和田の湖
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/10/08 09:19 UTC 版)
数学における和田の湖(わだのみずうみ、英: lakes of Wada)とは、面上における3つの領域であって、それぞれは連結であり、互いに共通部分を持たず、しかも全く同じ境界を持つものの例である。
概要と歴史
平面あるいは球面上において、同じ境界を持つ2つの領域を考えることは易しい。例えば、球面を北半球と南半球に分ければ、その2つの領域は赤道を共通の境界に持つ。これに対し、3つ以上の領域が共通の境界を持つことは、直感的にはあり得ないことのように感じられる。しかし、無限に入り組んだ複雑な領域を考えるならば、そのようなことも可能である。
数学者の米山国蔵は、1917年にそのような例を発表した。米山によれば、それは彼の師である和田健雄のアイデアだったため、和田の湖と呼ばれるようになった[1]。また、同じ境界を持つ3つ以上の領域は、和田の性質 (Wada property) を持つ、という言い方をする。和田の湖は、直感に反する病的な例として人工的に構成されたものであるが、後述のように、和田の性質を持つ例が力学系において自然に現れることも、次第に分かってきた。そのようなものは、和田の吸引領域 (Wada basins) と呼ばれる。
和田の湖の構成
文献によって細部は若干異なるが、アイデアは本質的には同等である。ここでは、右図に基いた記述を行う。また、3つのみならず、3つ以上の任意の個数の領域についても、同様のアイデアで構成できる。
単位正方形
- z3 − 1 = 0 の3つの解(1の立方根)に対応した3つの領域は、複雑に絡み合って共通の境界を持つ。

和田の性質を持つ自然な例を得るには、例えば三次方程式 z3 − 1 = 0 を考えればよい。この方程式は三つの解
を持つ。方程式の解を近似的に求める方法としてニュートン法があるが、三つの解のうちどれが求まるかは、最初にランダムに選んだ複素数に依存する。求まる解によって、複素数平面上の複素数を色分けすると、右の図が得られる。この3つの領域は、和田の性質を持つ。ただし、和田の湖とは異なり、3つの領域はどれも連結ではなく、それどころか無限個の部分に分かれている。この例は、和田の吸引領域と呼ばれるもののうち、最も単純な例である。
なお、境界上の点は、ニュートン法では(ゼロ除算が生じるなどして)解が求まらない初期値であることを意味する。ほんの少しずらせば解が求まるようになるが、3つの領域が和田の性質を持つということは、ずらし方がほんの少し変わるだけで得られる解が3通りに変わってくることを意味する。これはカオス理論が主に題材とする典型的な現象である。
出典
- ^ スチュアート p.195
参考文献
- KUNIZÔ YONEYAMA (1917). “Theory of Continuous Set of Points (not finished)”. Tohoku Mathematical Journal, First Series 12: 43-158 .米山による原著論文。特に pp. 60-62。島や湖の絵もある。
- イアン・スチュアート著、水谷淳訳『数学ミステリーの冒険』SBクリエイティブ、2015年 ISBN 978-4797382020 特に pp. 194-197.
関連項目
外部リンク
- Weisstein, Eric W. "Wada Basin". MathWorld (英語).
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