外国勢力の選挙介入
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/09/08 00:57 UTC 版)
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外国勢力の選挙介入(がいこくせいりょくのせんきょかいにゅう)とは、特定の国家またはその関連主体が、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)などの手段を用いて他国の選挙過程に影響を及ぼそうとする行為をいう。特定の候補者や政党に有利または不利となる情報の流布や、虚偽情報の拡散などを通じて世論形成に介入し、社会の分極化を招くことが目的とされる。各国で問題視され、対策の対象となっている。
概要
外国勢力による選挙介入は、SNSや動画共有・短文投稿プラットフォーム(YouTube、X、TikTok、Instagram、Threads)のほか、まとめサイトやオンライン掲示板を通じて行われるとされる。手法としては、SNS上での心理的誘導(いわゆるダークパターン)の活用、受け手の怒りなどの感情を喚起する投稿や、文脈を意図的に切り取った映像を用いて反応を引き出す「レイジベイティング」、扇情的または誤解を招く見出しを付してリンクを拡散する「クリックベイト」などが指摘されている[1]。
これらの情報は、自動投稿プログラム(ボット)や多数の協調的アカウントを用いて拡散され、プラットフォームのトレンド機能で可視性を高めることで、世論に影響を及ぼし、社会的分断を助長する可能性がある。目的は、相手国を分断させ、弱体化・不安定化させることにあるとされる[2]。ロシアによる選挙介入の事例では、極右政党や親ロシア派の政党に有利となる情報拡散が行われたとする報告もある。
事例
複数の国において、外国勢力による選挙介入の事例が報告され、問題視されている。
アメリカ
2024年、中国訪問中のアントニー・ブリンケン米国務長官はCNNのインタビューで、中国が今後の米国の選挙に介入しようとしている証拠を確認したと述べた。ブリンケンは、中国共産党中央委員会総書記の習近平らとの会談で介入を行わないよう伝達したとしている[3]。
ルーマニア
2024年11月に実施されたルーマニア大統領選挙について、憲法裁判所はロシアによる選挙介入などの疑いを理由に選挙を無効とし、やり直しを命じた。やり直しとなった大統領選の決選投票でも「再びロシアによる選挙介入の兆候が見られる」と指摘し、偽情報の拡散を確認したと発表した[4]。
イギリス
2017年には、2016年の欧州連合(EU)離脱是非を問う国民投票に関し、ロシアの介入が指摘された。米国大統領選で発覚した2,752件の偽アカウントの中に、英国の国民投票における分断を助長する内容の投稿が含まれていたと報じられた[5]。
ドイツ
2025年2月のドイツ総選挙をめぐり、ロシア発の偽情報が深刻な問題となった。ドイツ政府はフェイクニュースの投稿が増加したとして不正対策を強化し、生成AIを用いて極右政党への支持を誘導する巧妙な投稿も目立ったとした。偽情報サイトは約100件に上り、その背後にロシア軍が関与しているとの見方も報じられた[6]。
モルドバ
欧州連合(EU)は2024年10月、旧ソ連構成国のモルドバで20日に実施されたEU加盟の是非を問う国民投票と大統領選挙にロシアが介入したと発表した。不正な資金提供、偽情報キャンペーン、サイバー攻撃を含むハイブリッド戦の実施が、欧州安全保障協力機構(OSCE)の選挙監視団などの情報により明らかになったとしている[7]。
ポーランド
2025年5月18日の大統領選第1回投票を前に、ガフコフスキ副首相兼デジタル相は、ロシアによる前例のない選挙介入の試みに直面していると述べた。重要インフラへの攻撃に加えて偽情報の拡散による混乱が図られており、選挙の年に入ってからこうした攻撃へのロシアの関与が2倍以上に増加したとした[8]。
日本
2025年7月15日、第27回参議院議員通常選挙をめぐり、ロシアによる選挙介入があったとする指摘がなされた。一般財団法人情報法制研究所の事務局次長・上席研究員である山本一郎は、自身のnoteに『参政党を支えたのはロシア製ボットによる反政府プロパガンダ』と題する記事を投稿し、参議院選においてSNS上でロシアが介入し工作を行った証拠が見つかったと主張した[9][10]。
Xアカウントの凍結
山本の記事では、日本のニュースサイトを名乗る「Japan News Navi」(実態はまとめサイト)などの名称が挙げられ、ロシアの選挙介入との関係が指摘された。その後、「Japan News Navi」と関係するとされた「ヒムロ」(@himuro398)、「一華」(@reo218639328632)、「まったりくん」(@mattaeiver1)など複数のX(旧Twitter)アカウントが凍結された。これらのアカウントは参政党を支持していたとされる[10]。また、毎日新聞の報道によれば、凍結されたアカウントは米シンクタンク「大西洋評議会」デジタルフォレンジック研究所(DFRLab)によって「親ロシア」と指定されていた [11]。
政府・政治家の反応
読売新聞の取材に対し、政府関係者は外国勢力によるSNSを通じた選挙介入の存在を認め、複数の民間データ分析会社の分析として、外国から自動投稿プログラム(ボット、bot)を用いた引用投稿の反復や大量の「いいね」が確認されたと述べた。日米関係の分断をあおる内容も見られたという[12]。
平将明デジタル相は、外国勢力による選挙介入について一部報告があるとして、外国からの介入の検証が必要との認識を示した[13]。その後のインターネット番組でも、「言論の自由は尊重されるべきだが、外国からの影響が国民に知られないまま民主主義の結果を左右することは望ましくない」として、対策の必要性を強調した。具体的には、「政権を不安定化させる」「日米関係を引き離す」「国際的な信用を失墜させる」「民主主義への信用を失墜させる」といった内容の投稿がボットにより自動拡散され、選挙介入につながっているとし、国民のリテラシー向上や事業者の自主的対応の重要性を指摘した[14]。
国民民主党の玉木雄一郎代表は、外国勢力によるSNSを通じた選挙介入について政府による調査の重要性を述べた[15]。青木一彦官房副長官は「日本も対象となり得るとの認識で対応を強化する」とした[16]。三原じゅん子内閣府特命担当大臣は、「『こども家庭庁解体論』を執拗に投稿していた多数のアカウントが急に凍結された」と報告し、外国勢力介入との関連についての指摘があるとして、適切な調査の必要性を示した[17]。
ロシア政府の反応
ロシア外務省情報局長(報道官)のマリア・ザハロワは、選挙への介入を否定した。さらに、米国がロシアによる選挙介入を批判していることに言及し、日本は米国の手法を「模倣している」と主張した[18]。
各国の対策
アメリカ
米国国務省は、サイバー攻撃による選挙介入に関与した外国勢力に属する人物の身元や所在の特定に資する情報の提供者に対し、最大1,000万米ドルの報奨金を提供するとして情報提供を呼び掛けている[19]。
シンガポール
シンガポールは、外国介入対策法(FICA)を2021年10月に成立させた。同法は、SNSを利用した外国からの世論操作や、政治家などへの働きかけを規制対象としている。政府は、「人種的・文化的に多様なシンガポールは海外からの介入を受けやすい」との理由を挙げている[20]。
脚注
- ^ “ロシアの情報工作が日本のSNSを支配している…参院選前に自民党閣僚の悪質なデマがバズっている恐ろしい背景”. PRESIDENT Online. PRESIDENT Online (2025年7月16日). 2025年7月16日閲覧。
- ^ “政府も危機感…外国勢力が参院選に介入? “不審な拡散”か…「公約を守らない」首相の誤情報も 目的は?【それって本当?】”. 日本テレビ. 日本テレビ (2025年7月17日). 2025年7月17日閲覧。
- ^ “中国が米国の選挙介入を計画? 日本も気をつけたい「世論の弱点」とは”. forbesjapan. forbesjapan (2024年5月7日). 2024年5月2日閲覧。
- ^ “ルーマニアやり直し大統領選 「ロシア干渉の新たな兆候」”. AFPBB News. AFPBB News (2025年5月19日). 2025年7月17日閲覧。
- ^ “ロシアのフェイクアカウント、英のEU離脱投票への介入ツイートも判明”. huffingtonpost. huffingtonpost (2017年11月13日). 2025年7月19日閲覧。
- ^ “ドイツ総選挙、ロシア発偽情報が拡散 AIが極右に誘導も”. 日本経済新聞. 日本経済新聞 (2025年2月21日). 2025年7月19日閲覧。
- ^ “露がモルドバの国民投票に介入 EU、不正資金提供などハイブリッド戦争仕掛けたと声明”. 産経新聞. 産経新聞 (2024年10月22日). 2025年7月19日閲覧。
- ^ “ポーランド、「ロシアによる選挙干渉に直面」と副首相 18日に大統領選”. reuters. reuters (2025年5月7日). 2025年7月19日閲覧。
- ^ “参院選と「外国勢力の介入」――戦場は「人間の脳」”. WEB第三文明 (2025年7月17日). 2025年9月3日閲覧。
- ^ a b “ロシア製botによる世論操作に関与? 「Japan News Navi」など複数のXアカウントが相次ぎ“凍結””. itmedia. itmedia (2025年7月16日). 2025年7月17日閲覧。
- ^ “日本でも選挙介入? 米機関「親ロシア」認定したアカウントも凍結”. 毎日新聞. 毎日新聞 (2025年7月18日). 2025年7月18日閲覧。
- ^ “外国からの選挙介入「日本も対象」、SNSで政府に批判的な大量投稿や日米分断あおる内容確認…政府警戒”. 読売新聞. 読売新聞 (2025年7月17日). 2025年7月17日閲覧。
- ^ “参院選での外国介入、平デジタル相「検証が必要」”. 日本経済新聞. 日本経済新聞 (2025年7月15日). 2025年7月15日閲覧。
- ^ “外国勢力の選挙介入「次に狙うのは自民総裁選」 平将明デジタル相、民主主義守る対応強調”. 産経新聞. 産経新聞 (2025年7月23日). 2025年7月23日閲覧。
- ^ “国民民主・玉木氏、外国勢力のSNS選挙介入「実態調査を」”. 毎日新聞. 毎日新聞 (2025年7月17日). 2025年7月17日閲覧。
- ^ “外国勢力の選挙介入「日本も対象との認識で対応強化」 官房副長官”. 毎日新聞. 毎日新聞 (2025年7月16日). 2025年7月17日閲覧。
- ^ “三原じゅん子大臣 「こども家庭庁解体論」執拗投稿の多数アカウントが「急に凍結」と報告”. デイリースポーツ. デイリースポーツ (2025年7月17日). 2025年7月17日閲覧。
- ^ “参院選介入疑惑を否定 ロ報道官”. 時事通信. 時事通信 (2025年7月24日). 2025年7月24日閲覧。
- ^ “米大統領選「ロシア介入」は本当に防げるのか”. 東洋経済. 東洋経済 (2020年9月2日). 2025年7月19日閲覧。
- ^ “シンガポール、外国の介入排除へ新法 ネット規制に権限”. 日本経済新聞. 日本経済新聞 (2021年10月14日). 2025年7月19日閲覧。
関連項目
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