交差依存関係とは? わかりやすく解説

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交差依存関係

(cross-serial dependencies から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2026/01/20 23:09 UTC 版)

系列間の依存関係を示す図。単語を表すwとvがそれぞれ系列を形成している。また、依存関係を表す線が互いに重なり合っている。

統語論、特に形式文法において、交差依存関係(こうさいぞんかんけい、英語: cross-serial dependencies)は、単語系列間における依存関係が入れ子(a1 a2…b2 b1)ではなく、交差(a1 a2…b1 b2)した構造を持つことを指す。

形式文法においては、この関係をもつ言語の存在によって、自然言語文脈自由文法によって記述できるという説が強く否定され、弱文脈依存文法に注目が集まる一つの要因となった[1]。最も典型的なものは、オランダ語[2]スイスドイツ語[3]における例であり、最初はそのような西ゲルマン語群の方言に集中して報告されていたが[4]、より無関係な言語である、タガログ語[4]ペルシア語[5]ワルピリ語[5]でも同様の例が確認されている。

背景

自然言語の形式は、その多くが文脈自由文法で記述できる。自然言語の文法は再帰的であり、通常はABCCBAのように入れ子状の構造になっている。

しかし、稀にだが無視できない頻度で、ABCABCのように同じ順序が二回以上繰り返されるなど、文脈自由文法より強い文法でしか記述できないと考えられる文法をもつ言語が存在する。

このような言語の記述には最低でも弱文脈依存文法が必要である[4]

種類

等位接続詞による交差依存関係

等位接続詞によって接続された文は、しばしば文脈自由文法で説明できない現象として注目されてきた[1]

日本語の例

太郎次郎三郎とは、それぞれおやつに柚子枇杷林檎とを選んだ」

という文は、「A:太郎は柚子を」「B:次郎は枇杷を」「C:三郎は林檎を」という三つの関係が、ABCABCの順に並んでいる。

これは文脈自由文法では統語的に厳密には扱えない可能性がある。しかし、これを統語論の範疇ではないとして意味論に押し付けることによって解決することは可能である[1]

スクランブルによる交差依存関係

語順が比較的自由な言語では、ABCCBAのような典型的な文に対して、その語順を入れ替える事によって交差依存関係に類似した表現を取ることがある。

日本語の例

日本語の文では「~に来る」「~するように言う」などの動詞を含む文において、交差依存関係に類似するものが見られる。

「商品を競売にここに太郎に出しに来るように言った」は交差依存関係にあるとみなすことができる。

「商品を競売にここに太郎に出しに来るように言った

という文は「A:競売に出す」「B:ここに来る」「C:太郎に言う」という三つの関係が、ABCABCの順に並んでいる。[注釈 1]

これは文脈自由文法では統語的に厳密には扱えない可能性がある。あるいは、これを構文として規則に含めることで、文脈自由文法の範囲内で語法として解決できる可能性がある[1]

この種の交差依存関係の特徴として、語順を入れ替えてより簡素で文脈自由文法で記述しやすい形に変換することができる。

例えば先の例文を並び替えて作った、

「商品を競売に出しにここに来るように太郎に言った

という文は依然として文法的であり、時としてそれより受容されやすい。

強く制限された交差依存関係

以上の二種類は、あるいはそれを語用論や意味論に押し付けて、文脈自由文法としての形式を貫くことが可能であったが、スイスドイツ語・オランダ語の方言などでは、文法的に語順が定められており、かつの一致に関して対応関係がみられることから、これをもって、自然言語を文脈自由文法で説明することに対する強い反証として考えられることが多い[4][1]

日本語の例

日本語にはこのような文は存在しないと考えられている。

スイスドイツ語の例

スイスドイツ語では動詞とその項を連続的に並べることができる[6]

...mer em Hans es huus hälfed aastriiche.
...私たちは ハンス (dat) その家 ( acc) 助ける 塗る

意味:「私たちがハンスがその家を塗るのを助ける」

この例文では「es huus ... aastriiche (その家を塗る)」の間に「hälfed (助ける)」が挿入されているので、入れ子状の解析ができないとされる。また、この文の名詞には表示がされており、「es huus」は対格のため、「hälfed」ではなく「aastriiche」に対応する必要がある[7]

オランダ語の例

荷:"...dat Jan Piet de kinderen zag helpen zwemmen" (ヤンがピートが子供たちの水泳を手伝うのを見た) の系列の依存関係を含む依存関係樹形図。

Bresnanらは、オランダ語の二・三・四段階の交差依存関係について、次のような例を示している[2]。ここで、"dat"は英語の関係詞"that"に、"laten"は英語の使役動詞"let"に相当するものと考えるとわかりやすい。

...dat Jan de kinderen zag zwemmen
...<関係詞> ヤン 子どもたち 見る- past 泳ぐ- inf

意味:「ヤンが子供たちが泳ぐのを見た」

...dat Jan Piet de kinderen zag helpen zwemmen
...<関係詞> ヤン ピート 子どもたち 見る- past 助ける- inf 泳ぐ- inf

意味:「ヤンがピートが子供たちが泳ぐのを助けるのを見た」

...dat Jan Piet Marie de kinderen zag helpen laten zwemmen
...<関係詞> ヤン ピート マリー 子どもたち 見る- past 助ける- inf <使役動詞>- inf 泳ぐ- inf

意味:「ヤンがピートがマリーが子供たちが泳ぐようにさせるのを助けるのを見た」

(より自然な訳:「ヤンがピートがマリーが子供たちを泳がせるのを助けるのを見た」)

影響

スイスドイツ語における格の一致は、この現象が統語論の対象として扱われなければならないことを意味しており、統語論の対象として文脈自由文法で処理できない構文が存在することの強力な証拠となる。

このような強い証拠を受けて、現在の多くの研究では、それより強い弱文脈依存文法で自然言語を記述するモデルが採用されている[1]

一方で、先の日本語の例のように、語順が比較的自由な言語では、文脈自由文法の範囲内で類似の語順を達成することが可能である。逆も然りで、この関係がみられる言語はみな語順が比較的自由である傾向があり、それゆえ単なるスクランブル(かき混ぜ)現象英語版として文脈自由文法で解決できる可能性も考慮されている[5]

特に、数種類の言語で発見されたとはいえ、その割合は言語全体に比べて僅かであり、このことは弱文脈依存文法を全ての自然言語の基本的な形式文法だと考える際に無視できない問題となる[8][4]。もし自然言語が弱文脈依存文法を採るのだとしたら、なぜほとんどの言語は文脈自由文法で処理できる程度の複雑さしかないのかについて、追加の説明が必要となるだろう。

脚注

注釈

  1. ^ 「ここに出す」という関係だと異議があるかもしれない。しかし、「ここに出す」では商品の最終的な設置位置が「ここ」に限定されるが、元の文では「ここ」が商品の倉庫などを指していて、「(別の場所に)出す」目的のために「ここに来る」という解釈も可能である。この場合、本文にあるような解析をしなければこの意味はとれない。

出典

  1. ^ a b c d e f 弱文脈依存文法にまつわる理論言語学のはなし” (英語). Kohei Kajikawa(梶川康平) (2024年3月22日). 2026年1月16日閲覧。
  2. ^ a b Bresnan, Joan; Kaplan, Ronald M.; Peters, Stanley; Zaenen, Annie (1982), Cross-Serial Dependencies in Dutch, Springer Netherlands, pp. 286–319, ISBN 978-1-55608-047-0, https://doi.org/10.1007/978-94-009-3401-6_11 2026年1月16日閲覧。 
  3. ^ Shieber, Stuart M. (1985-08). “Evidence against the context-freeness of natural language” (英語). Linguistics and Philosophy 8 (3): 333–343. doi:10.1007/BF00630917. ISSN 0165-0157. http://link.springer.com/10.1007/BF00630917. 
  4. ^ a b c d e Maclachlan, Anna, and Owen Rambow. "Cross-Serial Dependencies in Tagalog."
  5. ^ a b c Dehdari, Jonathan (2006-07-13). “Crossing Dependencies in Persian”. Theses and Dissertations. https://scholarsarchive.byu.edu/etd/732. 
  6. ^ Shieber, Stuart M. (1985-08). “Evidence against the context-freeness of natural language” (英語). Linguistics and Philosophy 8 (3): 333–343. doi:10.1007/BF00630917. ISSN 0165-0157. http://link.springer.com/10.1007/BF00630917. 
  7. ^ Shieber, Stuart M. (1985-08). “Evidence against the context-freeness of natural language” (英語). Linguistics and Philosophy 8 (3): 333–343. doi:10.1007/BF00630917. ISSN 0165-0157. http://link.springer.com/10.1007/BF00630917. 
  8. ^ Cross-Serial Dependencies in Dutch, The MIT Press, (2000-02-17), pp. 133–170, ISBN 978-0-262-28421-9, https://doi.org/10.7551/mitpress/6591.003.0009 2026年1月16日閲覧。 



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