クモの網
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/06/24 06:11 UTC 版)
網の進化
クモの網の進化についてはわかっていないことが多い。ただ、円網のような規則的で複雑な構造がすぐにできあがるとは思えないことから、いかにして円網が完成したか、と言う議論がなされている[8]。
原始的なクモ類であるハラフシグモ亜目(キムラグモ)のもの、およびクモ亜目トタテグモ下目(トタテグモ・ジグモなど)のものは、ほとんどが地下に穴を掘って生活している。巣穴の入り口に糸で作った扉を持つものが多いが、入り口からその周辺の地上に糸を放射状に引くものがある。これに触れた小動物の動きが巣に伝わる事で、獲物を感知し、クモは穴から出て攻撃する。さらに穴の口からより多くの糸を伸ばしてシート状にするものもある(ジョウゴグモ科など)。したがって、このような形が網の起源と考えられる。
ここから先の変遷については、分類体系が近年大きく変動していることもあって、定説はない。古典的な議論では、以下のような過程が考えられている。
上記のジョウゴグモ類のジョウゴ網をそのままより高い位置に移せば、タナグモ科などの棚網に移行する。この、棚網の持つ水平のシートがより発展するとサラグモ科の皿網となる。サラグモ類のシートは粘性がない糸を不規則に重ねたものだが、これが格子状に整えられたものがスズミグモ属の網で、これが平面になり、粘性を持つ横糸を張ると、円網が完成する。
また、糸疣に篩板を持つ群は別の系統と考えられていたから、この群における円網の進化の過程も別個に考えられている。それによると、イワガネグモ科に見られるような、トンネルの入り口に不規則に糸を張り、そこに篩板類特有の粘着する糸を張ったものから、ガケジグモなどに見られるようなぼろ網が発展する。このような網では巣穴の口から引かれた糸の間に粘着する糸が沿うようにあったり、2本の糸の間にジグザグに張られたりと、一部ながら格子型の糸の配置がある。このような部分が放射状に整いながら、トンネル状の巣穴がなくなることでウズグモ科の円網が出来る。
しかしながら、現在では篩板を持つ群がそうでない群と独立した系統だとする説が否定されることが多い。それに、スズミグモ属は典型的な円網を張るコガネグモ属と姉妹群をなすとされ、そこからも上記の説はなじみがたい。
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- ^ 八木沼健夫 1969, p. 71.
- ^ “非対称な網を張るアメリカジョロウグモ、微小重力下では光の有無で非対称性が変化”. it.srad.jp (2020年12月13日). 2023年7月10日閲覧。
- ^ Zschokke, Samuel; Countryman, Stefanie; Cushing, Paula E. (2020-12-03). “Spiders in space—orb-web-related behaviour in zero gravity” (英語). The Science of Nature 108 (1): 1. doi:10.1007/s00114-020-01708-8. ISSN 1432-1904 .
- ^ Rainey, Kristine (2015年6月11日). “Spiders in Space Weave a Web of Scientific Inspiration for Spider-Man”. NASA. 2023年7月10日閲覧。
- ^ この項は Foelix(1982)pp.144-146 を中心に
- ^ 新海栄一 2006, p. 316.
- ^ “クモの糸が導く未来<2> 傷口の治療に効果”. CNN.co.jp. 2023年7月9日閲覧。
- ^ “EVALUATION OF WOUND HEALING POTENTIAL OF SPIDER SILK USING MICE MODEL. - Free Online Library”. www.thefreelibrary.com. 2023年7月9日閲覧。
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