アルコールハラスメント アルコールハラスメントの概要

アルコールハラスメント

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/09/15 06:30 UTC 版)

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概説

定義

アルコールハラスメントは、アルコール飲料に関する嫌がらせを意味する用語・概念として用いられている和製英語である[1]

この問題に関する日本の代表的な組織である特定非営利活動法人アルコール薬物問題全国市民協会(ASK)は、アルハラに当たる行為は以下の5つだと定義している[1][2]

  1. 飲酒の強要
    上下関係・伝統・習慣・「集団でのはやし立て」・罰ゲームなどで心理的圧力をかけて、飲酒を強要すること[3][1]
  2. イッキ飲ませ[1]
    一気に飲ませること(「イッキ、イッキ」などと、一気に、つまり一度うつわに口をつけたらそのまま飲み干すことを強要すること)。また飲む速度を競わせること[1]
  3. 酔いつぶし[1]
    はじめから、誰かが酔いつぶれる状態になることを意図して飲み会を行うこと。意図があるので明らかな傷害罪(傷害行為)に当たる
  4. 飲めない人への配慮を欠くこと[1]
    本人の体質や本人の意向を無視して飲酒をすすめる行為や、宴会などの場に酒類以外の飲み物を用意しないこと、また飲めない人をからかったりすること[3]
  5. 酔ったうえでの迷惑行為[1]
    酔ってたとえばいわゆる「悪ふざけ」を始めたり、言葉でからんだり、暴言をはいたり、暴力をふるったり、セクハラなどをすること[1]

なお、飲酒の強要・一気飲ませ・意図的な酔いつぶしなどは、一般に、なんらかの立場の優位(先輩であること、上長であること、社長であることなど。英語で言う「パワー」)を悪用して行われるので、それらは一般にパワーハラスメントの一種でもある。

歴史

日本では、アルコールハラスメントが原因での死亡者がでたこともきっかけとして1980年代以降に急速に問題視されはじめた[4]

酒の功罪、体質の多様性、飲酒の強要の背景

もともと酒類には良い面と、悪い面がある。一面としては、軽度の飲酒は楽しい気分になり(注 - あくまでお酒を飲める体質の人であれば、の話である)、人間関係を円滑にする潤滑剤の役目を担う場合もあるが、他方で、過度なアルコール摂取は眩暈・吐き気といった不快な症状をもたらし、しばしば嘔吐に至る。特に、酒類が飲めない体質の人(内臓でのアルコール代謝・分解ができなかったり、その速度が遅い体質の人)にとっては酒は一種の毒物であり、微量でも体調を悪化させるものであり、健康を害するものである。また、急激・大量の飲酒は、酒に弱かろうが強かろうが、急性アルコール中毒の原因となり、端的に言えばの原因ともなりうる。また酔っ払いつまり酔った状態の人というのは、理性や自制心を失い、さまざまな迷惑行為を行い、しばしば事故や犯罪も起こす。飲酒が原因で恒久的に評判を落としたり、酒を飲んでやらかしたことが原因でキャリアをすっかり棒に振ってしまう人も多い。また酒は、たちの悪い習慣性のアルコール中毒も引き起こす。

アルコールを受け付けない体質は、多くが遺伝性の要因によるものである[1]。本人の落ち度ではまったくないし、飲酒の回数や訓練などで改善するものでもない。

特に日本人は約35%がアルコールの解毒能力が弱く急性アルコール中毒に陥りやすいALDH2(2型アルデヒド脱水素酵素)ヘテロ欠損型の体質であり遺伝的にお酒に弱い、と言われている[3]

日本では、飲酒の強要が行われてしまう背景として、上下関係、伝統、社会的な習慣、などといった心理的圧力がある[3]。なお、飲酒の強要などの問題は、上下関係や長幼の序を重んじる東アジアに特有のものとの分析がある一方、アメリカでの大学生による飲酒事故もあることをふまえて、そのような背景のみで起きるわけではない、との分析もある[2]。(アメリカ人はアメリカ人で、学校や職場などで、強者が弱者をいじめる、ということはそれなりに頻繁に起きているし、またアメリカ人はパーティ好きで、つまり集団で、はしゃいだり、悪ふざけしたり、暴走する、という癖があり、それも原因となって、しばしば飲酒の強要が起きる)

日本

企業内アルコールハラスメント

日本の企業では、上述の5つの問題行為がおこなわれがちである。

たとえば、誰かを歓待しようとする場合に、(歓待しようとする側にノウハウやアイディアが少なく、いわゆる「ひき出し」の中身が少なく)、やたらと安直に酒宴を行おうとする愚かな者が多く、その結果、しばしば酒宴が行われてしまうが、招かれた側は、(心理的に断りづらいので)酒宴の場に、やむなく身を置いてしまうことになるが、そもそも酒を飲みたくない人や飲めない人がかなりの割合で含まれており、結果として、酒宴を行おうとする者の意図とは反対に、むしろ迷惑がられること、不快に思われることもしばしば、ということになる。[5]

人の状態はさまざまで、アルコールが代謝できない体質の人、酒に弱い体質の人、酒で心理的なガードがゆるむのを心底嫌っている人、酒癖が悪い人(つまり酒を飲むと、トラブルを引き起こしてしまいがちな人)で酒を自重している人などがおり、それらのタイプの人々を総計すると、実際には相当な割合に達している。本当は、事前に社内アンケートなどを行って、ひとりひとりの人の酒に対する態度・嗜好を尋ねておいたほうがよいのだが、それを行わないずさんな人が多すぎるのである。

なお「歓待」のつもりの酒宴が飲酒の強要の場になってしまっているというパターンは、企業の組織内部で従業員同士でやらかしてしまう場合もあるし、また企業の従業員(特に営業担当の従業員)が(組織の外の)顧客を相手にやらかしてしまう場合もある。

特に日本の企業組織内部では、上下関係にまつわる心理的な圧力は強く、そもそもパワーハラスメントが行われがちで、その結果アルコールハラスメントも行われがち、という状況にある。企業のメンバーどうしで開かれる酒宴では、しばしば上司が「部下の労をねぎらう」というつもりで杯をすすめる、という(良くない)風習がある。「上司から勧められた杯を返すことは、礼を失する行為」などという間違った観念が長らく横行してしまったため、杯を進められた部下の側には相当な心理的な圧力がかかり、本当は断りたいが断れない、という状況に置かれてしまうことになる。

また、女性社員が、上司にこびて、一種の「点数かせぎ」をするために酌をしてまわる行為も行われることがあるが、これは弱い立場の者の行為なので、いわゆる「パワハラ」にはあたらないが、こうした行為でも酌を断りづらい雰囲気をつくってしまうと、その上司が酒を飲みたくないと思っている場合(上司だからといって飲みたいと思っているとは限らない)は、(女性従業員の意図に反して)やはりアルコールハラスメントの一種になってしまう。

大学内アルコールハラスメント

アルコールハラスメントの問題は、日本では、1980年代以降に急性アルコール中毒で死亡する20代の若者が続出したことから注目されるようになった。特に1980年代から1990年代にかけて大学生などのイッキ飲みが急性アルコール中毒死の原因として注目され、社会問題として取り沙汰されるようになると、死亡した大学生の遺族らによる呼び掛けによって、社会運動のキーワードとしてこの語は広まった。


  1. ^ a b c d e f g h i j k l m すこやか特集”. コーセー健康保険組合. 2019年3月27日閲覧。
  2. ^ a b c d e f 眞崎睦子「なぜ大学生の飲酒死亡事故はなくならないのか : 日本の大学における「静かな強要」と飲酒関連問題対策」『メディア・コミュニケーション研究』第65巻、北海道大学大学院メディア・コミュニケーション研究院、2013年、 47-60頁、 ISSN 1882-5303NAID 1200053469972021年7月1日閲覧。
  3. ^ a b c d e f 武藤岳夫「アルコール健康障害の理解と対応~生活習慣病との関連を中心に~」”. 広島県国民健康保険団体連合会. 2019年3月27日閲覧。
  4. ^ 『世界の酒日本の酒ものしり辞典』外池良三、東京堂出版、2005年8月15日、初版、22ページ。ISBN 4-490-10671-8
  5. ^ 慎重な人は、事前にひとりひとりの酒に対する嗜好を尋ねておき、ひとりでも酒の苦手な人がいれば、酒宴以外の手法を選び、酒抜きで歓迎する手法を選ぶ。世の中には、歓待する手法は無数にある。
  6. ^ 急性アルコール中毒などによる死者数 ASK


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