アルコールハラスメント アルコールハラスメントの概要

アルコールハラスメント

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/08/29 07:39 UTC 版)

ナビゲーションに移動 検索に移動

定義

飲酒の強要等の社会問題は広くパワーハラスメントの一種として捉えられることもあるが、アルコールハラスメントは日本でアルコール飲料に関する嫌がらせを意味する概念としして用いられている和製英語である[1]。日本では、アルコールハラスメントが原因での死亡者がでたことをきっかけとして1980年代以降に急速に問題視されはじめた[2]

この問題に関する日本の代表的な組織である、特定非営利活動法人アルコール薬物問題全国市民協会(ASK)は、アルハラ行為を次の5つに規定している[1][3]

  1. 飲酒の強要
    上下関係、伝統、習慣、集団でのはやし立てを背景に、あるいは罰ゲームなどといった形で心理的圧力をかけて飲酒を強要することである[4][1]
  2. 一気飲ませ
  3. 意図的な酔いつぶし
  4. 飲めない人への配慮を欠くこと
    本人の体質や本人の意向を無視して飲酒をすすめる行為や宴会などの場に酒類以外の飲み物を用意しないことなどである[4]
  5. 酔ったうえでの迷惑行為

なお、ハラスメント(嫌がらせ)の一種と捉えられているものの、実質的には飲酒を強要する行為は単なる嫌がらせを超える人権侵害行為であり、死者が出ている事例もあり傷害行為にあたるとの指摘もある[1]

飲酒の環境と社会問題

古くから酒類はコミュニケーションの道具として用いられてきた。軽度の飲酒は気分を楽しくし人間関係を円滑にする潤滑剤の役目を担ってきたと言ってもよい(飲みニケーションも参照)。

しかし、度を過ぎて飲酒すると眩暈吐き気といった不快な症状を招き、また判断力を失った酔漢の常軌を逸した行動は、しばしば周囲の人間に不快感を催させ、しかも当人が常識の埒外にあるため、余計に事態を悪化させる場合がある。また、急激・大量の飲酒(いわゆるイッキ飲み)は、急性アルコール中毒の原因となり、それによりを招くことも珍しくない。

アルコールを受け付けない体質は多くが遺伝性の要因によるものである[1]。特に日本人は約35%がアルコールの解毒能力が弱く急性アルコール中毒に陥りやすいALDH2(2型アルデヒド脱水素酵素)ヘテロ欠損型の体質であり遺伝的にお酒に弱いと言われている[4]

一方、社会的要因も挙げられている。例えば、飲酒の強要は上下関係、伝統、社会的な習慣などから心理的圧力をもたらすことがある[4]。なお、飲酒の強要などの問題は、上下関係や長幼の序を重んじる東アジアに特有のものとの分析がある一方、アメリカでの大学生による飲酒事故などからそのような背景のみではないとの分析もある[3]

日本

企業内アルコールハラスメント

特に社会的な対人関係において、酒の席や歓待行為に絡むトラブルは根強い。歓待のつもりで酒宴を行い、酒を飲めない相手が余計に気分を害することもしばしばで、特に日本の会社社会では役職の上下関係から、上司から勧められた杯を返すことは礼を失する行為であると長らく思われてきたため、酒に弱い体質であったり、酒癖が悪いために自重している者が、無理に飲酒して健康を害したり、後々まで悔恨する事故を起こす例は多かった。

特に日本の古い会社社会では、女性社員や平社員が酌をして回る、あるいは上司が部下に労をねぎらう意図で酒を飲むことを勧めるという風習も見られ、これらでは勧める側が飲酒を要求した場合に、勧められた側が断ることを良しとしない・恥をかかされたと感じるなどの風潮もみられ、このような件でのアルコールハラスメントは、文化的土壌やパワーハラスメントとしての側面を含んで根絶しにくいとの指摘もある。

大学内アルコールハラスメント

アルコールハラスメントの問題は、日本では、1980年代以降に急性アルコール中毒で死亡する20代の若者が続出したことから注目されるようになった。特に1980年代から1990年代にかけて大学生などのイッキ飲みが急性アルコール中毒死の原因として注目され、社会問題として取り沙汰されるようになると、死亡した大学生の遺族らによる呼び掛けによって、社会運動のキーワードとしてこの語は広まった。

韓国

韓国など儒教思想の色濃い地域では、このヒエラルキーを重視する同思想の関係から目上の者が目下の者に飲酒を勧めた場合、社会通念上でも固辞することをタブーのように捉える・あるいは固辞されると面目が潰されたと感じる傾向がある。この問題は爆弾酒のような飲酒方法にも絡む。

アメリカ合衆国

アメリカの大学ではヘイジング(hazing)と呼ばれる「新入りいじめ」の問題があり、この言葉自体は飲酒の強要を指すものではないが、特定のサークルや社交クラブに加わる通過儀礼としてゲーム感覚の飲酒が課され、酒がヘイジングの道具として使用されることで飲酒事故に発展する例がある[3]。このような問題への対策としてアメリカの多くの大学では飲酒関連問題に対応する委員会が設置されアルコールポリシーが定められている[3]

危険性

イッキ飲み

イッキ飲み(一気飲みとも)は、1980年代頃から大学生らの間で流行した、一息に酒を飲み干す行為のことで、当初はビールなどのアルコール度数の低い酒を大ジョッキで飲み干す、一種のお座敷芸だった。しかしこれが次第に、場を盛り上げるために「コール」(英:callと同義)と呼ばれる囃し立てと共に他人に強要されるようになってくると、場をしらけさせているとして下戸までもがイッキ飲みを強要されるようになってきた(→場の空気)。

イッキ飲みが一種の度胸試しのようになってくると、次第にアルコール度数の高い酒を飲み干すことを求められるケースも多くなってきた。中には飲んだら強引に吐かせ、さらに飲ませるという行為まで横行し、飲食店や飲み屋側は酒が売れるならと見て見ぬ振りをすることもあったことが、問題を深刻化させた。

特に、進学シーズンともなると、毎年のように新入生がコンパなどでこのイッキ飲みを強要された挙句、急性アルコール中毒で救急病院に担ぎ込まれるケースが続発し、毎年のように死亡者が多数出る[5]。そのため、今日では店側がイッキ飲みを禁止、制止している場合も少なくない。さらに、未成年者飲酒禁止法により、20歳未満の飲酒と購入、20歳未満への販売・提供が禁止されているが、新入生の多くは18~19歳と未成年者で飲酒経験もない者がほとんどであり、もし未成年者に上記のような事態が発生した場合は、酒を販売・提供した店側の責任も問われることになる。最近では、来店者に年齢確認が可能な公的書類(≒身分証明書)の提示を求め、持っていない人や確認出来た未成年の入店自体を断る店も増えてきている。

塩川正十郎の甥が大学で一気飲みを強要されて急性アルコール中毒で急死し、当時官房長官だった塩川は朝日新聞への投書でこの風潮に問題提起している。

ビンジ・ドリンキング

飲酒に伴う危険に関して、従来は平均飲酒量や一定期間での総飲酒量で評価されることが多かった[4]。しかし、ビンジ・ドリンキング(binge drinking、無茶飲み)と呼ばれる非日常的な大量飲酒のリスク(事故、虚血性心臓病、アルコール依存症など)も注目されるようになっている[4]

飲酒に関する法律及び指針

WHO

世界保健機関(WHO)はアルコールの有害使用低減に関する世界戦略(アルコール世界戦略)の指導方針において「子供、十代の若者、酒を飲まないことを選択した成人は、飲まないという行動が支持され、かつ、飲酒を強いられることから守られる権利を有する」と明記されている[3]

日本

酒に酔つて公衆に迷惑をかける行為の防止等に関する法律

日本においては「酒に酔つて公衆に迷惑をかける行為の防止等に関する法律」(別名:酩酊防止法、よっぱらい防止法)が存在し、酩酊者の行為規制や保護について規定する一方、同法第2条(節度ある飲酒)において、「すべて国民は、飲酒を強要する等の悪習を排除し、飲酒についての節度を保つように努めなければならない」としている[1]

この法律は1961年制定の法律で、第2条の条文の趣旨はアルコールハラスメント防止にもつながる内容となっている[1]。一方で第2条のタイトルが「節度ある飲酒」となっており、ある程度の飲酒が前提になっているような表現になっている点に関しては昔ながらの飲酒文化の影響が垣間見えるとの指摘もある[1]

刑事責任・民事責任

泥酔者を放置して致死させた場合などには、保護責任のある関係者(酒宴の責任者など)に遺棄罪が問われることもあり(後述)、アルコールハラスメントでは、飲酒の無理強いと並んで、急性アルコール中毒に陥った者を放置した側の責任も、問題の一端に挙げられている。

  1. 飲酒を強要する行為は、強要罪。なお、未遂処罰規定があるため、強要された側が毅然と断っても強要した側は犯罪となる。
  2. 被害者を酔い潰す行為は、意図的なものでなくとも過失傷害罪または重過失傷害罪。酔い潰す結果を意図していた場合には傷害罪
  3. 酔い潰した被害者が死亡した場合、過失致死罪または重過失致死罪。ただし、飲酒強要の態様によっては傷害致死罪も成立しうる。
  4. 酔いつぶれた被害者を放置した場合、保護責任者遺棄罪。放置の結果死亡した場合保護責任者遺棄致死罪。
  5. 直接飲酒を強要したわけではなくとも、周囲ではやし立てるなどしていた結果被害者が酔い潰れた場合には、傷害罪#現場助勢罪。また、直接強要した者の共同正犯ないし幇助犯とされることもあり得る。
  6. 死亡・後遺障害が発生すれば、直接強要した者や、同席の上ではやし立てていた者にも、民事上の賠償責任が発生する。特に大学進学した新入生が、死亡ないし重篤な後遺症を残した場合、余命が長く利益損失が高く見込まれることから、損害賠償が億単位になることもあり得る。
  7. 酔った勢いで公衆に迷惑をかけるような著しく粗野又は乱暴な言動をする事を教唆又は幇助した者は、酒に酔つて公衆に迷惑をかける行為の防止等に関する法律4条3項により、当該著しく粗野又は乱暴な言動をした者と同罪に問われる。



  1. ^ a b c d e f g h すこやか特集”. コーセー健康保険組合. 2019年3月27日閲覧。
  2. ^ 『世界の酒日本の酒ものしり辞典』外池良三、東京堂出版、2005年8月15日、初版、22ページ。ISBN 4-490-10671-8
  3. ^ a b c d e f 眞崎睦子「なぜ大学生の飲酒死亡事故はなくならないのか」”. 北海道大学. 2019年3月27日閲覧。
  4. ^ a b c d e f 武藤岳夫「アルコール健康障害の理解と対応~生活習慣病との関連を中心に~」”. 広島県国民健康保険団体連合会. 2019年3月27日閲覧。
  5. ^ 急性アルコール中毒などによる死者数 ASK


「アルコールハラスメント」の続きの解説一覧





アルコールハラスメントと同じ種類の言葉


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「アルコールハラスメント」の関連用語

アルコールハラスメントのお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



アルコールハラスメントのページの著作権
Weblio 辞書情報提供元は参加元一覧にて確認できます。

  
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアのアルコールハラスメント (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2021 Weblio RSS