンは雄に対する攻撃的な反応が何によって引き起こされるかを調べようとした。
まず試験管の中に雄をいれて縄張り内に持ち込んでみると、縄張り雄は試験管内のオスにガラス越しに攻撃をしかけてくる。ここから、攻撃行動は雄から分泌されている何らかの化学物質、言い換えれば「臭い」がきっかけではないことが分かる。そうなると雄の攻撃は視覚的情報によって引き起こされている可能性が高い。
そこでティンバーゲンは、魚の模型を棒の先に着け、縄張り内に持ち込んでみる実験を行なった。その結果、単色の模型では、それがどんな精巧なものでも反応しなかった。しかし模型の下側を赤く塗ってみると、みごと縄張り雄が攻撃を仕掛けてきた。さらには、魚の模型を簡単にして、単なる楕円形の模型に目を付け、下面を赤く塗るだけでも、縄張り雄は攻撃をかけてくることが分かった。それどころか、窓の外を通り過ぎる赤い郵便車に向かって威嚇姿勢を見せたことをティンバーゲンは記載している[1]。以上のことから、イトヨの雄は魚の姿を見て、雄が来たからどうとか判断している訳ではなく、下面が赤いかどうかだけを見て反応していることが分かる。
この場合、下面の赤い色が、雄が縄張り防衛行動としての攻撃を仕掛ける反応を誘発する信号刺激だと言うことができる。
また、雌に対する反応は、簡単な魚の形のモデルで、下側を赤く塗らず、大きく膨らませた形にすることで引き出せる。
なお、このようなモデルによる実験を行うと、実際にはあり得ないような姿のモデルが、現実の動物より強い刺激となる例がある。そのようなものを超正常刺激という。
連鎖的作用
上記のトゲウオにおいて、縄張りに入ったのが雌の場合、雄は雌の前で特有のジグザグダンスを繰り広げる。それを見た雌は、産卵の準備が整っていれば雄の後にしたがって巣に入り、産卵する。そうすると雄は雌の後について巣に入り、放精する。このように、互いの行動が相手の次の行動を誘発する形で、配偶行動が完結するまで続いて行く。
つまり、ある信号刺激がきっかけで本能行動が行なわれると、それが新たな信号刺激となり、次の本能行動を引き起こすという連鎖が、より複雑な本能行動を支えているものと考えられる。言い換えれば、本能行動は、全体で見れば極めて合目的的で動物にはその行動の意味が分かっているように見えるが、実際はそれぞれの局面においては単なる信号刺激に対する個体の反応でしかない。
- ^ P.J.B. スレーター(1994)『動物行動学入門』岩波書店
- ^ 久我羅内 『めざせイグ・ノーベル賞 傾向と対策』阪急コミュニケーションズ、2008年、26頁。ISBN 9784484082226 。
- 信号刺激のページへのリンク