コインロッカーベイビー
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/04 08:57 UTC 版)
社会背景
高度経済成長から日本人の生活は一気に高度化、社会全体に豊かさが行き渡った反面、社会の発達は様々な自動化・無人化されたサービスを生んだ。コインロッカーは、1953年に東京駅八重洲口に当初係員から鍵を借り受ける形で始まったが、この時代にはその利便性が受け、全国の駅に設置されていた。
その一方、海外のドラマや恋愛映画などの若者文化に影響を受けた若者世代には、生活スタイルの欧米化により、未婚のまま子供が出来るケースも増大していた。昭和30年代は平成や令和に比べ、出産から育児・子育てに対応できるだけの社会的支持基盤がなく[3]、避妊や保育施設も現在ほど普及していなかった。このため、人知れず出産して子を持て余し、あるいは邪魔になったとしてそのまま遺棄してしまったりするケースも増大していたという。
コインロッカーベイビーで遺棄した側が検挙された例の多くでは、未婚の母であったという。これは(既婚・未婚問わず)相手の男性が女性と関係を持ったものの、女性の妊娠が発覚した場合はそこから去り、出産や育児に対する責任を放棄するためであった。
文化面への影響
社会問題化したため、以下のようにこれにまつわる作品も存在し、死亡した状態で発見されるケースが多かったながらも、「もし遺棄された子供が生きていたなら」という前提で、この捨てられた子供を主人公とした作品も見られる。
- 『コインロッカー・ベイビーズ』
- 1980年に上記の一連の事件をモチーフとして、村上龍によって描かれた長編小説。コインロッカーベイビーとして遺棄された主人公2人は仮死状態で発見され、同じ孤児院・同じ養父母のもとで育った後、別々の道を歩む。
- 『青空ふろっぴぃ』
- 細野不二彦の漫画(1985年 - 1986年連載)。主人公はコインロッカーベイビーとして遺棄され、浮浪者に育てられる。
- 『コインロッカーのネジ。』
- こなみ詔子の漫画。コインロッカーベイビーであった主人公は、財布をすり取ったことをきっかけに自殺未遂の過去を持つ青年に拾われる。
- 『間引き』
- 藤子・F・不二雄のSF短編の一編。コインロッカーベイビーを例として、人口爆発後の人類の「愛情の消滅」をテーマに置いている。
- 『龍が如く7 光と闇の行方』
- セガから発売されたゲーム。元極道である主人公とその兄弟分は同じ年の同じ日に生まれ、コインロッカーベイビーとなった挙げ句、育て親の取り違えによって全く異なる運命を辿ることとなる。
上記のほか、コインロッカーで遺棄された赤子が後に幽霊として出現する怪談や都市伝説が流布した。その内容は、育てきれなくなった赤子をコインロッカーに遺棄した経験を持つ母が、数年後にやむなく(それまでは避けていた)そのコインロッカーの付近を通ったときに泣いている男児を見つけ、「お母さんは?」と声をかけると男児から「お前だ!」と返事されるというものである[4]。
脚注
- ^ a b 福田洋; 石川保昌『図説 現代殺人事件史』(増補新)河出書房新〈ふくろうの本〉、2011年3月30日、40頁。ISBN 978-4-309-76157-2。 NCID BB05451620。
- ^ 「国鉄 コインロッカーの使用期限短縮 来月20日から三日以内に 相次ぐ犯罪への利用防止」『交通新聞』交通協力会、1973年6月27日、2面。
- ^ 1973年当時は第2次ベビーブームで、その年の出生数は209万1983人と、少子高齢化が進行した50年後の2023年の2.5倍に相当する。合計特殊出生率も2.14(2023年は1.26)もあった
- ^ 原田萌 「渋谷シックスセンス――見えないシブヤ遺産からのメッセージ」『シブヤ遺産』 バジリコ、2010年、155-156頁。ISBN 978-4862381620。
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