ムーアの法則 将来のトレンド

ムーアの法則

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/12/10 02:39 UTC 版)

将来のトレンド

主要なCPUにおけるトランジスター数の推移
各々初出荷時点での数

2006年第一四半期において、PCのプロセッサは90nmで製造されており、65nmのチップはIntel(Pentium DおよびIntel Core)からのみ出荷されていた。10年前では、チップは500nmで製造されていた。各企業は45nmや30nm、さらにそれ以下の細かさのチップを製造するために起こる複雑な課題を解決するため、ナノテクノロジーを用いて開発を行っている。これらのプロセステクノロジに因って、半導体産業が直面するムーアの法則の限界の到達が延伸することになるだろう(その後、2010年32nmでトランジスタ数約4億個、2015年には14nmを実現)。

2001年頃のコンピュータ業界のロードマップは、ムーアの法則はチップ数世代にわたって継続するであろう、と予測していた。そのロードマップでの計算によると、2011年にチップ上のトランジスタ数は2の100乗個にまで増加するだろう、と予測していた、というわけである。半導体産業のロードマップではマイクロプロセッサのトランジスタ数は3年で2倍になるとしているので、それに従うと10年で2の9乗個になる。

この法則に経済的合理性があるのは、トランジスタ1個あたりのコストが劇的に下がることである。例えばCore i5には13億個のトランジスタがあり、7万個のトランジスタで1ペニーである。

2006年初頭、IBMの研究者らは深紫外光(DUV、193nm)のフォトリソグラフィで、29.9nm幅の回路をプリントするプロセステクノロジを開発したと発表した。当時IBMは、これによってチップ市場は今までのやり方でムーアの法則の予言をこの数年達成し続けることができるだろう、とした。

計算能力を向上させる方法は、単一の命令ストリームを1つの演算部で可能な限り早く処理するだけとは限らず、遅い動作クロックであっても複数の演算部で並列的に処理することでも計算能力を向上できる。一般に動作クロックの上昇は処理性能に寄与するが、発熱もまた増すために、ある程度まで高速化された演算部では処理性能の向上よりも発熱量の増加が上回り、高集積な回路であれば放熱問題に直面して、動作クロックの高速化は現実的でなくなる[注 1]

ムーアの法則を基にして、ヴァーナー・ヴィンジブルース・スターリングレイ・カーツワイルのような有識者が技術的特異点を部分的に推定している。しかしながら、2005年4月13日、ゴードン・ムーア自身が、「ムーアの法則は長くは続かないだろう。なぜなら、トランジスタが原子レベルにまで小さくなり限界に達するからである」とインタビューで述べている。もっとも、横に並べるならば原子の大きさによる限界があるであろう、というのはムーアでなくてもわかることであって、実際に縦方向に並べる研究がさかんに進められている。

(トランジスタの)サイズに関して、我々は基本的な障壁である原子のサイズに到達するであろう。しかし、その向こう側に行くにはまだ2, 3世代ある。そして、我々が見ることができるよりもさらに向こう側がある。我々が基本的な限界に到達するまでにはあと10〜20年ある。そのときまでには10億を超えるトランジスタを搭載するより巨大なチップを作ることができるだろう[5](2005年の発言)。

ムーアの法則を今後も時間軸に沿って維持するには、裏に潜む様々な挑戦なしにはなしえない。集積回路における主要な挑戦のうちの一つは、ナノスケールのトランジスタを用いることで増加する特性のばらつきとリーク電流である。ばらつきとリーク電流の結果、予測可能な設計マージンはより厳しく、加えてスイッチングしていないにもかかわらず、かなりの電力を消費してしまう。リーク電力を削減するように適応的かつ統計的に設計すると、CMOSのサイズを縮小するのには非常に困難である。これらの話題は「Leakage in Nanometer CMOS Technologies」によく取り上げられている。サイズを縮小する際に生じる挑戦には以下のものがある。

  1. トランジスタ内の寄生抵抗および容量の制御
  2. 電気配線の抵抗および容量の削減
  3. ON/OFFの挙動を制御するためにゲートを終端できる適切なトランジスタ電気的特性の維持
  4. 線端の粗さによる影響の増加
  5. ドーピングによる変動
  6. システムレベルでの電力配送
  7. 電力配送における損失を効果的に制御する熱設計
  8. システム全体における製造コストを常に引き下げるようなあらゆる挑戦

カーツワイルによる推測

ムーアの法則を、カーツワイルが拡張したもの(収穫加速の法則)。集積回路の登場より以前のトランジスタ、真空管リレー、電気機械式コンピュータまでさかのぼり、基本的なトレンドがパラダイムシフトによって維持されていることが示されている。

カーツワイルの目算は、ムーアの法則が2019年まで継続することにより、将来たった原子2、3個分にしかない幅のトランジスタがもたらされるというものである。もちろん、より高精度なフォトリソグラフィーを用いるやり方によって達成できるが、このことはムーアの法則の終わりを意味するものではないと彼は考えている。

カーツワイルいわく、集積回路におけるムーアの法則は、価格対効果を加速する最初のではなく5番目のパラダイムである。コンピュータは(単位時間当たりの)処理能力はとっくに何倍にもなってきた。1890年にアメリカの国勢調査で使用されたタビュレーティングマシンからLorenz暗号を破るためのMax Newmanのリレー式計算機"Robinson"、アイゼンハワーの選挙予想に使われたCBSの真空管式コンピュータUNIVAC I、最初の宇宙旅行に使われたトランジスタ式コンピュータ集積回路を用いたPCへと[6]

カーツワイルは、なんらかの新しい技術が現在の集積回路技術を置き換え、ムーアの法則は2020年以降もずっと長く維持されるのではないか、と推測している。つまり彼は、ムーアの法則に沿った技術の指数関数的な成長は、(ムーアの法則の本来の適用範囲である)プロセステクノロジの発展による集積回路の向上に仮に限界があったとしてもそれを乗り越えて、技術的特異点をもたらすまで、今後も続くであろうと信じているのである。「収穫加速の法則」の中でカーツワイルは、多くの方法によってムーアの法則の一般的な認識は変更されてきたと述べている。ムーアの法則は技術のすべての形を予測すると共通に(しかしそれは誤っているが)信じられている。たとえそれが実際には半導体回路に関してのみ適用されるものとしてもである。多くの未来学者は、いまだカーツワイルによって力を与えられたこれらの考えを述べるために、「ムーアの法則」という言葉を用いている。

その他

KraussとStarkmanは彼らの論文である「Universal Limits of Computation」で、宇宙に存在するあらゆるシステムの情報処理容量の合計を厳密に見積もった結果、600年という非常に長い期間をムーアの法則の限界と発表した。

この法則は明らかに克服できないように見える障害にしばしば直面したが、すぐにこれらを乗り越えていった。ムーアは、自分が実現した以上に今やこの法則が美しいものに見える、と述べている。「ムーアの法則はマーフィーの法則に違反している。すべてのものはどんどんよくなっていくのだ。」[7]

コスト

2015年時点で、最新のプロセステクノロジを用いたチップの設計と実用試験には約1億ドルかかった(2005年には1600万ドルだった)。新型チップ製造工場の建設には100億ドルかかった[8]

法則の限界

2010年代後半、半導体の開発ペースが鈍化し始め、ムーアの法則のペースが維持できなくなるとの説が広まりだした。2017年5月、NVIDIAのJensen Huangは大手半導体企業のCEOとして初めて、「ムーアの法則は終わった」ことに言及している[9]

インテル チック・タックは、2006年にインテルが打ち出した戦略で、パターンの大幅な変更無しに新しいプロセステクノロジによって縮小して高性能化した世代のチップと、新しくマイクロアーキテクチャを設計してその前の世代と同じプロセステクノロジで製造するチップとを、毎年交互にリリースする、というもので[10]、ムーアの法則によって2年に1回のペースで新しいプロセステクノロジへの更新があることを前提にしていた。2015年に、この戦略が崩れたことも、現実がムーアの法則通りではなくなっていることのあらわれとみなされている[11]

2023年現在、ムーアの法則は減速しているが、これは半導体の進歩がネックになっているためである。他の技術の進歩は続いている[要説明][12]


注釈

  1. ^ この熱のために4.3GHz以上の速度で高信頼性のCPUを提供するのはほとんど不可能になった。

出典

  1. ^ ムーアの法則 考案者が語った長期継続の理由と未来 (日経テクノロジー2015年4月8日掲載)
  2. ^ Cramming more components onto integrated circuits | 102770822 | Computer History Museum 2020年3月11日閲覧
  3. ^ Excerpts from A Conversation with Gordon Moore: Moore's Law” (PDF). Intel Corporation. pp. 1 (2005年). 2012年10月29日時点のオリジナルよりアーカイブ。2006年3月2日閲覧。
  4. ^ NY Times article 2005年4月17日
  5. ^ Manek Dubash (2005年4月13日). “Moore's Law is dead, says Gordon Moore”. Techworld. 2006年6月24日閲覧。
  6. ^ Ray Kurzweil (2001年3月7日). “The Law of Accelerating Returns”. KurzweilAI.net. 2010年6月19日時点のオリジナルよりアーカイブ。2006年6月24日閲覧。
  7. ^ Moore's Law at 40 - Happy birthday”. The Economist (2005年3月23日). 2006年6月24日閲覧。
  8. ^ 半導体開発の「ムーアの法則」は限界かウォール・ストリート・ジャーナル2015年4月18日
  9. ^ 「ムーアの法則は終わった」、NVIDIAのCEOが言及 EEtimes Japan(2017年6月5日)2017年6月5日閲覧
  10. ^ Intelが「チックタック」戦略を廃止して3ステージ制を採用、ユーザーへの影響とは?”. GIGAZINE. 2023年4月5日閲覧。
  11. ^ ムーアの法則に黄色信号点滅、Intelの10nmプロセス移行の遅れが確実に”. GIGAZINE. 2023年4月5日閲覧。
  12. ^ The end of Moore’s Law? Innovation in computer systems continues at a high pace”. 2023年12月9日閲覧。
  13. ^ Matthew Broersma (2006年6月24日). “Intel, Aberdeen attack AMD speed ratings”. ZDNet UK. 2006年6月24日閲覧。
  14. ^ New life for Moores Law”. CNET News.com (2006年4月19日). 2012年7月16日時点のオリジナルよりアーカイブ。2006年6月24日閲覧。
  15. ^ Chilly chip shatters speed record”. BBC Online (2006年6月20日). 2006年6月24日閲覧。
  16. ^ Georgia Tech/IBM Announce New Chip Speed Record”. Georgia Institute of Technology (2006年6月20日). 2006年6月24日閲覧。






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