レーマーの予想とは? わかりやすく解説

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レーマーの予想

(Lehmer's conjecture から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2016/05/03 17:28 UTC 版)

レーマーの予想 (Lehmer's conjecture)、レーマーのマーラー測度の問題(Lehmer's Mahler measure problem)としても知られている、は、デリック・ヘンリー・レーマー英語版(Derrick Henry Lehmer)により提起された数論の問題である[1]。この予想は、ある絶対的な定数 が存在して、すべての整数係数の多項式 は次の性質のどちらかを満たすであろうという予想である。

  • は、円分多項式もしくは単項式 の積の整数倍である。この場合は である。(同じことであるが、 のすべての根は 1 のべき根かまたは 0 である。)

マーラー測度の定義にはいくつかあって、そのうちの一つは多項式 上分解して

とし、

と定義するものがある。

知られている中で最も小さな(1 よりも大きい)マーラー測度は、レーマーの多項式

のマーラー測度であり、これはサレム数英語版(Salem number)[2]

である。

この例が、本当に最小の値、すなわち、レーマーの予想の であると広く信じられている[3][4]

動機

一変数のマーラー測度を考える。イエンセンの公式は、 であれば、

であることを示している。(このパラグラフを通して、 と表すことにする。これもマーラー測度と呼ばれる。)

このことは、 が整数係数の多項式であれば、 が 1 以上の代数的数であり、従って、 は代数的整数の対数であることを示している。また、もし であれば、 は、円分多項式、つまり、すべての根が 1 のべき根であるようなモニック多項式と、 の単項式、つまり、ある に対してべき の積となることも示している。

レーマー(Lehmer)は、モニック多項式 に対する整数列 の研究の中で、 が重要な数値であることに気づいた[1][5]。もし が円の上で 0 とならない場合は であることは明らかであるが、円の上で 0 になる場合でさえも、このステートメントが成立するのではないだろうか。これにより、彼は次の問いに至った。

が非円分的なとき、 となるような定数 が存在するかどうか?

あるいは、

が与えられた場合、 となる整数係数の が存在するかどうか?

以下に見るように、いくつかの肯定的な答えが知られているが、しかし、レーマー予想は完全に証明されてはおらず、多くの興味深い問いが残っている。

部分的結果

を次数 の既約モニック多項式とする。スミス [6] は、自己相反多項式でない、つまり、

であるすべての多項式に対し、レーマーの予想は正しいことを証明した。

ブランクスビー(Blanksby)とヒュー・モンゴメリー英語版(Montgomery)は、[7] で、ステワート(Stewart)[8]とは独立に、絶対的な定数 が存在し、 かまたは、: を満たすことを証明した[9]

ドブロウォルスキー(Dobrowolski) [10] はこの結果を改善し

とした。彼は、 C ≥ 1/1200 を得て、十分大きな D に対し漸近的に C > 1-ε も得ている。ボウティエール D ≥ 2 に対し C ≥ 1/4 を得ている[11]

楕円の類似

を数体 で定義された楕円曲線とし、標準的高さ(ネロン・テイトの高さ(Néron–Tate height)とも言う)函数とする。標準的高さは、函数 の楕円曲線の類似である。この高さについては、 であることと、 の中で捩れ点(torsion point)であることとは同値である。楕円レーマー予想(elliptic Lehmer conjecture)は、定数 が存在し、すべての捩れのない点 に対して、

となるという予想である。ここに とする。楕円曲線 E が虚数乗法を持つとドブロウォルスキーの結果の類似は、ローラン(Laurent)のおかげで、

となる[12]。任意の楕円曲線に対し、知られている最も良い結果[12]は、ダヴィッド・マッサー英語版(David Masser)による

という結果である[13]。非整数の j-不変量を持つ楕円曲線に対しては、これが改善されて[12]、ヒンドリー(Hindry)とジョゼフ・シルバーマン英語版(Joseph H. Silverman)による

という結果がある[14]

制限付きの結果

より強い結果が、多項式や代数的数に制限をつけた場合に得られている。

P(x) が相反ではないとき、

となり、これは明らかに最良の場合である[15]。さらに、P の係数がすべて奇数であれば[16]

となる。

αを任意の代数的数とするとき、体 Q(α) が Qガロア拡大であれば、αの最小多項式に関しレーマー予想が成り立つ[16]

参考文献

  1. ^ a b Lehmer, D.H. (1933). “Factorization of certain cyclotomic functions”. Ann. Math. (2) 34: 461–479. doi:10.2307/1968172. ISSN 0003-486X. Zbl 0007.19904. 
  2. ^ Borwein, Peter (2002). Computational Excursions in Analysis and Number Theory. CMS Books in Mathematics. Springer-Verlag. p. 16. ISBN 0-387-95444-9. Zbl 1020.12001. 
  3. ^ Smyth (2008) p.324
  4. ^ Everest, Graham; van der Poorten, Alf; Shparlinski, Igor; Ward, Thomas (2003). Recurrence sequences. Mathematical Surveys and Monographs. 104. Providence, RI: American Mathematical Society. p. 30. ISBN 0-8218-3387-1. Zbl 1033.11006. 
  5. ^ David Boyd (1981). "Speculations concerning the range of Mahler's measure" Canad. Math. Bull. Vol. 24(4)
  6. ^ Smyth, C. J. (1971). “On the product of the conjugates outside the unit circle of an algebraic integer”. Bulletin of the London Mathematical Society 3: 169–175. doi:10.1112/blms/3.2.169. Zbl 1139.11002. 
  7. ^ Blanksby, P. E.; Montgomery, H. L. (1971). “Algebraic integers near the unit circle”. Acta Arith. 18: 355–369. Zbl 0221.12003. 
  8. ^ Stewart, C. L. (1978). “Algebraic integers whose conjugates lie near the unit circle”. Bull. Soc. Math. France 106: 169–176. 
  9. ^ Smyth (2008) p.325
  10. ^ Dobrowolski, E. (1979). “On a question of Lehmer and the number of irreducible factors of a polynomial”. Acta Arith. 34: 391–401. 
  11. ^ Smyth (2008) p.326
  12. ^ a b c Smyth (2008) p.327
  13. ^ Masser, D.W. (1989). “Counting points of small height on elliptic curves”. Bull. Soc. Math. Fr. 117 (2): 247–265. Zbl 0723.14026. 
  14. ^ Hindry, Marc; Silverman, Joseph H. (1990). “On Lehmer's conjecture for elliptic curves”. In Goldstein, Catherine. Sémin. Théor. Nombres, Paris/Fr. 1988-89. Prog. Math.. 91. pp. 103–116. ISBN 0-8176-3493-2. Zbl 0741.14013. 
  15. ^ Smyth (2008) p.328
  16. ^ a b Smyth (2008) p.329
  • Smyth, Chris (2008). “The Mahler measure of algebraic numbers: a survey”. In McKee, James; Smyth, Chris. Number Theory and Polynomials. London Mathematical Society Lecture Note Series. 352. Cambridge University Press. pp. 322–349. ISBN 978-0-521-71467-9. 

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