カーリング 用具

カーリング

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/07/14 02:52 UTC 版)

用具

ストーン(石)

花崗岩でできたカーリングのストーン

上部に取っ手をつけた円盤型の石。1チームが8個を使用し、カーリング競技を行うためには16個必要となる。チームの判別のために上部はプラスチックのカバーで色分けされており、五輪などの主要な大会では主に赤と黄の物が用いられるが青や緑もある。公式なサイズは円周が36インチ(約91センチメートル [cm])以内とされており、よって直径は約29 cm以下である。また、高さが4.5インチ (11 cm) 以上、重量は38 - 44ポンド(約17 - 20キログラム)と決められている[8]

ストーンの底面は平坦でなく中心部分がわずかに凹んでおり、直径およそ13 cm、幅1 cm前後のランニング・バンド (running band) 、またはエッジと呼ばれるリング状の部分でのみ氷と接する。ランニング・バンドの表面の粗さはストーンの曲がりに影響し、競技で使用されるに従いカールしにくくなっていくため、必要に応じてランニング・バンド部分の表面が適切な粗さとなるよう特定の紙やすりの上を滑らせることによって処理される[9]近年まで[要出典]ストーンの曲がり易さはアイスの状態によるものとされており、ペブルの作り方によって曲がり方に差が出るものとされてきた、しかし、最近になってカーリングにおけるカールは、このランニングバンドにあると突き止められた。

国際大会で使用されるストーンは、氷と接する滑走面にスコットランドアルサクレイグ島特産のブルーホーン (Blue Hone) 花崗岩と呼ばれる花崗岩を用いているものが主流である。ブルーホーン花崗岩は、鉱物粒子が細かく強度と均質さに優れており、カールの仕方も「他の石では真似できない」とされる。他産地の石では密度が低いために氷の上で石が水を吸い、吸われた水が再び凍ったときに石が膨張して割れやすくなる。衝突が起こるストライキング・バンド (striking band) を含む胴体部にはアルサクレイグ島産のコモングリーン (Common Green) 花崗岩など欠けにくく粘りと弾性に優れた花崗岩が使われる。この胴体部の石に空けたくぼみに滑走面用の石がはめ込まれエポキシ樹脂で貼り付けられている[10][11]。資源保護の観点からアルサクレイグ島での採石は20年に一度しか行われなず、直近では2002年に行われたが近年はかなり採掘量が減っており、花崗岩をスライスしてストーン1つ当たりの使用量を絞ったものも出てきている。石は有限資源であり、今後は枯渇が懸念される。

ストーンは、100年以上使用できるとされているほど耐久性が高いが、需給のバランスなどから1個約10万円以上(1セット160万円)する高価な物である。ただし、日本カーリング協会では「ストーンは個人で所有するものではなく、会場にあるものを使う」と説明しており[12]、基本的に選手が購入することはない。

オリンピック等の大きな大会ではストーンに内蔵された電子ホッグライン違反検知システム(Eye on the Hog英語版)が使用される。このシステムは投擲時にホッグラインまでにストーンから手を離したかをセンサーを用いて審判の代わりに自動的に確認するもので、ストーンを傾けると作動し始める。正常に作動した場合はグリップから手を放すと緑色のランプが点滅するため、選手は投擲前にこれを確認する。投擲の動作を行っている間は、選手の集中を阻害しないようランプが消灯される。[13]正常に投擲された場合は手を離すと緑色のランプが点灯する。投擲前にストーンを傾けるのを忘れたり、ホッグラインを過ぎても選手が手を離さなかったなどの違反があった場合は赤のランプが点滅して投擲は無効となり、スイーパーがストーンを取り除く。なお、北京オリンピックではこの検知システムが作動しない不具合が多発したため、競技日程(ラウンドロビン)の途中で使用が停止された。[14]

その他の用具

スウィーパー(ブラシ)
滑っていくストーンの方向や速度を調整するために氷面を掃く(スウィープする)デッキブラシ状の道具。
かつて柄は木やグラスファイバー製が多かったが、近年ではより軽量なカーボンファイバー製も多い。
ほうき
滑っていくストーンの方向や速度を調整するため、氷面を掃く道具。かつては競技が屋外で行われていたこともあったため、砂やほこりなどを取り除く目的で使用された。
現在は公式競技が屋内で行われるため、滅多に見られることはないものの、氷上の霜を取るために使われることがある。
カーリング靴
カーリング専用の靴。右投げの場合、左の靴底は滑りやすくするためテフロン加工されている。右側のソールは滑りにくくできている。スウィープ時は左側にアンチスライダー(グリッパー)という滑り止めを装着する。左投げ用は逆になっている。
専用靴が無い場合、通常の靴にスライダーという滑りを良くするカバーを装着することでプレーできる。
選手はこれを利用して、長い距離を移動する際に片足で滑って移動する。
ストップウォッチ
ストーンの通過速度を計測することで、ウェイトを判断するために使用する。腰に紐でさげていることが多いが、ブラシの柄に取り付けられるカーリング専用ウォッチもある。
ウェア
スウィーピング時には、かがんだ状態で腕を細かく動かすため、腕の動きを阻害しないタイトな上着を着用する(余裕がありすぎるとかがんだ際に視界を遮ってしまう)。屋内競技であるため分厚い防寒着は必要なく、会場の室温によっては半袖の選手も多い。
ショットの際に脚を前後に大きく開くため、伸縮性があり裾がやや広がったズボンを着用する。この他に膝を保護するためのニーパッド、グローブの着用も認められているが、使用しない選手も多い。
デリバリースティック
ゲーム終了時などにストーンを移動する際、立ったまま動かすための補助スティック。
通常ゲーム中は使用できないが、車いすカーリングやシニア向けの大会ではショットの補助に使用できる。
無線機
後述のように、オリンピックなどの大きな大会ではテレビ中継を意識し、無線マイクによる選手の声をマスコミにも提供している。

注釈

  1. ^ 野球やソフトボールで言う、大差コールドに近い。
  2. ^ カーリグシートは1シートあたりの長さが最低40m必要なため、シートを増やすと専用のカーリングホールの建設費は高額となる。競技人口が少ないため建設費の採算をとることは難しい。2006年トリノ五輪および2010年バンクーバー五輪でカーリングの解説を行い有名となった後、2016年2月に死去した小林宏が生前、山梨県山中湖村に私財を投じて私設のカーリング場「Curlplex Fuji」を建設し話題となったが、常設2シートで建設費用は約1億3000万円と言われている。2020年に北海道北見市柏陽町内の北見ハイテクパーク内に開業したアルゴグラフィックス北見カーリングホールの建設費は、3シートで約10億2300万円余だったとのことである。 製氷なども含めた年間の維持費は約2000万円~4000万円とされており、またストーンは高額かつ高重量となることからカーリングホールの所有物となることが多い。ペブルを作るために専用の製氷機の使用は国家資格を必要とする。
  3. ^ かつては試合中に1チームが1分間のタイムアウトを2度取ることができ、時計を止めた上でコーチの助言を仰ぐことができた。
  4. ^ 2018-2019シーズンより前は最初の4ストーンまで。
  5. ^ 長野オリンピック開催前まではタイムアウト時もコーチとの話し合いは認められていなかった。

出典

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