ゴシック
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現代のゴシック
ゴス文化
現代のポピュラー・カルチャーにおける「ゴシック」ないし「ゴス」は、ゴシック建築などの歴史上のそれと必ずしも接点があるわけではない。ロック・ミュージックの一ジャンルとして確立した「ゴス」は、1970年代末から1980年代中盤の英国のパンク・ロックからニュー・ウェイヴに至るシーンの細分化の中で登場したムーブメントであった[10]。「ゴス」はゴシック文学の系譜を引いているとも言われ、共通項ではないにせよ、反時代性、古めかしいものや死のイメージに対する愛着、精神的暗部への傾きといった特徴がみられるが、キッチュなB級ホラー映画を好む人々も多い[11]。20世紀に発達した映画という媒体は、ゴシック文学の怪奇幻想志向の大衆化をもたらした[12]。今日のゴスは多様に展開しており、一括りにすることはできない[13]。現代のゴス文化は1990年代から世界的に広まり、音楽のみならず、映画やファッションといった分野にも波及している[14](cf. ゴシック・ファッション)。
初期のゴシック・ムーブメント
もともとゴシックという言葉はジョイ・ディヴィジョンやスージー・アンド・ザ・バンシーズ、バウハウスといったポストパンク・バンドの暗い雰囲気をあらわすのに使われた形容詞で、それは時に否定的な評価を織り込んだ表現でもあった。やがてそれは、1982年頃に出現した初期ゴス・シーンの中で、自分たちのアンデンティティをあらわす肯定的な用語へと意味合いが変化した[13]。1970年代末にはすでに活動していたポストパンク・バンドのバウハウス、スージー・アンド・ザ・バンシーズ、キリング・ジョーク、オーストラリア出身のバースデー・パーティーのほか、セックス・ギャング・チルドレン、エイリアン・セックス・フィーンド、ダンス・ソサエティー、サザン・デス・カルト、スペシメンといったバンドがこの頃登場した。グラムロックもかれらのルーツのひとつであり、バウハウスはデヴィッド・ボウイやT・レックスの曲をカバーした。スペシメンのメンバーが1982年にソーホーで開いたクラブ「バットケイヴ」には“奇人変人”が集まり、初期のゴシック・ムーブメントの中心となった[15]。北米のロサンゼルスではクリスチャン・デスを中心とするデスロック・シーンがこれに呼応していた。リチャード・ノースは『NME』の記事でこれらのバンドを「ポジティヴ・パンク」と命名して紹介した[15]。また、近縁のジャンルとしてエコー&ザ・バニーメンをはじめとするネオサイケと呼ばれたバンド群があり、中でもダーク・ウェイヴとも呼ばれるザ・キュアーの暗いサウンドは後の世代にも大きな影響を与えている[10]。
ゴシック・ロック
ゴス・シーンから登場したシスターズ・オブ・マーシーとサザン・デス・カルト(およびその後身のザ・カルト)は、ロック・バンドであることを前面に押し出し、ゴシック・パンク/ポジティブ・パンクからゴシック・ロックへの橋渡しとなった[16]。ザ・ミッション、オール・アバウト・イブ、フィールズ・オブ・ザ・ネフィリムといったバンドがこれに続いた。
ゴシックメタル
1990年代に入ると、デスメタル寄りのメタル・バンドであったパラダイス・ロストやマイ・ダイイング・ブライドが暗鬱かつ耽美的なサウンドを奏でるようになり、ゴシックメタルと呼ばれた。特徴としてはヨーロッパ的な美意識や宗教的な雰囲気といったものが指摘される[17]。ゴシックメタル黎明期にリリースされたパラダイス・ロストの2ndアルバム Gothic (1991) は、女性ボーカルやオーケストレーションも交えてゆったりと進行する重厚なデス/ドゥーム作品であった。その後、女性ボーカルを中心に据えたシンフォニックなヘヴィメタルなど、さまざまな音楽性のバンドがゴシックメタルに分類されるようになっている。
日本
日本では、1980年代のポジティブ・パンク(ポジパン)の妖しい装いやメイク、黒装束といった要素はヴィジュアル系の人々に受け継がれた[10]。また、ゴシックとロリータを並べて置いたゴシック・アンド・ロリータ(ゴスロリ)というサブカルチャーないしファッション様式が生まれた。
- ^ 現代の歴史学ではそのような歴史観は修正されている。
- ^ メアリー・シェリーが書いたゴシック・ロマンス『フランケンシュタイン』(初版1818年)の中でヴィクター・フランケンシュタインが創造した怪物。
- ^ イギリスのゴシック小説において吸血鬼をモチーフとした散文作品はジョン・ポリドリの『吸血鬼』(1819年)を嚆矢とする。その後もホラーノベルのジャンルでシェリダン・レ・ファニュの『カーミラ』(1872年)、ブラム・ストーカーの『吸血鬼ドラキュラ』(1897年)といった吸血鬼小説が書かれている。
- ^ 樺山紘一「ゴシック」『世界大百科事典』(改訂新版)平凡社、2007年。
- ^ 沙月 2008, p. 34
- ^ 柳 2008, p. 122
- ^ J・ル=ゴフ 『中世とは何か』 池田健二・菅沼潤訳、藤原書店、2005年、77-78頁。
- ^ a b 小谷 2005, p. 35
- ^ 酒井 (2000), pp. 9-10.
- ^ 酒井 (2000), pp. 10-11, 130-131.
- ^ 酒井 (2000), p. 10.
- ^ 杉山ら (2000)[要ページ番号]
- ^ a b c 『PUNK ROCK STANDARDS - THE GREATEST PUNK DISCS FOR 30 YEARS』 TOKYO FM出版、2006年、86頁(筆者=石橋和博)。
- ^ レイノルズ (2010), p. 283.
- ^ 木村 (2007), p. 24.
- ^ a b レイノルズ (2010), p. 281.
- ^ 木村 (2007), pp. 24-25.
- ^ a b レイノルズ (2010), p. 282.
- ^ レイノルズ (2010), p. 291.
- ^ 『ハード&ヘヴィ - ハード・ロック/ヘヴィ・メタルCDガイド600』 音楽之友社、1995年、192頁(筆者=行川和彦)。
ゴシックと同じ種類の言葉
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