ネグロイド 中世イスラム世界におけるネグロイド観

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ネグロイド

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/08/12 06:03 UTC 版)

中世イスラム世界におけるネグロイド観

預言者ムハンマドは最期の説教で「アラブ人は非アラブ人に優越せず、非アラブ人はアラブ人に優越しない。白人は黒人に優越せず、黒人は白人に優越しない。人はただ正しさによってのみ優越する」と言っている[9]。この戒めは多くのイスラム教徒に順守され、結果として黒人の信徒も増えていったものの、ジャーヒリーヤ時代から続く黒人への偏見は根強く残り、イスラム史初期の黒人詩人の詩からも差別の存在がうかがえる。

『もし私の肌がピンクならば、女性たちは私を愛すだろう。しかし、神は私を黒さと結婚させた』と書いたスハイムは660年に亡くなったアフリカ出身の奴隷であった。『私は奴隷であるが、私の魂は気高く自由である。私は肌の色は黒いが、私の性格は白いのである。』彼は詩の中で彼の本質的な尊厳を表現している。

ヌサイブ・ブン・ラバーブは726年に亡くなったが、アラブ人の詩人からの肌の色を理由とする自分への非難に対し、彼自身、痛烈な応答をしている。『私がこのものを言う舌とこの勇敢な心を持っている限り、黒さが私の名誉を貶めることはない。ある者は血統により引き立てられるが、私の詩の詩句が私の血統なのだ!ものを言わない白人より、感受性の鋭い心とはっきりとものを言う黒人のほうがどんなにすばらしいことか!』 イスラーム文化は女性美を例外として、本質的に肉体的な資質よりも知的な資質を重んじた。独特の肉体的強さを知的に劣ることと結びつけることで、黒人への侮蔑が正統化され、助長された[8]

中世イスラーム世界での黒人奴隷による反乱に、9世紀にアッバース朝時代のメソポタミア南部で発生したザンジュの乱が知られる[10]

11世紀の歴史家バクリーは「スーダン人たちは人間よりも動物に近く、彼らはもっぱら物欲に興味を持ち、しばしば食人を行い、ほとんど羞恥心を持たない」と記している[11]

11世紀のイスラーム時代の重要都市トレドの裁判官であるサイード・アルアンダルスィーは、「彼らの気質は血の気が多くなり、気性は激しく、彼らの色は黒く、彼らの頭髪は縮れている」「彼らは自制心と心の安定に欠け、移り気と愚かさと無知が勝っている。エチオピアの果てに住んでいる黒人、ヌビア人、ザンジなどがそれにあたる」と記している[8]

12世紀の地理学者イドリースィーは「スーダン人たちは最も堕落した人々であるが、子供を生む能力は最もすぐれている人々である。彼らの生活はまるで動物のようで、彼らは物と女の欲求以外になんの関心もしめさない」と記している[11]

14世紀の旅行家イブン・バットゥータは「彼らの教養の無さや白人に対する無礼な態度をみて、つくづくこんなところまで来てしまったことを後悔した」と記している[11]。一方で、イブン・バットゥータはマリ王国での記録において、「彼らの美徳とすべき行為として、(まず第一に、)不正行為が少ない点にある。つまりスーダン人(黒人)のスルタンは、誰一人として、不正行為を犯す事を許さない。次には、彼らの地方で安全の保障が行き届いている点であり、従って、その地方を旅する者は何の心配事も無く、(長く)滞在する者でも強盗や追い剥ぎに遭うことが無い。……彼らの美徳の他の一つとして、彼らが(イスラームの)礼拝を厳守し、それを社会集団の中で彼らの義務行為としていること……金曜日には、一般の人々は早朝にモスクに行かないと、あまりの混雑のため、どこで礼拝しているのかわからなくなってしまうほどである。と述べている[12]

中世イスラムの最も偉大な歴史家イブン・ハルドゥーンは「黒人の大半は洞穴や密林に住み、草を食い、野蛮のままで社会的集団生活をせず、たがいに殺して食べる。黒人は一般に軽率で興奮しやすく、非常に情緒的な性格で、メロディを聞けばいつでも踊りたがり、また、黒人はどこにおいても愚か者とされている」と記している[11]


注釈

  1. ^ 戦前の日本では英語風の「ニグロイド」の訳語として「ニグロ人」という呼称も使われていた。例えば、1921年(大正10年)11月6日付の大阪毎日新聞掲載記事「船主と船員の争議頻発」では「…米国に航して亦ニグロ人を雇傭し更にスエズでアラビヤ人を雇替え…」との記述が見られる。

出典

  1. ^ 米山俊直『アフリカ学への招待』日本放送出版協会 NHKブックス 503 1986年6月 ISBN 9784140015032
  2. ^ 寺田和夫『人種とは何か』
  3. ^ a b 『日本人の顔 小顔・美人顔は進化なのか』 埴原和郎/著 講談社 1999年1月 ISBN 978-4-06-269048-5
  4. ^ a b 『勝ちにいくスポーツ生理学』 根本勇/著 山海堂 1999年9月 ISBN 978-4-381-10346-8
  5. ^ メルクマニュアル家庭版 60章 骨粗しょう症
  6. ^ a b 『黒人はなぜ足が速いのか』 若原正己/著 新潮社 2010年6月 ISBN 978-4-10-603663-7
  7. ^ 崎谷満『DNA・考古・言語の学際研究が示す新・日本列島史』(勉誠出版 2009年)
  8. ^ a b c ロナルド・シーガル著、設楽國廣訳『イスラームの黒人奴隷』明石書店 1993年9月 ISBN 9784750325675
  9. ^ Elias, Abu Amina (2016年1月4日). “Farewell Sermon: No one is superior to another except by good deeds” (英語). Daily Hadith Online. 2019年1月15日閲覧。
  10. ^ 保坂修司 (2020年7月22日). “アラブ世界に黒人はいるか、アラブ人は「何色」か、イスラーム教徒は差別しないのか”. ニューズウィーク日本版. 2020年7月25日閲覧。
  11. ^ a b c d 佐藤次高鈴木董『都市の文明イスラーム 』講談社現代新書―新書イスラームの世界史 1993年9月 ISBN 4061491628
  12. ^ イブン・バットゥータ、家島彦一、『大旅行記8』東洋文庫、平凡社
  13. ^ カブラルと対立したヴァリニャーノの記述による。松田毅一「南蛮史料の発見 よみがえる信長時代」 中公新書 1964,95-6頁
  14. ^ 高橋裕史『イエズス会の世界戦略』(講談社選書メチエ)、講談社、2006年.p34
  15. ^ 高橋同書、p/36
  16. ^ 高橋同書、p/35
  17. ^ 藤田みどり『アフリカ「発見」』岩波書店など
  18. ^ Bureau of Labor Statistics, U.S. Census Bureau Survey, May 1995.


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