ヨハネ23世 (病院船)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/07/27 13:34 UTC 版)
ヨハネ23世 | |
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基本情報 | |
船種 | 病院船 |
運用者 | フランシスコ会 |
母港 | マナウス(アマゾナス州, ブラジル) |
経歴 | |
竣工 | 2024年12月7日 |
要目 | |
全長 | 48m |
病院船「ヨハネ23世」(ヨハネにじゅうさんせい、スペイン語: Barco Hospital São João XXIII)は、カトリック教会に属するフランシスコ会が運航する病院船。 船名は第261代ローマ教皇ヨハネ23世にちなむ[1][2]。
概要
アマゾン川の河口南岸アマゾナス州マナウスを拠点として活動する、カトリック教会フランシスコ会が運航する3隻の病院船の内の1隻である。
ローマ教皇フランシスコによる指導を元に建造された船のひとつであり、医療サービスのみならず、キリスト教の宗教的救いを提供するために運航されている。
本船は3隻の中で最大の収容能力を持つ最新船であり、既存2隻がパラー州オビドスを拠点としセット運用されるのに対し、本船は1隻で単独運用される。
建造の経緯
2013年、リオデジャネイロにてローマ教皇フランシスコがフランシスコ会の運営する病院の修道士と面談した際、教皇が「アマゾンの奥地に修道士はいるのだろうか?」と問いかけた事がこの病院船が建造されるきっかけとなっている。病院の創始者であるフランシスコ・ベロッティ兄弟が「アマゾン奥地には修道士はおりません」と返答したところ、教皇は「ならば我々はそこに赴かなければならない」とだけ述べた。その後フランシスコ会は2つの病院を運営したものの、アマゾン川沿いの住民が病院に行くのに非常に困難である問題は解決せず、このため最も遠く離れ、苦しんでいる地域に必要な医療ケアを届けるために、「病院自身が最も貧しい人々に会うために出向く」という病院船構想が具体化される事となった[3][4]。
計画の具体化にあたって、60人の死者とその他の重大な損害を引き起こした公害事件に伴うシェル/BASF訴訟[注 1]の和解金の一部から建造費を確保する事をブラジル政府と合意する事となり[3]2510万レアルが充当され、これら一連の調整・交渉においてはフランシスコ会の修道士たち、サンパウロ州労働検察庁、そして第15管区の地方労働裁判所の支援を得た[8]。
2019年8月17日、パラー州州都ベレンにて1隻目となる病院船フランシスコ教皇が就役[9]。
病院船フランシスコ教皇の1年間の運用実績より、河川医療をより充実させる観点から、労働訴訟の和解金を原資として新しく病院船を2隻増勢する事が決定され、1隻が河川カーフェリーを購入・改造し診察と外来診療に特化した補助病院船である病院船ヨハネ・パウロ2世、もう1隻がより包括的な設備を備えた新規建造の本船が整備される事となった[10]。
本船はアマゾナス州州都マナウスにて2024年12月7日に就役した[11][12][注 2]。就役式典においては、列聖された聖人であるヨハネ23世の聖遺物による祝福を執り行った[1]。
設計と能力
軍務に就かない宗教団体に所属する病院船であり、ジュネーブ第2条約に定める病院船のうち、一定の条件下で「救済団体の病院船」に該当しえ[注 3]、ジュネーブ第2条約で軍事攻撃からの保護対象となる赤十字標章を標示しており、同条約上の保護対象となる。
全長48mの船体に4層のデッキを設けており、トイレ、エレベーター、キッチン、キャビン、管理事務所などの共用エリアが設けられ[11]、医療設備については診療室、歯科診療室、眼科室、投薬室、予防接種室、診療ベッド、入院ベッド、処置室、手術センター3室[注 4]、麻酔後回復室、診断機器、デジタルX線、超音波/心エコー図、デジタルマンモグラフィー、心電図などの設備が整備され、臨床分析室に加え薬剤配布用の薬局設備も設けら、包括的な医療を提供できる。また、2隻の救急ボートを有し、家庭訪問、合併症のある患者の搬送、物資の輸送などを行うことが可能である[2][注 5]。
本船はアマゾナス州にて単独で運用され、パラー州にて2隻セットで運用される病院船フランシスコ教皇、ヨハネ・パウロ2世 (病院船)と比較して最大の収容能力を有し、1日100件以上の軽度・中等度の手術を実施する事が可能である[14]。
80名以上のボランティア医療従事者が患者のケアにあたり、1日あたり200名程度を収容できる[11]
運用歴
本船はアマゾナス州マナウスを拠点とし[2]、月に2回、それぞれ7日間の医療遠征をおこない[11]、アマゾン川[注 6]及びその支流であるネグロ川流域のコミュニティに医療を提供する[14]。
就役してから2025年5月までの間で外科手術を含む4万件以上の処置を実施しており、その中には帝王切開2件が含まれる[15]。
本船にて治療行為を受けるためには、ブラジル政府の発行する国民健康カード (SUS)、写真付き身分証明書、個人納税者登録 (CPF)番号の各種書類を携行し受付を行うことが必要である[13]。
関連項目

- ヨハネ23世-船名の由来となった第261代ローマ教皇
- 病院船
- ブラジル海軍病院船
- オズワルド・クルズ級病院船
- 補助船パラー(U15)
- ドトール・モンテネグロ (病院船)
- 病院船ソアレス・ド・メイレレス(U21)
- テネンテ・マキシミリアーノ (U28)
- 病院船アンナ・ネリー(U170)
- フランシスコ会病院船
外部リンク
- Barco Hospital São João XXIII…フランシスコ会の病院船公式サイト
脚注
注釈
- ^ ブラジル東北部のパウリニアにある農薬工場において、元従業員が健康を著しく害したとして、工場を運営していた独BASFと英蘭企業シェルに対し損害賠償を求めた公害裁判。BASF及びシェルに多額の賠償金が課せられることとなった[5]が、最終的に2億レアルの和解金を支払う事で和解が成立した。この和解金は病院船建造をはじめとした8つの社会保障プロジェクトに充当される事となった[6][7]。
- ^ 先の2隻である病院船フランシスコ教皇と病院船ヨハネ・パウロ2世はパラー州オビドスを拠点としている。
- ^ 第2条約に定める病院船は軍用病院船(第22条)、各国・中立国救済団体(赤十字社など)の病院船(第24、25条)に限られ、このうちキリスト教カトリックのフランシスコ会に所属する本船は救済団体に属し、紛争当事国の承認を得ることで保護を受けられる余地がある。また、ジュネーヴ諸条約第一追加議定書第23条「他の医療用船舶及び他の医療用舟艇」において、軍用病院船とほぼ同様の条件を遵守する限りにおいて軍用病院船と同様の条約上の保護を受ける余地が発生した。
- ^ 眼科手術センターと2つの一般外科センターが整備されており、双方ともにビデオ補助手術に対応しており、船上で実施可能な手術の幅が拡大している[13]。
- ^ 入院用ベッドは10床、麻酔後回復用ベッドが4床の合計14床のベッドを有する[11]
- ^ なおアマゾン川がブラジル国境に入ってから下流へ2000km地点でネグロ川と合流する地点まではブラジル国内では「ソリモンエス川」と呼ばれており、各種ブラジル国内ニュースでもソリモンエス川表記で記述される場合が多いが、一般的に「アマゾン川主流」と同じ意味である。
出典
- ^ a b Inaugurado o Barco Hospital São João XXIII: inicia sua missão levando saúde às comunidades ao longo do Amazonas(VATICAN NEWS 2024.12.09)
- ^ a b c Barco Hospital São João XXIII na Providência de Deus(Associação e Fraternidade São Francisco de Assis na Providência de Deus BHJ23)
- ^ a b Amazonia. Barco hospital "Papa Francisco": asistencia sanitaria y Evangelio(VATICAN NEWS 2019.06.03)
- ^ LET’S HELP THE FRANCISCAN FRIARS BRING CARE AND HOPE TO THE AMAZONIAN PEOPLE(OFM Pope Francis Hospital Ship)
- ^ BASFなどに賠償命令、ブラジルの公害訴訟(FBC 2012年7月11日)
- ^ Barco hospital construído com recursos do acordo do caso Shell/Basf é inaugurado em Belém(CSJT 2019年8月28日)
- ^ Barco hospital construído com recursos do acordo do caso Shell/Basf é inaugurado em Belém (PA)(tupinamba 2019年8月28日)
- ^ Barco-Hospital Papa Francisco: “estamos diante de um milagre”, afirma Dom Bernardo(VATICAN NEWS 2019.09.07)
- ^ Com benção do papa Francisco, barco hospital construído com recursos do caso Shell é inaugurado em Belém(CSJT 2019年8月19日)
- ^ Ação humanitária na Amazônia impulsionada pelo Ministério Público completa quatro anos(CNMP 2023.8.21)
- ^ a b c d e Barco Hospital São João XXIII reforça saúde no interior do Amazonas(Cancao Nova 2024.12.09)
- ^ Dr. George Lins elogia a estrutura do Barco Hospital São João XXIII(Aleam 2024.10.07)
- ^ a b Barco Hospital São João XXIII Retorna a Novo Remanso.(Prefeitura de Itacoatiara 2024.4.17)
- ^ a b Cardeal Leonardo Steiner abençoa o barco-hospital São João XXIII(VATICAN NEWS 2024.08.23)
- ^ Barco Hospital São João XXIII leva atendimento à zona rural de Urucará em nova expedição(Agência Amazonas 2025.05.05)
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