アバランシェ降伏
(雪崩降伏 から転送)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/08/29 19:24 UTC 版)
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アバランシェ降伏(アバランシェこうふく)または、アヴァランシェ降伏(英: Avalanche breakdown)は、半導体の内部において自由電子が電界で加速され衝突電離を引き起こす過程が、繰り返し発生することにより、大電流が流れる現象である。
説明
アバランシェ降伏の発生には、半導体材料内の電界が自由電子を加速するに十分な強度がある必要がある。種となる電子が材質内の原子に衝突することで、衝突電離を引き起こし、その結果として、他の複数の電子を自由電子として放出する過程が繰り返し発生し(一般に電子雪崩と呼ばれる)、急激に自由電子の数が増加する現象である。半導体素子内のわずかな自由電子の発生でも大きな電流を生み出すことになるため、アバランシェダイオード、アバランシェフォトダイオード、アバランシェトランジスタ等の半導体デバイスで利用される。電子雪崩を起こすことを想定していない一般用途のダイオード・MOSFET・トランジスタ等の半導体デバイスでは、素子内の通過電流値に上限があるため、アバランシェ降伏が発生する電圧を印加した場合、それによる電流が急激に増大し、最終的には半導体素子の破壊に至る。ツェナー降伏とは類似する部分は存在するものの、2つの現象は異なるものである。
電子雪崩の過程
電子雪崩は強電界下での電流増倍のプロセスであり、電力送電システムのように非常に高い電圧を使用する場合や、半導体内のように電圧は高くないが、非常に近い距離に印加される場合に発生する。アバランシェ降伏が発生するために必要な電界の強度は材質により大きく異なっている。空気では一般に3 MV/m、セラミックのような良質な絶縁体では、40 MV/mが必要である。半導体デバイスでは、通常20 - 40 MV/mの電界強度が必要であるが、この値は素子により異なってくる。なおpn接合が存在する半導体素子においては、逆電圧を掛けた際の空乏層の狭さが電子雪崩を起こす強電界を作り出す。
電界強度の条件が満たされると、電子雪崩が発生するには種となる自由電子が必要である。例えばアバランシェフォトダイオードでは、光の入射がこれらの自由電子の生成に使用され、非常に感度の良い光検出器を構成する。半導体においてアバランシェ降伏が発生するしきい値より低い電界強度に設定すると、半導体素子を流れる電流は電子の生成に大きく依存するが、電子雪崩がひと度起きると素子内部の電流は加速度的に上昇し、素子外部の抵抗等で拘束される電流まで一気に流れることとなる。
電子雪崩が始まると、自由電子は内部の電界で非常に高速まで加速され、他の原子に当たってその原子が持つ電子を複数個、叩き出す働きをする。もし、自由電子の速度がアバランシェ降伏を起こすには十分でない場合(すなわち、電界が十分な強度を持っていない場合)、電子は原子に吸収され、この過程は停止するが、電子雪崩を起こすほどの強電界のもとでは自由電子も強電界により大きなエネルギーを獲得しており、加速された電子が原子に衝突した際に、その原子から1つあるいは複数の電子をたたき出し、自由電子となる。これを衝突電離という。叩き出された自由電子は強電界で加速され、また別の原子に衝突し、新たな電子を複数個作り出す過程が繰り返され、大量の自由電子が半導体内を指数関数的に増加しながら移動する。これをアバランシェ降伏と呼ぶ。
種となる自由電子の生起から電子雪崩に至る時間は、ピコ秒のオーダーである。この過程を雪山で発生する雪崩になぞらえ電子雪崩現象と称し、半導体においてはアバランシェ降伏と呼ぶのは首記のとおりである。アバランシェ降伏が起きると非常に大電流が流れ、他の外部的な回路等により電流値は制限される。なお全ての電子がアノードに到達したときに、ホールが同じように作られないとき、または電子がカソードより供給されなくなった場合は電子雪崩は停止し、この時に半導体の不純物分布をも含めた構造が破壊されていなければ半導体素子としての機能は失われない。大電力を扱うパワーデバイスにおいて保護用素子を外付けすることなくパワーデバイス自身でアバランシェ降伏にかかるエネルギーを吸収することもあるが、繰り返しアバランシェ降伏が起きるような環境は考慮されないため、別途、外付けの保護素子によりパワーデバイスを守るか、アバランシェ降伏を起こすもととなる高いサージ電圧が発生しないようなデバイスの回路構成や配置を取ることが強く推奨される[1]。 バイポーラジャンクショントランジスターでは、ベースの駆動の強さがアヴァランシェ電圧に重要な要素となる。もし、ベースに低インピーダンスの電圧源が接続されている場合、電荷はベースから早い時間で取り除かれ、電子雪崩の過程を抑制する。しかし、逆にベースに電流源などの高インピーダンスが接続されている場合は、増加した電荷はベースに留まり、低電界でもアバランシェ降伏が発生する。
用途
電子雪崩効果を積極的に利用することで、高感度の光検出器が実現できる(アバランシェフォトダイオード)。またアバランシェ降伏を起こす電圧を制御することで定電圧ダイオードや保護素子としての応用も可能であり、広く用いられている(アバランシェダイオード)。またバイポーラトランジスタやMOSFETでは電子雪崩現象により電流が流れる際、局部的に電流が集中し、さらに電流が増大する二次降伏現象がみられるが、破壊に至る前に電流を何らかのかたちで切ることができるならば、極めて立ち上がりの良い、高速かつ大振幅のパルス発生回路が実現できる[2] 。このことを利用し積極的にアバランシェ降伏を利用するアバランシェトランジスタも過去には米国の数社から販売されていた[2]。
関連項目
- ツェナー降伏 - こちらはpn接合の間を電子がトンネル効果により移動する現象である。
参考文献
- Microelectronic Circuit Design — Richard C Jaeger — ISBN 0-07-114386-6
- The Art of Electronics — Horowitz & Hill — ISBN 0-521-37095-7
- University of Colorado guide to Advance MOSFET design
脚注
出典
- ^ “MOSFET アバランシェ耐量について” (pdf). 東芝デバイス&ストレージ株式会社. 2025年8月30日閲覧。
- ^ a b 高見清「アバランシェ・トランジスタの基本的な特性」『第2回加速器学会年会・第30回リニアック技術研究会』、日本加速器学会・リニアック技術研究会、2005年7月20日、358–360頁、2025年8月30日閲覧。
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