アメリカ連合国の国旗 国旗

アメリカ連合国の国旗

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/11 15:22 UTC 版)

国旗

最初の国旗『Stars and Bars』

? スターズ・アンド・バーズ

最初のアメリカ連合国の旗は1861年3月5日から1863年5月まで使われ、『スターズ・アンド・バーズ』と呼ばれていた。縦横比は3:5。7つの星は連邦を離脱した7つの州、サウスカロライナ州ミシシッピ州フロリダ州アラバマ州ジョージア州ルイジアナ州テキサス州をあらわす。この旗をデザインしたのはアラバマ州に住むプロイセン王国出身のドイツ系移民ニコラ・マーシャルで、そのデザインにはマーシャルになじみのあったオーストリア帝国の国旗が影響を与えている[1]。マーシャルは連合国軍の軍服のデザインも行っている[2]

連合国臨時議会が最初に手掛けた法案の中に、国旗・国章委員会の設置があった。サウスカロライナ州のウィリアム・ポーチャー・マイルズが議長を務める委員会では、マイルズ自身も国旗案(後に南部海軍旗となる、赤字に青のX型十字の案)を抱えて臨んだが、委員会に寄せられた公衆からの声の中では、「独立戦争で掲げた古くからの合衆国旗を捨てないでくれ」という訴えが圧倒的に多かった。このため、マイルズの案よりもマーシャルの案の方が星条旗に似ているとして人気が高く、委員会もこれを国旗とすることになった[3]

ただしこの旗は、戦場の混乱の中では、北部(アメリカ合衆国)の『スターズ・アンド・ストライプス(星条旗)』と見分けがつかなくなる重大な欠点があった。さらに、州の権利奴隷制などを巡って北部と対立したはずの南部の旗が、結局北部の旗とそっくりなものになったことについて、「敵とそっくりな旗では戦えない、この旗は我々の心に響かない」という反対意見が制定直後から噴出していた[4][5]。円形に並ぶ星の数は南部連合に加入する州が増えるたびに増え、1861年11月には13個(ただし、ミズーリ州ケンタッキー州は州内に連合国支持層があったのみで加盟や実効支配に至らず)に増えている。

最初の国旗制定時に提案された旗

二番目の国旗『Stainless Banner』

? ステインレス・バナー

連合国は星条旗との混同を避けるため、1863年5月1日より、国旗を『ステインレス・バナー』(染みのない旗)と呼ばれる旗に変更した。縦横比は1:2。明らかな変更点は、カントン(旗の左上4分の1の部分)に南軍旗(後述)のデザインを持って来て連合国旗であることを強調したことである。新たな国旗の制定に当たり、ほとんどの案が、当時よく知られ人気もあった南軍旗をあしらっていた。この中から、ジョージア州サバンナの新聞編集者で作家だったウィリアム・T・トンプソンの案が選ばれた。

「ステインレス」(染みのない、潔白の)というニックネームは、旗の大半を占める白い地に由来する。後の国旗法ではこの白い地に対して特に意味を説明しなかったため様々な解釈が生まれ、「南部人の一点の汚れも無い美徳と誇り、北部の圧制と侵略に対する独立への闘志」を意味するともされている。しかしトンプソンの最初の意図は、白は白人の白であり、「神が定めた、有色人に対する白人の優位を守るために戦う人民にとって、白い旗こそが戦う理由をもっともよく象徴してくれる」というものだった[6]

議会で、この白い部分を赤で縁取るのがいいか、青い線を入れるのがいいかという議論が出た際、トンプソンは、白地に何かを足すことはデザインの意図に妥協を加えるものであり反対すると述べている[4]。ウィリアム・ポーチャー・マイルズも、国旗は派手で分かりやすい方がいいので南軍旗のデザインは入れるべきであろうが、同時に国旗は可能な限り簡明であるべきであるとして、トンプソンの白い旗の案を支持した[7]。自分の案が国旗に選ばれると、トンプソンは自分の新聞で、「この旗は、我々の戦う理由である『優秀な人種と高度な文明が、無知や野蛮と戦う』ということをよく表している。同時に、今や悪名高いヤンキーの野蛮人の旗とまったく似ていないことも利点である」と自賛する記事を掲載している。

この旗の初使用は、トマス・J「ストーンウォール」ジャクソン将軍の葬儀の際に棺を覆う旗だったために、「ストーンウォール・ジャクソンの旗」とも呼ばれる。

しかしこれにも欠点があった。戦場の泥で汚れやすいうえに、戦場に風が吹いていない場合、旗が垂れ下がると南軍旗部分が隠されて白い部分が多くなりすぎるこのデザインは、降伏の白旗とよく見間違えられたのである[8]。当初は好意的に迎えられたこの国旗も、主に軍人たちから「白すぎる」という批判が上がるようになった。

二回目の国旗制定時に提案された旗

三番目の国旗『Blood Stained Banner』

? 三番目の国旗

三番目の国旗『ブラッド・ステインド・バナー』(血染めの旗)は1865年3月4日、連合国崩壊の寸前に制定されごく短期間使用された。付け加えられた赤い垂直の条は、旗がなびいていないときに白旗と間違われないためのものである。縦横比は3:4。この旗の提案者であるアーサー・L・ロジャース少佐は、二番目の国旗は戦場で危険であるとして、議会で国旗改定を訴えるロビー活動を行った。ロジャースは、垂直の条を赤くしたのは、「ヤンキーの旗」の青と似た部分を最大限減らすためであり、同時に南軍旗部分のX型十字(セント・アンドリューズ・クロス)はスコットランド国旗に、付け加わった赤い条はフランス国旗に由来し、それぞれ南部の人々の祖先の地を表すとしている[8]

アメリカ連合国議会が定めた1865年の国旗法によれば、「幅は長さの3分の2で、正方形のユニオン(南軍旗)を旗の幅の5分の3になるように配し、ユニオンの横の余った部分の長さを、ユニオンの下の余った部分の幅の2倍にするようにする。ユニオンは赤地に青のX型を配し白でふちどり、その上に連合国を構成する州の数を表す5つの先端のある星型を飾る。旗全体の地は白で、ユニオンの残りの長さの半分を幅いっぱいの赤に塗る」、とされている[9](連合についた州は11州だったが、ミズーリ州ケンタッキー州の反対党派が連合に合流したため、13州とされることもある。南軍旗の星の数は13である)。しかし国旗法の通過から、国旗の大量生産までの間に連合国は戦いに敗れて崩壊し、人々が三番目の国旗を目にすることはほとんどなかった[9]

? 1861年3月4日–1861年5月21日 ? 1861年5月21日–1861年7月2日 ? 1861年7月2日–1861年11月28日
? 1861年11月28日1863年5月1日 ? 1863年5月1日1865年3月4日 ? 1865年3月4日–1865年5月26日

  1. ^ Nicola Marschall”. The Encyclopedia of Alabama (2011年4月25日). 2011年7月29日閲覧。 “The flag does resemble that of the Germanic European nation of Austria, which as a Prussian artist, Marschall would have known well.”
  2. ^ Hume, Edgar Erskine (August 1940). “Nicola Marschall: Excerpts from "The German Artist Who Designed the Confederate Flag and Uniform"”. The American-German Review. http://www.archives.state.al.us/marschall/german.html 2015年6月26日閲覧。. 
  3. ^ Coski 2005, pp. 4–5
  4. ^ a b Preble 1872, pp. 414–417
  5. ^ Preble 1880, pp. 523–525
  6. ^ Coski, John M. (2013年5月13日). “The Birth of the 'Stainless Banner'”. The New York Times. New York: The New York Times Company. 2019年11月7日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年1月27日閲覧。
  7. ^ Coski 2005, pp. 16–17
  8. ^ a b Coski 2005, pp. 17–18
  9. ^ a b The Third Confederate National Flag (Flags of the Confederacy)”. 2009年1月30日時点のオリジナルよりアーカイブ。2007年7月29日閲覧。
  10. ^ Coski 2005, p. 62
  11. ^ McPherson, James M. This Mighty Scourge: Perspectives on the Civil War. (2007) pg. 97
  12. ^ Coski 2005, p. 91
  13. ^ Coski 2005, pp. 92–94
  14. ^ http://www.infoplease.com/spot/confederate4.html
  15. ^ アメリカ連合国の歴史の見直しや、南部の再分離独立を掲げる右派系の運動
  16. ^ サウスカロライナ州知事、南部連合旗の撤去求める - WSJ 2015 年 6 月 23 日 12:49 JST
  17. ^ a b 米で「南部連合軍旗」巡り議論 人種差別の象徴と批判 - 日本経済新聞、2015/6/24 9:22
  18. ^ a b 米サウスカロライナ州議会の南部連合旗、抗議活動家が一時撤去 - AFP BB 2015年06月28日 14:24
  19. ^ 米アラバマ州が「南部連合旗」を撤去 - AFP BB, 2015年06月25日 08:14
  20. ^ サウスカロライナ州議会 南部連合の旗を撤去へ - CNN.co.jp 2015.07.10 Fri posted at 15:27 JST
  21. ^ 南部連合旗を撤去、米サウスカロライナ州議会 - AFP BB 2015年07月11日 10:59
  22. ^ nascarman (2020年6月11日). “Historical Motorsports Stories writes: "The Times NASCAR Banned The Confederate Flag From Its Cars"”. Racing-Reference. NASCAR Digital Media. 2020年12月1日閲覧。
  23. ^ Schwartz, Nick (2015年6月30日). “NASCAR fans can exchange Confederate flags for American flags at Daytona this weekend”. USA Today. http://ftw.usatoday.com/2015/06/nascar-fans-can-exchange-confederate-flags-for-american-flags-at-daytona-this-weekend 2015年7月2日閲覧。 
  24. ^ Mangan, Dan (2020年6月10日). “NASCAR bans Confederate flag at all events and properties”. CNBC. https://www.cnbc.com/2020/06/10/nascar-bans-confederate-flag-at-all-events-and-properties.html 2020年6月10日閲覧。 
  25. ^ NASCAR statement on confederate flag”. NASCAR Statement. nascar.com (2020年6月10日). 2020年6月12日閲覧。
  26. ^ McCrummen, Stephanie (2020年6月20日). “Wrapped up in the Confederate flag: In a Southern bastion of racing, NASCAR's ban means grandstanding for some, realizations for others”. The Washington Post. https://www.washingtonpost.com/nation/2020/06/20/heflin-alabama-confederate-flags/ 2020年6月22日閲覧。 
  27. ^ Levenson, Michael (2020年6月10日). “NASCAR Says It Will Ban Confederate Flags” (英語). The New York Times. ISSN 0362-4331. https://www.nytimes.com/2020/06/10/sports/autoracing/nascar-confederate-flags.html 2020年6月30日閲覧。 
  28. ^ a b c 米軍、南軍旗使用を実質禁止 トランプ氏と隔たり 日本経済新聞、2020年7月18日更新
  29. ^ "リー将軍"。もちろん南軍司令官ロバート・E・リーにちなむ。
  30. ^ 日本版DVDのタイトル。WOWOW放映版では『爆発! デューク2005 デュークス・オブ・ハザード』、スター・チャンネル放映版では『爆発! デューク/クレイジークラッシュ』の邦題が用いられた。
  31. ^ 米ミシシッピ州議会、州旗変更の法案可決 南部連合の象徴なくす”. BBC (2020年6月29日). 2020年7月10日閲覧。
  32. ^ 知事が州旗変更の法案に署名、南軍のシンボルを排除へ 米ミシシッピ州”. CNN (2020年7月1日). 2020年7月10日閲覧。
  33. ^ ジョージア州用メリーランド州用ミシシッピ州用ノースカロライナ州用テネシー州用バージニア州用。他にアラバマ州、ルイジアナ州、サウスカロライナ州用もある。





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