デフロック 短所

デフロック

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/09/01 06:38 UTC 版)

短所

オート・デフロックは標準的な差動装置のようにスムーズに動作しないため、しばしばタイヤの摩耗を増加させる場合がある。また、全てのオート・デフロックはコーナリング時に回転数の検知が行われ、この際に差動固定と固定解除に起因する大きな打撃音や騒音が発生しやすい。これは多くの運転手にとっては不快な要素となる。また、オート・デフロックは前車軸に装備される場合には特に車両の運動性能に大きな影響を与えやすい。左右車輪の空転とは別に、トレッド面に高い摩擦力が常に掛かり続けるため、前車軸のデフロックはアンダーステアを引き起こしやすく、操縦に必要な操舵力も大きくなりやすい。また、オート・デフロックは路面凍結時には却ってコントロールを失う要因となることもある。オープンデフの場合には凍結路で車輪が空転することでそれ以上駆動力が伝わらなくなるため、発進不能となることはあっても、走行中急激にコントロールを失うことはそれほど多くはない。しかし、オート・デフロックの場合には凍結路によって急激な差動の断続が発生する場合があり、これによってスピンなどの危険な挙動が誘発される場合がある。これは機械式LSDのように断続的に強力な差動制限が掛かる方式のLSDにも見られる欠点である。なお、選択式デフロックの場合には、このような欠点は必要に応じてオープンデフとしても機能する性質上、あえて言及されることは少ない。

代替品

差動制限装置(en:Limited slip differential)は、オープンデフとデフロックの中間でよりスムーズな動作をするための妥協点であると見なされている。LSDはオープンデフと比較してトラクションを確保するために必要なだけのトルク配分(差動制限)を行う。しかし、LSDはデフロックの様に100%の差動固定を行うことは構造上不可能である。

トラクションコントロールシステム(TCS)も、デフロックの代替手段として多くの近代的な車両で用いられている。一例を挙げるとフォルクスワーゲン電子制御式デフロック(electronic differential lock、EDL)の名称でTCSを用いている。EDLは厳密にはデフロックではないが、各車輪で個別に動作するものである。センサーは各車輪の回転速度を100rpm単位で監視し、スリップなどの要因で車輪速度が乱れた場合に、瞬間的にその車輪にのみブレーキを掛けることで、他の全ての車輪に駆動力を分散させてそれ以上の空転を防ぐ[5]。しかし、EDLオプションが装備されていない車両では従来通りのオープンデフとしてしか動作しない。このようなTCSはアンチロック・ブレーキ・システム(ABS)とも組み合わせることが可能であり、ブレーキング時に上記と同様の制御を行う場合がある。このようなシステムは日産・パスファインダーランドローバー・ディフェンダーランドローバー・フリーランダーでも用いられている。

利用例

  • レーシングカーは極端な高速走行時や急激な加速時のトラクション維持のために、デフロックを利用していることが多い。
  • いくつかの実用車(en:Utility vehicle)、とりわけレッカー車フォークリフトトラクター建設機械では柔らかい路面や泥濘路上でのトラクション確保のためにデフロックが利用される。農業機械軍用車両でもデフロックが用いられることが多く、特にいくつかのトラクターでは必要に応じて差動を固定するためにオペレータの足下にかかとで踏むデフロックペダルが用意されていることがある。
ダイハツ・ハイゼットのデフロック装備車デカール。日本の軽トラックでも特装ダンプ車や農業向けグレードにはこのようなデフロック装着車が散見される。
  • 多種多様な路面を走行する四輪駆動車では、オフロード走行のうち泥濘地や緩んだ路面、岩場でのスタックを防ぐ目的でデフロックが装備される場合が多く、デフロックは激しいオフロードの走行には不可欠な装備であると見なされている。こうした車両のデフロックは前後車軸中間のセンターデフに装備される場合があり、前車軸、後車軸、センターデフの3箇所の任意の組み合わせで差動を固定することが可能であることも多い。
  • デフロックは三菱・パジェロに代表されるノンユーティリティ・ビーグルの、アクスル・アーティキュレーション(Axle Articulation、en:Ramp travel index)[6]の相対的な不足を補うために利用されることがある。オフロード走行においてはアクスル・アーティキュレーションが出来るだけ多いことが、不整地での車輪の接地・接触を維持する上で望ましいが、それは同時に舗装路面においては高速走行時に過度の車体のロールを招く場合があり、ハンドリング性能の低下にも繋がる。このような舗装路面走行もある程度考慮した四輪駆動車は、しばしばハンドリングとアクスル・アーティキュレーションの双方を妥協する設計のサスペンションを有しており、アーティキュレーションが限られている場合には時として不整地では1輪を残して全ての車輪が宙に浮くスタックを引き起こす可能性がある。こうした場合、デフデバイスがない場合は全ての駆動力が宙に浮いた車輪へ伝わって空転してしまう。こうした事態に備えて片軸にデフロックが装備される場合が多く、1輪を残して全ての車輪が宙に浮くスタックを引き起こした場合、デフロック装備側の車軸の車輪を接地させることで、1輪だけでも駆動力を伝えてスタックを脱出することが可能となる。これによって独立懸架式サスペンションを採用した車種でもオフロードを問題なく走れるようになる。独立懸架サスを採用した三菱・パジェロなどの四駆車種が、高い不整地走破性能を持つのはこのためである。
  • デフロックはLSDの代替として、ドリフト走行車両に用いられることがある。

  1. ^ この現象を逆手に取ったものが、左右片方のドライブシャフトの駆動を断つことでもう片方のドライブシャフトへの回転伝達を無効化するフリーアクスルである。
  2. ^ [1]
  3. ^ [2]
  4. ^ http://blogs.fourwheeler.com/6564589/whats-new/2011-ford-super-duty-electric-locker-lowdown/index.html
  5. ^ VAG four-wheel drive systems and brand names
  6. ^ 独立懸架でいうところのホイールトラベルであるが、この場合は車軸を含む車輪の絶対的な上下可能量を示し、車軸懸架の車種でも用いられる指標である。


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