サイドワインダー (ミサイル)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/06/23 14:28 UTC 版)
第3世代
第3世代サイドワインダーの開発は、ベトナム戦争での航空戦の分析を土台として着手された。上記のように、空軍は自らのサイドワインダーに不満足だったこともあって、追尾角の広角化やヘッドマウントディスプレイ、推力偏向などといった新しい技術の導入を志向した。サイドワインダー系列では、当時設計されていたAIM-9Kで追尾角の広角化を試みていた程度だったことから、空軍は、これらの技術の一部を導入した極めて革新的な空対空ミサイルであるAIM-82の開発に着手した[15]。
一方、海軍も、これらの新技術のほとんどを導入したAIM-95の開発を試みる一方、より漸進的な施策として、第2世代サイドワインダーの最終発達型にあたるAIM-9Hを発展させたAIM-9H PIP(Product Improvement Program)の開発を進めていた。これは、AIM-9Hの開発段階で検討されていたようにアンチモン化インジウム(InSb)検知器を導入することで、全方位交戦能力(all-aspect capability, ALASCA)を獲得することを主眼としたものであった[15]。
その後、AIM-82・95で検討されていたような先進的な技術はあまりに冒険的であると判断され、また海軍・空軍のミサイルの統合化が望まれていたこともあって、1975年1月より、AIM-9H PIPから発展したAIM-9Lについて海軍・空軍合同での評価試験が開始された[15]。
AIM-9L
InSb素子を用いた量子型検知器は、第1・2世代サイドワインダーで使われてきたPbS素子による熱型検知器よりも波長が長い中波長赤外(MWIR)帯域を検知することができた。当初の計画では、断熱圧縮で加熱された機首部を検知できるものと期待されていたが、検討の結果、それよりも、むしろエンジンからの排気(プルーム)を検知して、その前方を狙うように誘導するほうが有望であると判断された[15]。
このような誘導方式の開発には困難が伴い、試射の際に標的機の前方を横切ってしまう事態も発生したが、やや先行してスティンガーを開発した際に同じ問題に直面し、克服していたジェネラル・ダイナミクス社の技術陣からの情報提供も受けて、解決された。またレティクル方式も変更されて、周波数変調(FM)信号も取り出せる形式となった[15]。
熱型検知器は冷却せずとも動作は可能だが、量子型検知器では冷却が必須である。冷却方式はAIM-9Hと同様にジュール=トムソン効果を利用したものだが、冷媒はアルゴンに変更された[11]。この赤外線センサを中核とした誘導・制御ユニットはDSQ-29と称されている[1]。
弾頭としては、より強力な重量9.4kgのWDU-17 ABF(環状爆風破片弾頭)が採用されたほか、DSU-21によるレーザー近接信管により、危害半径はさらに拡大した[1]。推進装置は、AIM-9Hと同じMk.36 シリーズの固体ロケットで、改良型のMod.7または8を採用している[11]。AIM-9Hで採用されたダブルデルタ型の動翼の効果と相まって、実に35Gでの機動が可能となった[15]。
上記のように誘導装置の開発に難渋したこともあったが、これらの問題が解決されると、本ミサイルは「並外れて殺傷力が強い」と評されるようになり、開発者の一人であるトーマス・アムリーは端的に殺人光線と述べた[15]。海軍のシミュレーションでは、単発撃破確率(SSKP)は0.50と見積もられた[1][注 3]。
生産は1976年から開始され、アメリカのフィルコ・フォード社、レイセオン社の他に、日本の三菱重工業、ヨーロッパのBGT社(西ドイツのほか、イギリスとノルウェーも生産に参加した)でも行われて、合計5,500発以上が生産された[11]。アメリカ生産分の一部は1982年のフォークランド紛争でイギリス軍に提供され、87%という高い命中率を記録している[15]。
AIM-9M/S/R
AIM-9Lは極めて優れたミサイルではあったが、上記の経緯のために急いで計画を推進した部分があった。このため、まもなく小改正型(AIM-9L PIP)の計画がスタートし、後にAIM-9Mとなった[15]。これはクラッター抑制能力とIRCCM能力を強化するとともに、冷却装置をスターリング式に変更し、ロケット・モーターも低排煙型に変更したものであった。生産は1981年から開始されており、後にIRCCM能力を更に強化したAIM-9Lプラス(AIM-9M-8/9)への改修キットも調達された[1]。
AIM-9Mの小改正型(AIM-9M PIP)として、CCDイメージセンサによる可視光画像誘導装置の導入を図って開発されたのがAIM-9Rであった。これは極めて意欲的な設計であったが、プロジェクト管理の失敗によるコスト上昇、また可視光を使用するために夜間には使えないことなどが問題視されて、1991年12月に計画は中止された[15]。
逆にAIM-9Mのダウングレード版として開発されたのがAIM-9Sであり、もともとはAIM-9MXと称されていた。1990年1月に、トルコに310発を売却する旨の発表があった[1]。
AIM-9P
AIM-9J/Nを基に、AIM-9L/Mの技術をバックフィットして開発されたのがAIM-9Pである。-9L/Mよりも安価な第3世代サイドワインダーと位置付けられている。基本的には輸出用モデルとして開発されたが、アメリカ空軍も採用した[11]。
- -9P-1
- DSU-15/B AOTDを導入したモデル。
- -9P-2
- 低排煙型のSR.116ロケット・モーターを導入したモデル。
- -9P-3
- 低排煙型のSR.116ロケット・モーターを導入するとともに、誘導・操舵装置に改良を加えたモデル。
- -9P-4
- 全方位交戦能力が付与されたモデル。-9Lの技術を採用した赤外線センサを搭載している。また、新型のMk.8弾頭とDSU-21 AOTD信管も導入された。
- -9P-5
- -9P-4を基に、赤外線妨害技術に対する抗堪性(IRCCM)を向上させたモデル。
諸元表
AIM-9M | AIM-9P | |
---|---|---|
画像 | ||
全長 | 287 cm | 307 cm |
直径 | 12.7 cm(5in) | |
翼幅 | 63.5 cm(25in)(後部固定翼) 56.64 cm(22.3in)(前部動翼) |
56 cm |
重量 | 86.2 kg(190 lb) | 78 kg |
射程 | 18 km(9.7 nm) | 18 km(9.7 nm) |
速度 | マッハ2.5+ | |
弾頭 | 9.4 kg(20.8 lb)WDU-17/B |
同世代機
注釈
- ^ 当初、海軍ではAAM-N-7、空軍ではGAR-8と称されていたが、1963年の三軍共通命名規則の導入によって現在の名称となった。
- ^ また、1956年2月に発生した事故への対応の不備も、サイドワインダーの導入を後押ししたと言われている。このとき、海軍のA3D-1が事故を起こして乗員が脱出した後も機体が飛行を続けていたことから、空軍のF-100が緊急発進して撃墜しようとしたものの、20ミリ機銃のみではほぼダメージを与えられなかったことから、より強力な武装を既存の戦闘機に搭載する必要性がクローズアップされた[10]。
- ^ ただし空軍はより悲観的で、0.285と見積もった。なおベトナム戦争時の452発のサイドワインダーの発射記録から算出されたSSKPは0.18であった[1]。
出典
- ^ a b c d e f g h i j k l Friedman 1997, pp. 427–430.
- ^ a b Westrum 2013, ch.3 The Problem Takes Shape.
- ^ a b c Westrum 2013, ch.4 The Wrong Laboratory.
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p Westrum 2013, ch.14 Early Generations.
- ^ Westrum 2013, ch.5 Struggles with Infrared.
- ^ a b c d Westrum 2013, ch.7 Systems Engineering.
- ^ Westrum 2013, ch.8 The Painted Bird.
- ^ a b Westrum 2013, ch.9 Crunch Time.
- ^ a b c d e Westrum 2013, ch.10 To the Fleet.
- ^ Westrum 2013, ch.11 Selling the Air Force.
- ^ a b c d e f g h Kopp 1994.
- ^ Westrum 2013, ch.16 In Combat.
- ^ 関賢太郎 (2018年9月24日). “空対空ミサイル60年、台湾に始まるその歴史とは ガラリと変わった「戦闘機のあり方」”. 乗りものニュース
- ^ 技術研究本部 1978, pp. 145–146.
- ^ a b c d e f g h i j k l m Westrum 2013, ch.15 Later Generations.
- ^ Gordon 2005, p. 24.
- ^ ATK Launch Systems - Sidewinder Propulsion System
- ^ a b AIM-9X Air-to-Air Missile Upgrade
- ^ 航空ファン2011年5月号
- ^ Upgrades Keep Navy Air-to-Air Weapons on the Cutting Edge
- ^ AIM-9X Block II performing better than expected
- ^ 発射後ロックオン可能なAIM-9X Block II 、完全量産へ移行
- ^ Raytheon plans to add more capability to AIM-9X Block II as USN boosts missile buy
- ^ 世界の名機シリーズ F-35 ライトニングII P.41
- ^ US Navy hopes to increase AIM-9X range by 60%
- ^ F-35Cs Cut Back As U.S. Navy Invests In Standoff Weapons
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