ツイストペアケーブル
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/31 04:35 UTC 版)
イーサネットでの利用
1990年、最初のツイストペアケーブルによるイーサネット規格である10BASE-Tが最初に登場し、このとき使われたのはカテゴリ3のUTPケーブルであった。イーサネットが同軸ケーブル規格(10BASE-2や10BASE-5)に代わる形で大企業などに本格的に導入された。Windows 95が登場した1990年代中頃には、日本国内では一般家庭・中小企業にも普及した。その後すぐにカテゴリ5のケーブルを用いる100BASE-TXが登場したため、量販店でカテゴリ3のものが見られる時期はごく短く、導入段階で既にカテゴリ5(e)が主流となった。その結果、1998年に登場した100BASE-TXではカテゴリ5eが同様に使えるため、ハブとLANボードの交換だけで利用でき、手間やコストを大幅に削減したスムーズな移行につながった。
2003年に標準化されたPower over Ethernetでは同じカテゴリ5eケーブルで接続機器へ給電しながら通信が可能になった。2006年には10GBASE-Tが登場したが、カテゴリ5eが使えなくなったことから、無線LANの高速化に伴い別途2016年に2.5G/5GBASE-Tが策定された。
LAN規格
イーサネットでは10Mbpsの通信速度での使用に始まり、2020年現在は40Gbpsまでサポートするツイストペアケーブル規格がある。通信速度の向上のためにさまざまな変調方式が提案され、これに伴い信号周波数が上がりケーブルの定格周波数も広帯域のものが要求される。
規格 | 転送速度[a] [Mbps] |
信号要件 | ケーブル要件 | |||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
レーン数[b] | 効率[c] [bps/Hz] |
帯域幅[d] [MHz] |
変調速度[e] [MBaud] |
カテゴリ・距離長 | 帯域幅 [MHz] | |||
10BASE-T | 802.3i-1990 | 10 | 1 | 1 | 10 | 10 | Cat.3: 100m | 16 |
100BASE-TX | 802.3u-1995 | 100 | 1 | 3.2 | 31.25 | 125 | Cat.5: 100m | 100 |
1000BASE-T | 802.3ab-1999 | 1000 | 4 | 4 | 62.5 | 125 | Cat.5: 100m[f] | 100 |
2.5GBASE-T | 802.3bz-2016 | 2500 | 4 | 6.25 | 100 | 200 | Cat.5e: 100m | 100 |
5GBASE-T | 802.3bz-2016 | 5000 | 4 | 6.25 | 200 | 400 | Cat.6: 100m | 250 |
10GBASE-T | 802.3an-2006 | 10000 | 4 | 6.25 | 400 | 800 | Cat.6A: 100m Cat.6: 55m |
500 250 |
25GBASE-T | 802.3bq-2016 | 25000 | 4 | 6.25 | 1000 | 2000 | Cat.8: 30m | 1600/2000 |
40GBASE-T | 802.3bq-2016 | 40000 | 4 | 6.25 | 1600 | 3200 | Cat.8: 30m | 1600/2000 |
シングルペア規格
2015年以降からシングルペアイーサネットとして、車載組み込み機器や産業用機器を主な用途としたツイストペア1対による配線接続が標準化されている。ツイストペアケーブルイーサネットの主流である1対1接続だけでなく、10BASE-T1Sではマルチドロップ(バス型トポロジー)構成もサポートされた[18]。PoEと同様に、シングルペアイーサネットではPower over Data Lines (PoDL)で最大50W給電できる[19]。
規格 | 転送速度 [Mbps] |
信号変調速度 [MBaud] |
距離長 | |
---|---|---|---|---|
10BASE-T1S | 802.3cg-2019 | 10 | 12.5 | 15m |
10BASE-T1L | 802.3cg-2019 | 10 | 7.5 | 1000m |
100BASE-T1 | 802.3bw-2015 | 100 | 66+2/3 | 15m |
1000BASE-T1 | 802.3bp-2016 | 1000 | 750 | 15m/40m |
2.5GBASE-T1 | 802.3ch-2020 | 2500 | 1406.25 | 15m |
5GBASE-T1 | 802.3ch-2020 | 5000 | 2812.5 | 15m |
10GBASE-T1 | 802.3ch-2020 | 10000 | 5625 | 15m |
ストレートとクロス
LANケーブルは、結線の仕方によりストレートケーブルとクロスケーブルに分かれる。1000BASE-Tで規定されたAuto MDI/MDI-Xと呼ばれる結線自動判別機能[20]が多くの機器で備わっているため、クロスケーブルの必要性はほとんどない。
- ストレートケーブル: 両端のコネクタが同じピン番号同士で接続されているもの。通常使うケーブル。
- クロスケーブル: 両端コネクタの送受ピンが交差接続されているもの。旧型の機器などで、ハブを複数台カスケード接続する場合や、端末同士を1対1で接続する場合に用いられた。
普及
2022年時点では、1000BASE-Tが普及している。カテゴリ5Eと6の価格差は無くなったが、2000年ごろに敷設した壁内ケーブルは当時のカテゴリ5から変えていない住宅もあり、普及が始まったマルチギガビット・イーサネットを使用する際に問題となる。10ギガビット・イーサネットはルータが高価なため、家庭向けには普及していない。
敷設
個人ユーザが量販店で購入可能なLANケーブルは、きりのいい数字の長さ(30cm・50cm・1m・3m・5m・7m・10m・20m・50m・100mなど)で、あらかじめ両端にオス型RJ-45コネクタを装着したものである。一方で、工事業者がLANケーブルを敷設する際は、任意の長さを過不足なく設置するために、一般的にコネクタのない数十から数百メートルのケーブルを配線した後にケーブルを切断し、圧接工具を用いて両端にRJ-45コネクタを取り付ける(整端・成端と呼ぶ)。ケーブルにコネクタを取り付ける作業では、被覆むきから圧接までの必要機材を取り揃えた安価なツールセットや[21]、配線をコネクタ内部の溝に入れて蓋を閉じるだけで接続可能な専用工具不要のコネクタも登場している[22]。敷設業務では、最低でも簡易な測定器(LANテスター)で導通や短絡の有無を確認する必要があり、さらに高価な測定器でケーブルの減衰や漏話レベルなどの規格適合性を確認をすることや、測定結果の報告書が要求されることもある。主要なケーブルメーカーは、自社製品ケーブルを認定業者が正しく施工した場合に限りおおむね15年から25年の製品保証をしている。
サンワサプライではLANケーブルを自作する際のノウハウを公開している[21]。
コネクタ
ツイストペアケーブルのコネクタにはオス型(プラグ)、イーサネット機器のポートにはメス型(ジャック)のコネクタが使われ、以下の表に示す種類がある。
名称 | 周波数特性 | 規格 | ピン数 | 概要 |
---|---|---|---|---|
RJ-45 (8P8C) | 3 MHz | IEC 60603-7 IEC 60603-7-1 |
8ピン | イーサネットのツイストペアケーブル規格で広く普及しているもの。60603-7をCat.3での利用が可能な基本仕様とし、枝番はCat.5, Cat.6, Cat.6Aケーブルにおける高周波対応のために追加要件が規定されている。また、Part 7-1, 7-3, 7-5, 7-51はコネクタシールドの追加要件規定。 |
100 MHz | IEC 60603-7-2 IEC 60603-7-3 | |||
250 MHz | IEC 60603-7-4 IEC 60603-7-5 | |||
500 MHz | IEC 60603-7-41 IEC 60603-7-51 | |||
GG45 | 600 MHz | IEC 60603-7-7 | 12ピン | RJ-45のピン1・2とピン7・8の対面に重複のピン3・6とピン4・5を追加し、ツイストペアが隣接するようにしたもの。Cat.7, 7Aで使われる。RJ-45と互換性がありUTP接続可能。 |
1 GHz | IEC 60603-7-71 | |||
ARJ45 | 3 GHz | IEC 61076-3-110 | 8ピン | GG45から従来のピン3~6を取り除いたもの。Cat.7A, 8.2で使われる。RJ-45と互換性がなくUTP接続不可。 |
TERA | 2 GHz | IEC 61076-3-104 | 8ピン | 新しい形状を採用したもの。Cat.7A, 8.2で使われる。RJ-45と互換性がない。 |
SPE用コネクタ | 600MHz | IEC 63171-1 IEC 63171-6 |
2ピン | シングルペアイーサネットの100/1000BASE-T1用に策定されたもの。Part 1では光ファイバでも用いられるLCコネクタが使われる。Part 6ではシールドされPoDLに対応している。 |
ケーブルの両端コネクタは圧接端子として接続され、半田なし接続の規格 IEC 60352でその接続機構や性能が規定される。RJ-45では、単に外皮をかしめられているものだけでなく、折り曲げに強いようにコネクタと外皮をなだらかに覆うパーツや、コネクタの爪が何かに引っかかったまま引っ張られて折れることの無いようカバーするパーツが用いられる場合がある。
被覆色
屋内電話線に使うツイストペアケーブルでは一般にAT&Tが開発した25ペアカラーコードに従って区分けされており[23]、LANケーブルでもこのカラーコードの一部がTIA/EIA-568-Aで流用され、4対8線の芯線被覆色が規定されている。
ケーブル外皮(シース)の色に明確な基準はないが、ケーブル数の多い事務所内ネットワークなどでは、ネットワークトラブル防止や保守性向上のために、1台のスイッチングハブに挿した各ケーブルの末端に接続先ラベルを貼付するほか、各ケーブルを異なる色にするなどの措置をとることがある。また、ネットワークの階層(基幹ネットワーク、DMZ区間、ハブ間、末端)に応じた色分けも効果的であり、シーモン・カンパニー社によるRecommended Color-Coding Schemeなどが提案されている[24]。
- ^ 転送速度[Mbps] = レーン数 × スペクトル効率[bps/Hz] × 信号周波数[MHz]
- ^ 信号が送受される物理的な伝送路の数。10BASE-T・100BASE-TXではツイストペアのうち送信専用に1対、受信専用に1対使うため、これを送受1レーン分と扱う。1G以上では、1対を1レーンとして送受両方で使い、4対全てを使うため全体で4レーンとなる。
- ^ 1周期分の信号が持つ実質的なデータ量(信号スペクトル効率)。符号化の際に増減するビットは含めない。
- ^ 信号振幅が最短で1周期分の変動となったときの周波数(信号スペクトル帯域幅)。ケーブル帯域幅以内の範囲に収める必要がある。
- ^ 1秒間の出力信号数(シンボルレート)。10BASE-Tのマンチェスター符号で1シンボル/Hz、100BASE-TXのMLT-3で4シンボル/Hz、1G以上ではPAMによる正負ピークで信号1周期になるため2シンボル/Hzとなる。
- ^ Cat.5e以上推奨
脚注
- ^ “Crosstalk dependence on number of turns/inch for twisted pair versions of the end-cap umbilical cable”. 2011年5月8日閲覧。
- ^ US 244426, Bell, Alexander Graham, "Telephone-circuit", issued 1881. See also TIFF format scans for USPTO 00244426
- ^ a b 日経NETWORK 2004/3
- ^ https://www.sanwa.co.jp/lan/lan_qa.html
- ^ ISO/IEC 11801-2002, Annex E
- ^ “LANケーブルのノイズ対策のための接地(NL22号 Q&Aより)”. 通信興業(株) > 技術情報 > FAQ > メタルLANケーブル. 2011年12月21日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年12月10日閲覧。
- ^ Valerie, Maguire (2015年7月12日). “Size of the Category 7A Installed Base”. 2015年9月25日閲覧。
- ^ Morihiro.Kaneda. “10GBase-TおよびCat.6A配線の規格と技術” (PDF). BICSI(Building Industry Consulting Service International )日本支部. 2014年3月24日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年1月18日閲覧。
- ^ a b ANSI / TIA-568.2-D, Introduction
- ^ a b c ISO/IEC 11801-1:2017, Clause 6
- ^ ISO/IEC 11801-1:2017, Annex F
- ^ ANSI/TIA-568-C.2, Clause 4.1
- ^ a b JEITA 情報配線システム標準化専門委員会 ツイストペア配線 最新規格動向と関連情報 Archived 2016年3月4日, at the Wayback Machine.
- ^ ISO/IEC 11801, Clause 9.2, Clause 10.2.5.3
- ^ ISO/IEC 11801:2017, Clause 6.4.2
- ^ ISO/IEC 11801, Clause 9.2.2.2
- ^ ANSI/TIA-568-C.2, Clause 5.3, 5.5.
- ^ IEEE 802.3cg-2019
- ^ IEEE 802.3-2018, Clause 104.3
- ^ IEEE 802.3-2018, 40.4.4
- ^ a b c d e f g “LANプロ:LANケーブル自作方法・最新情報 | サンワサプライ株式会社”. www.sanwa.co.jp. 2022年9月5日閲覧。
- ^ “ぐっとす6シリーズ[カテゴリー6対応 | 情報配線システム | Panasonic]”. www2.panasonic.biz. 2022年9月6日閲覧。
- ^ AT&T, Bell System Practices, Section 461-200-101 Issue 7, Connector Cables—Identification (1979年5月)
- ^ “Recommended Color-Coding Scheme, The Siemon Company”. 2005年2月15日時点のオリジナルよりアーカイブ。2010年8月21日閲覧。
- ^ 単線ケーブルのススメ(サンワサプライ)
- ^ a b “【LANケーブル】単線とヨリ線の違いは何ですか”. qa.elecom.co.jp. 2022年9月6日閲覧。
- ^ “CAT5eケーブル自作(フラットケーブル) | サンワサプライ株式会社”. www.sanwa.co.jp. 2022年9月6日閲覧。
- ^ “メルコ、極細フラットLANケーブル「きしめんケーブル」”. pc.watch.impress.co.jp. 2022年9月5日閲覧。
- ^ a b 株式会社インプレス (2022年2月25日). “【やじうまミニレビュー】 「CAT6Aのすき間LANケーブル」は10Gbpsで通信できるか?窓の隙間を使って屋外から2階へ配線してみた”. PC Watch. 2022年9月5日閲覧。
- ^ 株式会社インプレス (2022年8月10日). “【特集】 LAN工事するなら必見!ツメ折れ対策、フラットケーブル作成、LANコンセント敷設等を初心者向けに解説”. PC Watch. 2022年9月5日閲覧。
- ^ “カテゴリ6 細径ケーブル | エイム電子株式会社”. www.aim-ele.co.jp. 2022年9月5日閲覧。
ツイストペアケーブルと同じ種類の言葉
- ツイストペアケーブルのページへのリンク