アブドゥル
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/04/25 02:07 UTC 版)
アブドゥル(ラテン文字表記:Abdul)はアラビア語由来の男性名ないしはその一部で、アラブ人や世界各国の主にイスラーム教徒の名前として用いられている。
アラビア語由来の人名もしくは人名由来のラストネーム・家名の複合名「アブドゥル◯◯」(アブド・アル=◯◯)の前半部分が切り取られて一つの男性名として誤解されている場合と、アブドゥル(アブドゥール)という1語で単独の男性名として用いられている場合とに分かれ、日本で「アブドゥル」として扱われている人名のほとんどは前者に該当する。
概要
複合名「アブドゥル◯◯(アブド・アル=◯◯)」の前半が切り取られたもの
誤解の事例
実際にはアブドゥル◯◯という複合名であるにもかかわらずアブドゥルという人名として誤解されているケースでは、本来
- アブドゥルアズィーズ(アブド・アル=アズィーズ , アラビア語:عبد العزيز, ラテン文字転写:ʿAbd al-Aziz, 英字表記例:Abd al-Aziz, Abdulaziz他) -「威力並び無き(者アッラー)のしもべ」「強大なる者のしもべ」
- アブドゥルマリク(アブド・アル=マリク, アラビア語:عبد الملك, ラテン文字転写:ʿAbd al-Malik, 英字表記例:Abd al Malik, Abdulmalik) -「王者(たる者アッラー)のしもべ」
のように、複合名の前半部分「アブドゥル(アブド・アル=)」部分のみを抜き出してファーストネームとして扱い、一つの人名である複合名の後半部分「◯◯」を省いた結果となっている。
アブドゥル単体を名前として持つアラブ人男性は稀だが、小説・漫画・アニメといった創作作品ではアラブ人の名前としてAbdul(アブドゥル)がよく登場する。しかしながら現実のアラブ諸国ではまず見かけないためアラブ人らから奇妙なアラブ人キャラクターの名前であると言われることが少なくない。
複合名としての意味
アブドゥル◯◯の◯◯に語と複合名としての意味
アラブ人名ならびにアラビア語由来人名「アブドゥル◯◯」(アラビア語:عبد الـ, ラテン文字転写:ʿAbd al-◯◯, 分かち書き:アブド・アル=◯◯)では◯◯にアラビア語でイスラーム(イスラム教)やキリスト教などの一神教で「(神、唯一神)アッラー」やその別称が入り、「神のしもべ」や「◯◯たる者アッラーのしもべ」という意味の複合名を構成。
→ アブド・アル=◯◯(アブドゥル◯◯) - 複合語「◯◯のしもべ、◯◯の僕」
◯◯部分に唯一神アッラーの別称(属性名)が入るものについては、男性名アブドゥッラー(アラビア語:عبد الله, ラテン文字転写:ʿAbdullāh, 「神の僕、神のしもべ」の意)の同義語に相当する。
シーア派イスラーム教徒、キリスト教徒の場合は◯◯部分に人間である崇拝対象の名前や属性名・通称が入ることも多く、シーア派の場合はアル=イマーム、アル=アミール、アリー、アル=ハサン、アル=フサイン、アッ=ザフラー他、キリスト教の場合はアル=マスィーフ(メシアのアラビア語名称)、ヤスーウないしはイーサー(イエスのアラビア語名)他が命名に用いられるなどする。偶像崇拝・個人崇拝を敬遠するスンナ派圏でも◯◯部分に預言者ムハンマドの別称に当たるアッ=ラスール(使徒)、アン=ナビー(預言者)を含んだ複合名が見られる[1]。
またイスラーム以前のアラビア半島では多神教の神の名前が◯◯部分に入る複合名も多数存在した[2]。
アラビア語での発音
◯◯部分に定冠詞アル(al-)が接頭した語が続く場合はつなげ読みによりアブド・アル=◯◯からアブドゥ・ル=◯◯に発音が変化するため、実際のアラビア語ではアブド・アル=◯◯ではなくアブドゥル◯◯と読まれる。
インド付近のアラビア語由来人名としてはこのアブドゥル◯◯をアブド+ゥル◯◯のように分かち書きをした「Abd ul-◯◯」のような英字表記が多用されている。
なお、定冠詞アルの直後に t、th、d、dh、r、z、s、sh、l の子音が来る場合は発音同化により定冠詞部分はアルからアッに変わるため、アブドゥル◯◯(アブド・アル=◯◯)ではなくアブドゥッ◯◯(アブド・アッ=◯◯)となる。また定冠詞アルの直後に子音 n が続く場合はアブドゥン◯◯(アブド・アン=◯◯)という発音に変わる。[3]
アブドゥール(アブドゥル)単体である場合
「アブドゥル◯◯(アブド・アル=◯◯)」とは異なり、「アブドゥール」(アラビア語:عبدول, ラテン文字転写:ʿAbdūl、カタカナ表記としてはアブドゥルが多用)というアラビア語風人名もあり、こちらは直後に「◯◯」を伴わない。
主な意味としては「神のしもべ」で、アラビア語人名アブドゥッラー(アラビア語:عبد الله, ラテン文字転写:ʿAbdullāh, 「神の僕、神のしもべ」の意)の類語に当たる。また、英字表記としてはAbdul、Abdoul、Abdool、Abdol等が用いられている。
アラビア語圏ではシリア、イラク、アラブ首長国連邦ほかでファーストネームないしは家名として見られる。アフリカ諸国でも人名としてしばしば用いられている。またアフリカ系アメリカ人のファーストネームとしても多用されることで知られる[4]。
複合名「アブドゥル・◯◯」がフルネームに含まれる例
本人のファーストネームとして
- トゥンク・アブドゥル・ラーマン - マレーシアの独立運動家。
- アブドゥル・ラザク - マレーシアの首相。
- トゥアンク・アブドゥル・ラーマン - 初代マレーシア国王。
- アブドゥル・ハリム・ムアザム・シャー - 第5代・第14代(重祚)マレーシア国王。
非複合名アブドゥル(アブドゥール)がフルネームに含まれる例
- ポーラ・アブドゥル - アメリカ合衆国の歌手。父親はシリア アレッポ出身のユダヤ系シリア人で彼女の場合はアブドゥル(Abdul)単体がラストネーム(人名由来の家名)である。これは複合名の一部を切り取った「アブドゥル=◯◯」(アラビア語:عبد الـ, ラテン文字転写:ʿAbd al-◯◯)ではなくアラビア語圏でしばしば見られる男性名・家名「アブドゥール」(アラビア語:عبدول, ラテン文字転写:ʿAbdūl)が元のつづりと発音[5][6]。そのため複合名の前半部分を間違って切り取ったAbdulとは由来が異なる。『ジョジョの奇妙な冒険』登場人物モハメド・アヴドゥルの名前の元ネタとしても知られる[7]。
関連項目
脚注
- ^ “لا يجوز التسمية بعبد النبي وما شابهه” (アラビア語). www.islamweb.net. 2025年4月24日閲覧。
- ^ “هل تُغيَّر أسماء الأجداد إذا كانت محرمة في الشرع” (アラビア語). www.islamweb.net. 2025年4月24日閲覧。
- ^ “フスハー(正則語) 文法 定冠詞の発音:解説”. www.coelang.tufs.ac.jp. 2025年4月24日閲覧。
- ^ Overly_Sheltered (2021年9月17日). “Why do so many black people name their sons "Abdul"?”. r/askblackpeople. 2025年4月24日閲覧。
- ^ Hazael. “باولا عبدول نجمة سورية عالمية” (アラビア語). The Syrian Nation | الأمة السورية. 2025年4月24日閲覧。
- ^ “بولا عبدول يهودية من أصول سورية وعرفت الشهرة في هوليوود.. ومعجبة قتلت نفسها من أجلها” (アラビア語). Elfann News. 2025年4月24日閲覧。
- ^ 『集英社ジャンプリミックス スターダストクルセイダースvol.1 星の白金-スタープラチナ-編』 P152 The Secret of JOJO Characters
Weblioに収録されているすべての辞書からアブドゥルを検索する場合は、下記のリンクをクリックしてください。

- アブドゥルのページへのリンク