ヤーコブ・ヨルダーンス タペストリのデザイン

ヤーコブ・ヨルダーンス

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/06/10 07:45 UTC 版)

タペストリのデザイン

ヨルダーンスがタペストリの習作として描いた『台所の情景』

ヨルダーンスのもっとも重要な作品群の中に、タペストリ製作用に描いた多くの習作がある。タペストリはルネサンス期からバロック期を通じて最上級の芸術品とされており、制作側からするともっとも利益の上がる芸術作品だった。大規模なタペストリは、ヨーロッパの有力貴族の邸宅の壁を飾るために14世紀から制作され始めている[42]。富裕な有力者たちはヨルダーンス、ルーベンス、コルトーナといった著名な芸術家を雇い、富や権力を誇示するために有名な歴史的人物や神話の登場人物に仮託した自分たちの肖像をタペストリに表現させた[42]。ヨルダーンスはこのタペストリの分野に力をいれ、その優れた技術とスタイルで多くのタペストリデザインの制作依頼を受けている。ヨルダーンスは当時のもっとも優れたタペストリデザイナの一人として高く評価されていた[43]

ヨルダーンスのタペストリ製作工程には、前準備としてドローイングやスケッチによる下絵の制作が含まれていた。仕上げた下絵をタペストリの原寸大のサイズに拡大し、油彩によってより詳細な描き込みがなされてから、タペストリを織り上げる職人へと渡された。ヨルダーンスが前準備の下絵を描くときにはほとんどの場合水彩顔料を使用している。ただし油彩顔料で下絵を描くこともあり、この場合にはキャリア後期のキャンバスに直接描いた時期以外は紙に油彩顔料で描いていた[44]。ヨルダーンスが制作に携わったタペストリの顧客は上流階級で、自らの社会的地位を表す象徴として旅行時や従軍時にも容易に持ち運びができることを特に重要視していた[45]

ヨルダーンスが依頼主をタペストリに表現した手法は多岐に渡り、ギリシア・ローマ神話、田園生活、シャルルマーニュの生涯など、様々なモチーフに仮託して依頼主をタペストリの登場人物として描き出した[46]。ヨルダーンスのタペストリデザインには多くの人物肖像がぎっしりと描きこまれていることが特徴で、その二次元的平面描写がタペストリに仕上がったときには表面の織柄を際立たせる役割を果たし、「織物絵画」ともいえるような効果となって表れている。ヨルダーンスが自身の風俗画にも好んで描いた画面いっぱいの多くの人物肖像を、タペストリのデザインにも持ち込んだのである[47]

タペストリの下絵として描かれた『台所の情景 (Interior of a Kitchen )』がヨルダーンスのタペストリ製作過程の好例となっている。茶色のインクが用いられ、テーブル上の食材は黒のパステルで輪郭が描かれ、さらに顔料が塗布されている。そして人物肖像は最後に描きいれられている。最終的に完成したタペストリのデザインは下絵の『台所の情景』から変更されているが、この下絵の構成要素をもとにした静物画を17世紀のアントウェルペンの画家フランス・スナイデルスが描いた。スナイデルすの静物画は、『台所の情景』に非常に忠実に再現している[48]








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