ケスラーシンドローム
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/08 03:15 UTC 版)
現状
21世紀初頭には毎年何十機もの人工衛星が打ち上げられるため、必然的にデブリの数は増え続けており、カタログに掲載されている軌道物体同士がほぼ毎日のように 1 km 以内をすれ違うまでになっている[27]。
衝突事例
2005年までに、NORAD のカタログに掲載されている軌道物体同士の衝突は 3 例報告されている[27]。
- 1991年12月、ロシアの人工衛星「コスモス1934号」と姉妹衛星の「コスモス926号」に由来するデブリが高度 980 km で衝突した。この衝突に由来するデブリは 2 つしか発見されていないが、多数の微小なデブリが発生したと考えられる。
- 1996年7月、フランスの人工衛星「スリーズ」が、欧州宇宙機関のロケット、アリアン1の第 3 段部分と衝突し、衛星のアームが本体からもぎ取られて新たなデブリになった。
- 2005年1月、アメリカのロケット、トール・バーナー2Aの上段部分と、中国のロケット、長征4号の第 3 段部分が高度 885 km で衝突し、3 つのデブリが新たにカタログに掲載された。
- 2005年以降
- 2009年2月10日16時55分(UTC)シベリア上空 790 km で、米国の衛星携帯電話用通信衛星「イリジウム33号(Iridium 33)」と、機能停止したロシアの偵察衛星「コスモス2251号」が衝突し、およそ 600 個のデブリが発生したと見られている(2009年人工衛星衝突事故)。
衝突による爆散が全体に占める割合は 2 %弱、衝突によって発生したデブリの個数は全体の 0.1 % にも満たない[17]。
対策
たとえケスラーシンドロームが起こらないとしても、大型のデブリが稼動中の衛星に衝突すれば大変な損害を被るため、地上から観測可能な大きさのデブリはカタログに登録され、地球近傍天体と同様に各国のスペースガードなどによって監視が続けられている。
- デブリ低減
- 低軌道におけるケスラーシンドロームが現実的な脅威と認識され始めた1990年代後半から、NASA をはじめとする各機関においてデブリ低減のためのガイドラインが策定された[14]。
- たとえば IADC(Inter-Agency Space Debris Coordination Committee; 国際機関間宇宙デブリ調整会議)によって、2002年に策定されたガイドラインでは、運用中のデブリの削減、軌道上での爆散確率の最小化、ミッション終了後の衛星の廃棄、軌道上での衝突の防止を定めている[28]。この中で、ミッション終了後、静止軌道では形状に応じた墓場軌道への移動、低軌道では 25 年以上軌道物体を残さないことを推奨している。
- デブリ除去
- 21世紀初頭のシミュレーションでは、たとえデブリ低減策を徹底させたとしても、デブリの総量は今後減らないことが示唆されている[19]ため、能動的にデブリを除去する方法の開発が進められている。これまで、地上からレーザーを照射する方法[29]や、導電性テザー[30]を用いて軌道寿命を短くする方法などが提案されているが、コストと技術の両方の問題を乗り越えて実用化された方法はまだない[19]。
注釈
- ^ Satellite Orbital Debris Characterization Impact Test.
- ^ a b a LEO-to-GEO Environment Debris model.
- ^ a b c the Semi-Deterministic Models and Stochastic Model.
- ^ a b the Meteoroid and Space Debris Terrestrial Environment Reference.
- ^ a b Orbital Debris Environment Model.
- ^ a b Integrated Debris Evolution Suite.
出典
- ^ a b c d Portree and Loftus (1999).
- ^ a b c Kessler (1991).
- ^ a b Kessler and Anz-Meador (2001).
- ^ a b c Eichler and Rex (1990).
- ^ a b Rossi et al. (1994).
- ^ a b c 八坂 (1997).
- ^ Goka and Neish (2001).
- ^ Broad (2007).
- ^ a b UNOOSA (1999).
- ^ Bottke et al. (1995).
- ^ a b Kessler and Cour-Palais (1978).
- ^ a b Jehn et al. (1997).
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- ^ a b Gregory (1995).
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- ^ a b Krisko (2000).
- ^ a b Whitlock (2004).
- ^ Anselo, Rossi, and Pardini (1999).
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- ^ a b 花田-八坂 (2002).
- ^ McKnight, Maher, and Nagl (1995).
- ^ Johnson et al. (2001).
- ^ Liou et al. (2004).
- ^ Meshishnek (1995).
- ^ a b Orbital Debris Quarterly News vol. 9, issue 2, (2005).
- ^ IADC (2002).
- ^ Monroe (1993).
- ^ Ishige, Kawamoto, and Kibe (2004).
- ^ ASM-135 ASAT.
- ^ http://www.technobahn.com/cgi-bin/news/read2?f=200701191525
- ^ Anz-Medor and Potter (1991).
- ^ http://www.afpbb.com/article/environment-science-it/science-technology/2353771/2663696
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