ヨハネ・パウロ2世 (病院船)とは? わかりやすく解説

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ヨハネ・パウロ2世 (病院船)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/07/27 08:20 UTC 版)

ヨハネ・パウロ2世
基本情報
船種 病院船
運用者 フランシスコ会
母港 オビドス(パラー州, ブラジル
経歴
竣工 2020年10月27日(再就役)
要目
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病院船「ヨハネ・パウロ2世」(ヨハネ・パウロにせい、スペイン語: Barco Hospital Papa João Paulo II)は、カトリック教会に属するフランシスコ会が運航する病院船。 船名は第264代ローマ教皇ヨハネ・パウロ2世にちなみ、船内には像が安置されている[1]

概要

アマゾン川の河口南岸を拠点として活動する、2025年8月時点ではカトリック教会フランシスコ会が運航する3隻の病院船の内の1隻である。

ローマ教皇フランシスコによる指導を元に建造された船のひとつであり、医療サービスのみならず、キリスト教の宗教的救いを提供するために運航されている。

本船は河川カーフェリーを購入・改造したもので、診察と外来診療に特化しており単独での手術能力はなく、より包括的な設備を備えた病院船フランシスコ教皇等とセットで運用される「補助病院船」的立ち位置である。

建造の経緯

2013年、リオデジャネイロにてローマ教皇フランシスコフランシスコ会の運営する病院の修道士と面談した際、教皇が「アマゾンの奥地に修道士はいるのだろうか?」と問いかけた事がこの病院船が建造されるきっかけとなっている。病院の創始者であるフランシスコ・ベロッティ兄弟が「アマゾン奥地には修道士はおりません」と返答したところ、教皇は「ならば我々はそこに赴かなければならない」とだけ述べた。その後フランシスコ会は2つの病院を運営したものの、アマゾン川沿いの住民が病院に行くのに非常に困難である問題は解決せず、このため最も遠く離れ、苦しんでいる地域に必要な医療ケアを届けるために、「病院自身が最も貧しい人々に会うために出向く」という病院船構想が具体化される事となった[2][3]

計画の具体化にあたって、60人の死者とその他の重大な損害を引き起こした公害事件に伴うシェル/BASF訴訟[注 1]の和解金の一部から建造費を確保する事をブラジル政府と合意する事となり[2]2510万レアルが充当され、これら一連の調整・交渉においてはフランシスコ会の修道士たち、サンパウロ州労働検察庁、そして第15管区の地方労働裁判所の支援を得た[7]

2019年8月17日、パラー州州都ベレンにて1隻目となる病院船フランシスコ教皇が就役[8]

2020年、病院船フランシスコ教皇の1年間の運用実績より、河川医療をより充実させる観点から新しく病院船を増勢する事が決定され、河川フェリーを購入・改造し「補助病院船」とすることが決定された[9]

ブラジル労働検察庁(MPT)はシェル/BASF訴訟の250万レアルに加え、Prosegur社[注 2]に対する集団訴訟[注 3]の和解金より15万レアルを割り当て、2隻目の病院船として河川フェリー「Princesa de Óbidos Ⅱ[注 4]」の購入及び病院船「ヨハネ・パウロ二世」への改造費用に充当される事となった[12]

2020年10月27日、パラー州の都市オビドスにおいて、「Princesa de Óbidos Ⅱ」の購入記念式典が催され、「ヨハネ・パウロ2世」と命名された[1]。当初は未改修状態でCOVID-19のパンデミックにおける病院船フランシスコ教皇の活動を支援し[13]、2021年10月までに病院船として必要な改修を行うこととなった[14][12]

設計と能力

軍務に就かない宗教団体に所属する病院船であり、ジュネーブ第2条約に定める病院船のうち、一定の条件下で「救済団体の病院船」に該当しえ[注 5]ジュネーブ第2条約で軍事攻撃からの保護対象となる赤十字標章を標示しており、同条約上の保護対象となる。

医療設備については、船内に歯科診療室、診療室、ケアオフィス、入院ベッド、軽度の皮膚科処置室、滅菌センター、薬局、採血・検査室、トリアージエリア(待合室付き)が設けられた[14][12]診察と外来診療に特化した能力を持つ「補助病院船」であり、本格的な外科手術などについては病院船フランシスコ教皇などが担任する事となる[15]

診療を求める患者はまず本船で受付を行い、その後病院船フランシスコ教皇又はその他の医療機関へ案内される。病院船フランシスコ教皇で手術を行った患者については本船の入院ベッドにて受け入れる事も可能である。本船については、食を通して神の愛を表現する方法を見出す専門家と修道士/宗教者で構成されるチームにより、利用者に対する食料の配布も行っている[16]

また、船内には名前の由来となったヨハネ・パウロ2世の像が安置されている[1]

運用歴

本船は病院船フランシスコ教皇とともにパラー州のオビドスを運用拠点としており[17]、2019年からのCOVID-19のパンデミックにおいて、病院船フランシスコ教皇とともに感染症地域での医療活動に従事している事が確認されている[13]

関連項目

補助船パラー(U-15)

外部リンク

脚注

注釈

  1. ^ ブラジル東北部のパウリニアにある農薬工場において、元従業員が健康を著しく害したとして、工場を運営していた独BASFと英蘭企業シェルに対し損害賠償を求めた公害裁判。BASF及びシェルに多額の賠償金が課せられることとなった[4]が、最終的に2億レアルの和解金を支払う事で和解が成立した。この和解金は病院船建造をはじめとした8つの社会保障プロジェクトに充当される事となった[5][6]
  2. ^ セキュリティサービスを提供するスペインの会社[10]
  3. ^ ブラジル労働検察庁が提起した、従業員の集団的精神的損害に対する損害賠償を要求する集団訴訟である。同社は従業員に対し集団訴訟への参加を拒否するよう強要・脅迫していたという疑惑があり、裁判所は同社に対、従業員が集団訴訟への参加を妨げてはならないこと、また、違反した場合には8万レアルの罰金を科すことが合意された。また集団的精神的損害に対し15万レアルを支払うこと、および上記契約条項を維持することを約束した。
  4. ^ ブラジルの実業家Gico Amaral氏の運営するフェリー運航会社Amaral Navegaçãoが保有していた河川カーフェリー。出力829hp、補助エンジン280hp、乗客610人、車両16台、オートバイ25台を積載可能。アコン完備の客室、バーサービス、キッチンなど快適設備を揃えていた[11]
  5. ^ 第2条約に定める病院船は軍用病院船(第22条)、各国・中立国救済団体(赤十字社など)の病院船(第24、25条)に限られ、このうちキリスト教カトリックのフランシスコ会に所属する本船は救済団体に属し、紛争当事国の承認を得ることで保護を受けられる余地がある。また、ジュネーヴ諸条約第一追加議定書第23条「他の医療用船舶及び他の医療用舟艇」において、軍用病院船とほぼ同様の条件を遵守する限りにおいて軍用病院船と同様の条約上の保護を受ける余地が発生した。

出典

  1. ^ a b c Barco Hospital Papa João Paulo II(VATICAN NEWS 2020.10.29)
  2. ^ a b Amazonia. Barco hospital "Papa Francisco": asistencia sanitaria y Evangelio(VATICAN NEWS 2019.06.03)
  3. ^ LET’S HELP THE FRANCISCAN FRIARS BRING CARE AND HOPE TO THE AMAZONIAN PEOPLE(OFM Pope Francis Hospital Ship)
  4. ^ BASFなどに賠償命令、ブラジルの公害訴訟(FBC 2012年7月11日)
  5. ^ Barco hospital construído com recursos do acordo do caso Shell/Basf é inaugurado em Belém(CSJT 2019年8月28日)
  6. ^ Barco hospital construído com recursos do acordo do caso Shell/Basf é inaugurado em Belém (PA)(tupinamba 2019年8月28日)
  7. ^ Barco-Hospital Papa Francisco: “estamos diante de um milagre”, afirma Dom Bernardo(VATICAN NEWS 2019.09.07)
  8. ^ Com benção do papa Francisco, barco hospital construído com recursos do caso Shell é inaugurado em Belém(CSJT 2019年8月19日)
  9. ^ Novo Barco Hospital na Amazônia(Associação e Fraternidade São Francisco de Assis na Providência de Deus 2020年10月28日)
  10. ^ Prosegur Compania de Seguridad SA
  11. ^ Ferry Boat Princesa de Óbidos foi inaugurado neste domingo (25)(Obidos.net.br 2017年6月26日)
  12. ^ a b c Ministério Público do Trabalho reverte recursos para 2º barco hospital que atuará no Baixo Amazonas(OIMPACTO 2021.4.13)
  13. ^ a b Barcos Hospitais Papa Francisco e João Paulo II: atendimento a ribeirinhos com Covid e sem oxigênio chega pelo rio(VATICAN NEWS 2021.1.22)
  14. ^ a b MPT PA-AP reverte recursos para projeto do 2ª barco hospital que atuará no Estado do Pará(MPT 2021.4.12)
  15. ^ Ação humanitária na Amazônia impulsionada pelo Ministério Público completa quatro anos(CNMP 2023.8.21)
  16. ^ Barco Hospital Papa São João Paulo II na Providência de Deus(Associação e Fraternidade São Francisco de Assis na Providência de Deus BHJPII)
  17. ^ Barco Hospital São João XXIII reforça saúde no interior do Amazonas(Cancao Nova 2024.12.09)



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