サイドワインダー (ミサイル) 第2世代

サイドワインダー (ミサイル)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/20 06:06 UTC 版)

第2世代

AIM-9B(最上段)、AIM-9D(中段)、AIM-9C(最下段)

サイドワインダー1A(AIM-9B)は、サイドワインダー1(AIM-9A)と比べて長足の進歩を遂げ、同時期のファルコンやスパローより明らかに優れているとはいっても、一義的には対爆撃機用の兵器であって、ドッグファイトでの使用はあくまで二義的なものにすぎなかった[4]。このことから、アメリカ海軍と空軍向けに、それぞれ、第2世代のサイドワインダーの開発が開始された。

アメリカ海軍 (-9C/D/G/H)

海軍向けに開発されたのがサイドワインダー-ICであった。サイドワインダー-ICでは誘導方式が再検討され、赤外線誘導装置の改良型(infrared alternative head, IRAH)とともに、セミアクティブ・レーダー・ホーミング装置(semiactive radar alternative head, SARAH)も開発された。IRAHを搭載したモデルはAIM-9D、SARAHを搭載したモデルはAIM-9Cとして制式化されており、誘導装置以外は基本的に同一の設計であった[4]

AIM-9Dでは、当初はセレン化鉛(PbSe)を用いた赤外線センサに移行する予定だったが、開発に失敗したことから、結局は、AIM-9Bと同様の硫化鉛素子を用いつつも、窒素冷媒としたジュール=トムソン効果による冷却装置を導入した改良型となった。これによって熱雑音を低減して感度を向上させ、更に検知波長もやや長波長化された[4]。またレティクルの回転速度を-9Bの70ヘルツから125ヘルツに向上させているほか、センサー窓の素材は、ガラスからフッ化マグネシウムに変更された。なお空気抵抗を低減するために先端をオジーブ状(丸みを帯びた円錐形)に変更した[11]

一方、AIM-9Cは、サイドワインダーに全天候・全方位交戦能力を付与する試みであった。当時、艦隊にはまだエセックス級航空母艦が残っていたが、同級の艦上戦闘機として搭載されていたF-8は、空対空ミサイルとしてはサイドワインダーしか搭載できなかったことから、交戦エンベロープの拡大が求められたものであった。その後、エセックス級・F-8艦上戦闘機の退役とともにAIM-9Cの運用も終了したが、射耗されずに残ったミサイルは、後にサイドアーム対レーダーミサイルに改修されている[4]

またAIM-9C/Dでは、このような誘導装置の改良に加えて、より強力なMk.36固体燃料ロケットを採用して動翼を大型化するとともに[4]、弾頭も重量25ポンド、コンティニュアス・ロッド型で危害半径17フィート (5.2 m)のものに変更された。これによって射程は11.5海里 (21.3 km)に延伸され、また特に誘導装置の改良と動翼の大型化によって交戦エンベロープが拡大されたことで、ドッグファイトでの有用性が一気に向上した[1]

AIM-9Dは5,000発生産される予定だったが、実際には1,850発が生産されたところで改良型のAIM-9Gに切り替えられた。これはSEAM(Sidewinder Expanded Acquisition Mode)を実装しており、ミサイルのシーカーを、戦闘機の火器管制レーダーに追従させて動かすことができる[4]

またAIM-9Gは部分的に半導体素子化されていたが、1972年には、更にその範囲を拡大したAIM-9Hの艦隊配備が開始された[4]。このモデルでは、翼をダブルデルタ化するとともに、シーカーの追尾角速度も増強した[1]。なおAIM-9Hでは、アンチモンインジウム(InSb)を用いた赤外線センサの導入も検討されたものの、これはあまりに冒険的であると判断されたために見送られ、後のAIM-9Lを待つことになった[15]

アメリカ空軍 (-9E/J/N)

アメリカ空軍は、海軍と同じミサイルを導入することを良しとせず、フィルコ-フォード社に独自の改良型を発注した。これは弾体の基本設計やロケットモーター、弾頭はAIM-9Bのものを踏襲しつつ、新しい誘導装置と動翼を組み込んだもので、AIM-9Eとして制式化された[4]

AIM-9Eは、赤外線センサの冷却措置を導入したという点ではAIM-9Dと同様だが、こちらではペルティエ素子による冷却が採用された。また、シーカーの追尾角速度も16.5度/秒に増強されている。AIM-9Eは、5,000発以上が-9Bから改修された[11]

また1972年からは小改正型のAIM-9Jの配備が開始された。これは海軍のAIM-9Hと同様に半導体素子化を進めるとともに動翼のアクチュエータを強化し、ロケットモータの燃焼時間を延長したもので、-9B/Eからの改修分と合わせて、約6,700発が生産された。更に1973年からは、シーカーの動作を改善するプリント基板回路を導入したAIM-9N(AIM-9J-1とも)が開発され、約7,000発が生産された[11]

ただしこれらの空軍版サイドワインダーの成績は、必ずしも良好ではなかった。第7空軍では海軍から借用したAIM-9Gの導入を検討したものの、赤外線センサの冷却方式が異なるためにランチャーの互換性がなく、実現しなかった[4]

アメリカ国外 (-9F)

西ドイツBGT社によって開発された改良型が、AIM-9F(AIM-9B FGW.2とも)である。これは、アメリカ海軍のAIM-9Dと同様にジュール=トムソン効果による赤外線センサの冷却措置を導入しているが、こちらでは、冷媒として二酸化炭素が採用されている。AIM-9Fは1969年より運用を開始し、延べ15,000発が生産された。ヨーロッパで運用されていたAIM-9Bの大半が-9F仕様に改装されたとされている。

諸元表
AIM-9D AIM-9E AIM-9J
画像
全長 2.87m(113in) 3.00m(118in) 3.05m(120in)
直径 12.7 cm(5in)
翼幅 0.63m(24.8in) 0.56m(22in) 0.58m(22.8in)
重量 88 kg(195 lb) 74 kg(164 lb) 77 kg(170 lb)
射程 18 km(9.7 nm) 4.2 km(2.3 nm) 18 km(9.7 nm)
速度 マッハ2.5+
弾頭 11 kg(25 lb)MK 48 4.5 kg(10 lb)

Mk.36 ロケット・モーター

出典:ATKランチ・システムズ公式サイト[17]

  • 型式:Mk.36(オール・ブースト・スラスト・プロファイル)
  • 製造者:ATKランチ・システムズ・グループ(旧チオコール)社
  • 全長:1.80m(71.0in)
  • 直径:0.127m(5.0in)
  • 重量:44.91 kg(99 lb)
  • 推進剤:低煙HTPB
  • ケース材質:4130スチール
  • 絶縁器:R-184
  • ノズル:グラス・フェノール
  • 点火装置:発熱原
  • 運用温度:−65°F - 160°F
  • 保管温度:−65°F - 160°F

同世代機


注釈

  1. ^ 当初、海軍ではAAM-N-7、空軍ではGAR-8と称されていたが、1963年の三軍共通命名規則の導入によって現在の名称となった。
  2. ^ また、1956年2月に発生した事故への対応の不備も、サイドワインダーの導入を後押ししたと言われている。このとき、海軍のA3D-1が事故を起こして乗員が脱出した後も機体が飛行を続けていたことから、空軍のF-100が緊急発進して撃墜しようとしたものの、20ミリ機銃のみではほぼダメージを与えられなかったことから、より強力な武装を既存の戦闘機に搭載する必要性がクローズアップされた[10]
  3. ^ ただし空軍はより悲観的で、0.285と見積もった。なおベトナム戦争時の452発のサイドワインダーの発射記録から算出されたSSKPは0.18であった[1]

出典

  1. ^ a b c d e f g h i j k l Friedman 1997, pp. 427–430.
  2. ^ a b Westrum 2013, ch.3 The Problem Takes Shape.
  3. ^ a b c Westrum 2013, ch.4 The Wrong Laboratory.
  4. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p Westrum 2013, ch.14 Early Generations.
  5. ^ Westrum 2013, ch.5 Struggles with Infrared.
  6. ^ a b c d Westrum 2013, ch.7 Systems Engineering.
  7. ^ Westrum 2013, ch.8 The Painted Bird.
  8. ^ a b Westrum 2013, ch.9 Crunch Time.
  9. ^ a b c d e Westrum 2013, ch.10 To the Fleet.
  10. ^ Westrum 2013, ch.11 Selling the Air Force.
  11. ^ a b c d e f g h Kopp 1994.
  12. ^ Westrum 2013, ch.16 In Combat.
  13. ^ 関賢太郎 (2018年9月24日). “空対空ミサイル60年、台湾に始まるその歴史とは ガラリと変わった「戦闘機のあり方」”. 乗りものニュース. https://trafficnews.jp/post/81423 
  14. ^ 技術研究本部 1978, pp. 145–146.
  15. ^ a b c d e f g h i j k l m Westrum 2013, ch.15 Later Generations.
  16. ^ Gordon 2005, p. 24.
  17. ^ ATK Launch Systems - Sidewinder Propulsion System
  18. ^ a b AIM-9X Air-to-Air Missile Upgrade
  19. ^ 航空ファン2011年5月号
  20. ^ Upgrades Keep Navy Air-to-Air Weapons on the Cutting Edge
  21. ^ AIM-9X Block II performing better than expected
  22. ^ 発射後ロックオン可能なAIM-9X Block II 、完全量産へ移行
  23. ^ Raytheon plans to add more capability to AIM-9X Block II as USN boosts missile buy
  24. ^ 世界の名機シリーズ F-35 ライトニングII P.41
  25. ^ US Navy hopes to increase AIM-9X range by 60%
  26. ^ F-35Cs Cut Back As U.S. Navy Invests In Standoff Weapons





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