テラー・ウラム型 一般知識

テラー・ウラム型

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/09/21 00:52 UTC 版)

一般知識

W80核弾頭の外観。この画像より、米国の熱核兵器におけるプライマリーとセカンダリーの大きさと形状を推測することが出来る。

テラー・ウラム型は長い間、核兵器の最高機密事項と考えられており、今日でも機密情報の“壁の向こう側”のものとして公式文書では詳細が語られることはない。米国エネルギー省の主義は、“情報漏洩”が起きた際にはこれを認めないというものである。この理由は、もし情報漏洩を認めるとその内容の正確性を裏付けてしまうことになるためである。

核弾頭容器(核弾頭自体の物理形状は当然含まれない)の画像を除いては、テラー・ウラム型に関する公開情報のほとんどは米国エネルギー省の簡潔な声明と、何人かの独立した調査官の監視により規制されている。

以下は、テラーウラム型の“公開”例に導いたいくつかの事例に対する短い考察であり、上記で述べた基本的な概要との相違点についても述べる。

米国エネルギー省の声明

1972年に米国エネルギー省は、“熱核兵器に関する真実として、核分裂性のプライマリーを核融合燃料であるセカンダリーの核融合反応の起爆に使っている”ことに関する機密解除の声明を発表し、さらに1979年には“事実として熱核兵器では、核分裂爆発で生ずる放射線を、核分裂部分とは別になっている核融合燃料の圧縮と起爆に使っている”と言う内容も付け加えた。この後から追加された内容に対してエネルギー省は、“この声明に関するいかなる内容も機密事項となる”と明記した[19]。 この記述は、1991年に機密解除された“スパーク・プラグ”に関する内容(“事実として核分裂性物質は数種類のセカンダリーの中に存在するが、この材質、位置、使用方法、および使われている兵器に関しては公開しない”)にも適用される。さらに1998年には、“事実として、ある物質が放射線の経路、および経路の充填物として存在するが、詳細は公開しない”という内容も機密解除したが、これはポリスチレン発泡剤(または類似した材質)について触れたものだと推定される[20]

これらの声明がテラー・ウラム型のいくつか、または全てのモデルの解釈に対して立証することになるのかどうか注目されたが、米国政府は核兵器の詳細技術に関しての公式文書では(スミス・レポートの様に)故意に内容を曖昧にしていた。他の情報、例えば初期の核兵器がどの様な核燃料を使用していたか等は既に機密解除されているが、当然ながら正確な技術情報はまだ機密のままである。

The Progressive 誌のケース

現在考えられているテラー・ウラム型の動作原理のほとんどは、米国のジャーナリストであり反兵器の活動家ハワード・モーランドが1979年に雑誌に発表した“水爆の機密”という記事により一般に認識されたもので、米国エネルギー省は事前にこの記事の検閲をすることが出来なかった。1978年にモーランドは、軍備拡張競争に注目を集め、核兵器と核の機密の重要性に関する公式文書に対して一般民衆が疑問を感じる権利を与えるために、“最後に残された機密”を公開することを決めた。水爆がどの様に動作するかに対するモーランドの考えのほとんどは、高度にアクセスが可能な情報源(彼の考えに賛同した、他ならぬアメリカ百科事典から得た図面等)から集められたものであった。モーランドはまた、(時には非公式に)ロスアラモスの著名な科学者たちに(テラーとウラムを含む。しかし両者はモーランドに有益な情報を提供することはなかった)インタビューし、時にはソーシャル・エンジニアリングの手法を使って科学者たちに情報提供をけしかけた(例えば、“彼らはまだスパーク・プラグを使っているの?”と言う様な質問を使って。たとえ相手が後の言葉が何に関して言及したか気が付かなかったとしても)[21]

モーランドは結局、“機密”の内容はプライマリーとセカンダリーは別々に爆弾容器内に置かれており、プライマリーからの放射圧力がセカンダリーを起爆する前に圧縮する、という結論に達した。この記事の(The Progressive 誌として出版される)初期原稿は、モーランドの目標に反対する教授の手に落ちた後にエネルギー省に送られたが、エネルギー省は記事の出版停止を求め、裁判所から略式の一時差し止め命令を出させた。エネルギー省はモーランドの情報は、(1)おそらく機密の情報源から得ている、(2)そうでなければ、1954年版の原子力行動法の“生まれながらの機密”条項の機密情報に該当する、(3)非常に危険であり、核の拡散を助長する、と主張した。

モーランドと彼の弁護士は全ての点では合意していなかったが、記事の差し止めは承諾された。このケースでの判断は、安全のために記事の差し止めが承諾されたと思われたが、モーランドと彼の協力者たちは米国政府に記事の差し止め解除を要求した。

しかしさらに複雑な状況として、エネルギー省が主張していた“機密”情報は、数年前に既に学生用の百科事典に記載されて出版されていたため、今回のケースはクリアになる方向に向かい始めていた。さらに水爆の研究家であるチャック・ハンセンは、“機密”に対する彼独自の考え(モーランドのものとはかなり異なる)をウィスコンシン新聞で発表したため、エネルギー省は The Progressive 誌に対する訴訟を取り下げて雑誌の出版を許可し、雑誌は1979年10月に出版された。しかしながらモーランドは、爆弾の動作として放射圧縮法よりむしろ(ポリスチレンの)発泡媒体がセカンダリーの圧縮に使用されているという考えに変わり、さらにセカンダリー内には放射性物質で出来た“スパーク・プラグ”が使われているとした。彼はこの考えの変更を1ヶ月後の The Progressive 誌上に、政府に対する要求の経過報告の一部として短い“エラッタ”を発表した[22]。1981年にモーランドは、彼の経験と、彼を“機密”の結論に至らせた経緯をまとめた本を出版した[21][23]

エネルギー省が検閲を試みようとしたことから、モーランドの記事は少なくとも一部分は正しいと解釈されている(公開された記事の中で、エネルギー省が認めていない“秘密の”材料に対してのアプローチで、数回の内1回で彼らの通常のやり方を破っていた。しかし記事にどの程度の情報が欠けているのか、またどの程度の情報が誤っているのかは、他の機密と共に分かっていない)。難しいことに、いくつかの国ではテラー・ウラム型の兵器を開発中であるが(しかしおそらく彼らは、イギリスの様には内容を理解していない)、記事の情報が熱核兵器の製造に寄与する可能性は低いと考えられている。それにもかかわらず、モーランドが1979年に発表した内容は、現在のテラーウラム型の仕様に関する推測の基礎とされている。


  1. ^ The Tsar Bomba ("King of Bombs")”. 11-05-2006閲覧。
  2. ^ Restricted Data Declassification-1, US Department of Energy
  3. ^ a b Complete List of All U.S. Nuclear Weapons” (1997年10月1日). 2006年3月13日閲覧。
  4. ^ Hansen, Chuck (1988). U.S. nuclear weapons: The secret history. Arlington, TX: Aerofax. ISBN 0-517-56740-7 
  5. ^ Hansen, Chuck (1995). The Swords of Armageddon: U.S. nuclear weapons development since 1945. Sunnyvale, CA: Chukelea Publications. http://www.uscoldwar.com/ 
  6. ^ "Improved Security, Safety & Manufacturability of the Reliable Replacement Warhead," NNSA March 2007.
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  9. ^ a b Nuclear Weapons Frequently Asked Questions 4.4.3.3 The Ablation Process” (Version 2.04: 20 February 1999). 2006年3月13日閲覧。
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  11. ^ The B-41 (Mk-41) Bomb - High yield strategic thermonuclear bomb” (1997年10月). 2006年3月13日閲覧。
  12. ^ Photograph of a W47 warhead” (JPG). 2006年3月13日閲覧。
  13. ^ Holloway, David (1994). Stalin and the bomb: The Soviet Union and atomic energy, 1939-1956. New Haven, CT: Yale University Press. p. 299. ISBN 0-300-06056-4 
  14. ^ Sublette, Carey (2001年11月). “What Are the Real Yields of India's Test?”. 2006年3月13日閲覧。
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  16. ^ India tested H-bomb,says New Scientist
  17. ^ So, it was an H-Bomb after all - Rediff
  18. ^ Seismic feedback on N-tests - High Rating for Indian Technology
  19. ^ emphasis in original
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  21. ^ a b Morland, Howard (1981). The secret that exploded. New York: Random House. ISBN 0-394-51297-9 
  22. ^ “The H-Bomb Secret: How we got it and why we’re telling it”. The Progressive 43 (11). (November 1979). http://progressive.org/?q=node/2252. 
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  29. ^ Christopher Cox, chairman (1999). Report of the United States House of Representatives Select Committee on U.S. National Security and Military/Commercial Concerns with the People's Republic of China. http://www.house.gov/coxreport/ , esp. Ch. 2, "PRC Theft of U.S. Thermonuclear Warhead Design Information".





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