古典的セファイド変光星

古典的セファイド変光星[1][2][注 1](こてんてきセファイドへんこうせい、英: classical Cepheid variable)は、セファイド変光星のタイプの1つ。数日から数週間の変光周期と、10分の数等級から2等級程度の振幅で、周期的な動径脈動[注 2]を示す種族Iの星の脈動変光星である。古典的セファイド (classical Cepheid) 、種族Iセファイド (Population I Cepheids) 、I型セファイド (Type I Cepheids) 、ケフェウス座δ型変光星 (Delta Cepheid variables) などとも呼ばれる。
古典的セファイドの光度と脈動周期の間には明確な関係がある[5][6]ため、セファイド変光星は銀河と系外銀河の距離尺度を確立するための有効な標準光源となっている[7][8][9][10]。ハッブル宇宙望遠鏡 (HST) による古典的セファイドの観測によって、ハッブル=ルメートルの法則に対するより確実な制約が可能となった[7][8][10][11][12]。古典的セファイドは、銀河系内の渦巻構造や太陽の銀河面からの高さなど、天の川銀河の特徴を明らかにするために使われてきた[9]。
天の川銀河内に6,000個以上存在すると予想される古典的セファイドのうち、既に約800個が確認されている。また、大小マゼラン雲では数千個の古典的セファイドが、他の銀河ではさらに多くの古典的セファイドが確認されている[13]。HSTによる観測では、約1億光年離れた銀河NGC 4603に複数の古典的セファイドが発見されている[14]。
特徴

古典的セファイドは、太陽の4倍から20倍程度の質量を持ち[15]、光度はおよそ1,000倍から50,000倍(ケンタウルス座V810星では200,000倍)も明るい[16]。分光学的には、スペクトル階級F6 - K2の輝巨星または低光度の超巨星である。温度やスペクトルは脈動によって変化する。半径は太陽の数十倍から数百倍である。光度の大きなセファイドは、温度が低く大きく変光周期も長い。温度変化に加えて、半径も周期に合わせて変化するため、明るさが2等級も変化する。この明るさの変化は、波長が短いほど顕著に現れる[17]。
セファイドは、基本モード、第1陪振動モード、あるいはまれに混合モードで脈動することがある。第1陪振動より高次での脈動は珍しいが興味深いものとされる[6]。古典的セファイドの大部分は基本モード脈動であると考えられているが、光度曲線の形状からモードを区別することは容易ではない。陪振動で脈動している星は、同じ周期の基本モード脈動星よりも、より明るく、より大きい傾向がある[18]。
恒星の進化の過程では、中質量星が主系列から離れ、赤色巨星分枝へと進化するまでの間に、不安定帯を非常に速く通過する。赤色巨星分枝に進化した後に中質量星内部のヘリウム中心核に点火されると、ブルーループを形成して再び不安定帯を通過、一度高温に進化した後、さらに漸近巨星分枝に向かって進化して不安定帯を通過する。8-12 M☉以上の質量の星は、赤色巨星分枝に到達する前に中心核のヘリウム燃焼が始まって赤色超巨星となるが、不安定帯を通過してブルーループを起こすことがある。ブルーループの継続期間、あるいはブルーループに至るか否かも、星の質量、金属量、ヘリウム存在量といった要素に大きく影響を受ける。セファイドの周期の変化率とスペクトルから検出できる化学組成から、ある星が恒星の進化上どのような過程にあるかを推測することができる[19]。
古典的セファイドの前駆天体となる恒星は、中心核の水素を使い果たすまでは、B7より早期型のB型主系列星あるいは晩期型のO型主系列星であったと考えられている。質量が大きく温度の高い星ほど、より光度が大きく長周期のセファイドとなるが、天の川銀河にある太陽と似た金属量を持つ若い星は、不安定帯に初めて到達するまでにかなりの質量を失うため50日以下の周期になると推測されている。赤色超巨星は、ある程度の質量以上[注 3]では、ブルーループを形成するのではなく青色超巨星に戻るように進化し、不安定帯では周期的に脈動するセファイドではなく不安定な黄色極超巨星となる。非常に重い星は、不安定帯に到達するほど十分に冷却されないため、セファイドとなることはない。大小マゼラン雲のように金属量の低いところでは、星はより多くの質量を持ち続けることが可能なため、より長い周期でより明るいセファイドとなりうる[16]。
光度曲線


セファイドの光度曲線は、最大光度まで急激に上昇した後に最小光度までゆっくりと下降する非対称性を持つのが一般的である(例:ケフェウス座δ星)。これは、半径と温度の変化の位相差によるもので、古典的セファイドで最も多いタイプである基本モード脈動星の特徴と考えられている。滑らかな擬正弦波状の光度曲線に「バンプ」と呼ばれる、一時的に光度の低下が遅くなったり、わずかに輝度が上がったりする現象が見られることがあるが、これは基本波と第2陪振動の共鳴によるものと考えられている。バンプは、周期が6日前後の星の下降枝によく見られる(例:わし座η星)。周期が長くなると、バンプの位置は最大高度に近づき、周期が10日前後の星では、最大光度が二重に見られたり、第一の最大光度と区別がつかなくなったりする(例:ふたご座ζ星)。より長い周期では、バンプが光度曲線の上昇枝に見られるようになる(例:はくちょう座X星)が、20日以上の周期では共鳴が消えてしまう。
古典的セファイドの中には、ほぼ対称的な正弦波状の光度曲線を示すものもある。これらは s-Cepheids と呼ばれ、通常は振幅が小さく、周期が短いのが特徴である。これらの大部分は第1陪振動またはそれ以上の高次の振動をする脈動星(例:いて座X星)であると考えられているが、基本波で脈動していると思われる珍しい星もこのような光度曲線を示す(例:こぎつね座S星)。第1陪振動で脈動している星は、天の川銀河では短い周期でしか発生しないと予想されているが、大小マゼラン雲のように金属量が低い場合にはやや長い周期で発生する可能性がある。より高次の陪振動の脈動星や2つの陪振動で同時に脈動しているセファイドも大小マゼラン雲では多く見られ、それらは通常、振幅が小さくやや不規則な光度曲線を描いている[6][21]。
発見

1784年9月10日、エドワード・ピゴットはわし座η星の変光を検出し、これが古典的セファイド変光星の最初の代表的な天体となった。しかし、古典的セファイドの名前は、その1ヶ月後にジョン・グッドリックによって変光星であることが発見されたケフェウス座δ星に由来している[22]。ケフェウス座δ星は、星団に属している[23][24]ことや、HSTやヒッパルコスによって精密な年周視差が得られている[25]こともあって、セファイドの中でも最も距離が精密に測定されていることから、周期-光度関係のキャリブレータとしても重要な役割を果たしている。
周期-光度関係
古典的セファイドの光度は、その変光周期に直接関係している。周期が長ければ長いほど、星の光度は大きくなる。古典的セファイドの周期-光度関係は、1908年にヘンリエッタ・スワン・リービットが大小マゼラン雲にある数千個の変光星の調査から発見した[26]もので、さらに証拠を加えて1912年に発表された[27]。周期-光度関係が較正されると、周期がわかっているセファイドの光度が確定される。光度が確定されれば、その見かけの明るさから距離が求められる。20世紀を通じて、アイナー・ヘルツシュプルングを始めとする多くの天文学者によって周期-光度関係の較正が行われてきた。長らく周期-光度関係の較正は不確かなものであったが、2007年のベネディクトらの研究によって、太陽系近傍の古典的セファイドの年周視差をHSTの観測によって求めることで、天の川銀河内での較正が確立された[28]。また2008年には、とも座RS星までの距離を誤差1%以内の精度で推定したとする研究結果がヨーロッパ南天天文台 (ESO) の研究者によって発表された[29]。ただし、ESOのこの発見については論文上で盛んに議論されている[30]。
HSTによる10個の近傍セファイドの年周視差と、古典的セファイドの周期P(単位は日)と平均絶対等級Mvとの間に、以下のような相関関係が示された。
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