モナ・リザ (プラド美術館)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/10/30 08:37 UTC 版)
帰属
風景を覆い隠した黒い絵具のために、16世紀の第1四半期に制作されたレオナルド・ダ・ヴィンチの環境にある外国の複製であると信じられていた。2011年までは、北方ヨーロッパ(フランドル、オランダ、ドイツ)の絵画と関連する支持体のオーク材のパネルで制作されたと考えられていたが、イタリアではオーク材は用いられていなかった。しかし実施された調査では、実際にはイタリアで使用され、レオナルド・ダ・ヴィンチが『白貂を抱く貴婦人』、『ラ・ベル・フェロニエール』、『洗礼者聖ヨハネ』などの様々な絵画に使用したクルミ材であることが判明した。この調査結果は混乱をもたらし、美術史家ホセ・マリア・ルイス・マネロ(José María Ruiz Manero)でさえ、1992年に「スペインの16世紀のイタリア絵画」(Pintura italiana del siglo XVI en España)と題した論文で、16世紀にフランドルの画家によってフランスで制作された可能性が非常に高いと信じるようになった[14]。一方、フアン・J・ルナ(Juan J. Luna)はハンス・ホルバインに帰することが可能であると考えた[15]。
ロンバルディア派
プラド美術館の調査により、マドリード版はレオナルド・ダ・ヴィンチが『モナ・リザ』を描くのと同時に制作されたという結論に至った。複製はオリジナルの進捗状況と修正を反映した並行作業であった。これが制作者に関する説がレオナルド・ダ・ヴィンチの工房で働いた弟子のサークルに限定されている理由である。一部の美術史家は複製をレオナルド自身に帰属したが[16]、これは断固として否定された[4]。プラド美術館のアナ・ゴンザレス・モゾ(Ana González Mozo)は明確な個性を持ち、それゆえにマドリード版の様式とは異なっている、レオナルド・ダ・ヴィンチの協力者でありロンバルディア派の代表的な画家ジョヴァンニ・アントーニオ・ボルトラッフィオ、マルコ・ドッジョーノ、ジョバンニ・アンブロージオ・デ・プレディスへの帰属を否定している。ドッジョーノあるいはアンブロージオ・デ・プレディスはレオナルド・ダ・ヴィンチに基づく複製は制作していない[17]。
メルツィとサライ
フランス博物館研究修復センターの主任学芸員であるブルーノ・モッティン(Bruno Mottin)は、マドリード版がレオナルド・ダ・ヴィンチの2人のお気に入りの弟子の1人であるフランチェスコ・メルツィあるいはアンドレア・サライ(ジャン・ジャコモ・カプロッティ)によって制作されたと想定している[5][18][19]。サライは画家としてよりもレオナルド・ダ・ヴィンチとその工房のモデルとしてよく知られている。通常はサライに帰属される作品がいくつか知られているが、サライは絵画に署名しなかったため、マドリード版との比較が複雑になった。サライの作品の1つは、両性具有の外観を持つセミヌードの女性の肖像画『モナ・ヴァンナ』である(この作品の様々な複製の中で最も注目に値するのは、スイスの個人コレクションとエルミタージュ美術館に所蔵されているものである)。レオナルド・ダ・ヴィンチの作品を専門とする女性研究者兼作家のドロレス・ガルシア(Dolores García)は、この『モナ・ヴァンナ』とマドリード版の身体的特徴と技術の類似点、および他の要因により、サライをおそらく複製の制作者と見なすようになった。もっとも、批評家の中にはサライが描いたと考えるにはマドリード版は質が高すぎると考える人もいる。ガルシアによれば、メルツィは1506年から1507年にレオナルド・ダ・ヴィンチの工房に加わったため、本作品の制作にほとんど参加できなかったとのことである。フィレンツェの画家の主な専門家であるピエトロ・マラーニ(Pietro Marani)もサライまたはメルツィへ帰属を否定している[20]。
スペイン人の弟子
イタリアの専門家は、フェルナンド・イェーネス・デ・ラ・アルメディナやエルナンド・デ・ロス・リャノスのようなスペイン人の弟子を呼び起こすことを好む[20]。バレンシア地方で活躍した2人の画家はいずれもレオナルド・ダ・ヴィンチの弟子であり、前者はフレスコ画『アンギアーリの戦い』でレオナルド・ダ・ヴィンチと協力しなければならなかった。美術評論家アレッサンドロ・ヴェッツォシは1505年の文書はレオナルド・ダ・ヴィンチの工房に、フェルナンド・リャノス(Fernando Llanos, エルナンド・リャノスの変形)またはフェルナンド・ヤニェス・デラ・アルメディナの可能性がある「フェランド・スパニョーロ、ピットーレ」[11](Ferrando Spagnolo, pittore, 「フェランド・スパニョーロ」または「スペイン人、画家」の意)を含む特定のスペイン人の助手がいることを示していることに注意し、メルツィまたはサライへの帰属を否定している。
- ^ a b c d e “Mona Lisa”. プラド美術館公式サイト(スペイン語). 2021年8月14日閲覧。
- ^ “Mona Lisa”. プラド美術館公式サイト(英語). 2021年8月14日閲覧。
- ^ “Estudio técnico y restauración de La Gioconda del Museo del Prado”. プラド美術館公式チャンネル. 2020年9月25日閲覧。
- ^ a b “Une deuxième Joconde identifiée par le musée madrilène du Prado”. L'Obs公式サイト. 2021年8月14日閲覧。
- ^ a b “Une «vraie copie» de la Joconde authentifiée au musée du Prado à Madrid”. ラジオ・フランス・アンテルナショナル公式サイト. 2013年2月26日閲覧。
- ^ “'La Gioconda' renace en El Prado”. エル・パイス公式サイト. 2021年8月14日閲覧。
- ^ a b c “El Museo del Prado presenta las conclusiones del estudio técnico y restauración de su Gioconda”. プラド美術館公式サイト. 2021年8月14日閲覧。
- ^ “L'autre Joconde à Madrid”. ル・ポワン公式サイト. 2021年8月14日閲覧。
- ^ “La Joconde de Léonard De Vinci cache t-elle la plus ancienne image 3D créée ?”. Maxisciences. 2021年8月14日閲覧。
- ^ Ana Gonzales Mozo, p.234.
- ^ a b “¿Pintó un discípulo español de Leonardo la Mona Lisa del Prado?”. ABC公式サイト. 2021年8月14日閲覧。
- ^ “Instalación temporal: La Gioconda, Taller de Leonardo”. プラド美術館公式サイト. 2013年2月28日閲覧。
- ^ “La gemela desvela los secretos de la Gioconda”. PÚBLICO公式サイト. 2021年8月14日閲覧。
- ^ “LEONARDO DE VINCI: Copias.- Pinturas derivadas.- Menciones antiguas”. インターネットアーカイブ公式サイト. 2021年8月14日閲覧。
- ^ Juan J. Luna, Guía del Prado, Madrid, Editorial Alfiz, 2001.
- ^ Antonio Manuel Campoy 1970, p.399.
- ^ Ana Gonzales Mozo, p.235.
- ^ “El Prado descubre que su copia de la 'Mona Lisa' es el mejor clon del original de Da Vinci”. 20minutos公式サイト. 2021年8月14日閲覧。
- ^ “Earliest copy of Mona Lisa found in Prado”. The Art Newspaper. 2021年8月14日閲覧。
- ^ a b “Los mayores expertos italianos apuntan a un discípulo español de Leonardo”. ABC公式サイト. 2021年8月14日閲覧。
- モナ・リザ (プラド美術館)のページへのリンク