UVB-76
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送信所の所在地
送信所は、2010年6月5日まではロシア連邦のゼレノグラードとソーネチノゴルスクの中間、モスクワの北西40kmに位置するポヴァロヴォ近郊、ヴォイェニ・ゴロドックに所在した[1][4]。位置とコールサインは、1997年の最初の音声放送まで明らかになっていなかった[22]。送信はMolniya-2M ( PKM-15)、Molniya-3 (PKM-20) 送信機と、Viaz-M2バックアップ用送信機を使用し、アンテナは高さ約20mのソ連製水平ダイポールアンテナ「VGDSh」が使われた[3]。
放送が中断した後の2010年9月に送信所が移転し、現在はモスクワ州ナロ=フォミンスクに所在する第69通信基地から送信されている[1]。従来のモスクワ軍管区に加えて西部軍管区がカバー範囲となり、移転以降はメッセージ送信が頻繁化したと推測される[15]。
ポヴァロヴォ近郊にあった旧放送局跡地の対面は現在メルセデス・ベンツの自動車工場が建っている。
Google マップストリートビューで放送局の建屋が確認できる。
目的をめぐる議論
UVB-76の放送の目的は諸説ある。
- 乱数放送説
- 送信所の位置がロシア連邦軍参謀本部の通信拠点であると噂されていることと、多くの音声メッセージにフォネティックコードと数字の組み合わせが聴き取れることから、UVB-76は短波に存在する多くの乱数放送と同様に、世界各国のスパイに暗号化されたメッセージを送信する役割を担っていると広く信じられている[23]。乱数放送のための通信設備は、軍や諜報機関が利用していると考えられるが、ロシア政府やロシア連邦軍は一切言及していない[24]。乱数放送の分析を行う団体「エニグマ2000」のドイツ支部長は「内容はイレギュラーではあるが、UVB-76も乱数放送の一種である」と推測している[23]
- 国内の軍隊へ通信説
- UVB-76の(ナロ=フォミンスクへの送信局移転前の)送信用設備スペックが簡易軍事用途とみられることなど、国外の潜入者に対するものではなく、モスクワ軍管区の部隊と新兵募集センターに命令を送信するためのも、とする説がある[3][25]。2014年3月18日の音声メッセージはクリミア併合の直後に発せられ、この説が推測される。
- 音声メッセージは各地の受信局のオペレーターが正しく警戒任務にあたっているかどうかを確認するために発している、と推測がある[26][27][28]。
- 機器の保守点検説
- 機器が正常に稼働し続けている証明としてブザー音を発している、一種のデッドマン装置。
- 核戦略の一部説
- 「ブザー音が途切れて一定時間経過した場合は他国から核攻撃を受けて放送不能な被害がモスクワに及んだと判断して国軍が核報復攻撃する」冷戦時の俗称「死の手」の一部[29][30]。
- 非常時用の周波数説
- 戦争状態など非常時の臨時放送に使用する周波数で、平時はブザー音を流し続けてオーバーライドを防止している。
- データ送信用説
- アナログモデムとしてデータを送信する聴取目的ではない放送。
- 電離層の観測説
- 電離層の観測文献に当該電波の言及が見られる。「Borok Geophysical Observatory」の観測に用いる搬送波の周波数として、4.625MHz (4625kHz) が示されている。太陽活動の変化などが電離層に反映することを観測するため、電波が電離層に反射される様子の変化を比較するために用いている[31][32]。
- チャンネルマーカー説
- ブザー音を継続的に送信することで、人々がその周波数を別の用途に利用することを防ぎ、無線局オペレーターの周波数校正を容易とする説。
脚注
注釈
出典
- ^ a b c d e f g h “The Buzzer – ANVF (Formerly UVB-76)” (英語). Numbers Stations (2014年10月). 2014年10月1日閲覧。
- ^ ピーター・サヴォドニック 2011, 位置16/216
- ^ a b c “Radio Station UVB 76 "The Buzzer"”. 2002年6月3日時点のオリジナルよりアーカイブ。2017年3月16日閲覧。
- ^ a b c ピーター・サヴォドニック 2011, 位置4/216
- ^ Peter, Savodnik (2011年9月27日). “Inside the Russian Short Wave Radio Enigma” (英語). Wired 2020年10月25日閲覧。
- ^ a b c d “Morse Stations” (英語). Seventy-fifth edition of the N&O column / Spooks newsletter (2004年8月2日). 2019年9月7日時点のオリジナルよりアーカイブ。2010年8月27日閲覧。
- ^ Boender, Ary (1995年). “Numbers & oddities: Column 1” (英語). 2020年1月25日時点のオリジナルよりアーカイブ。2017年3月16日閲覧。
- ^ a b c d “2010” (英語). Priyom.org. 2020年10月25日閲覧。
- ^ ピーター・サヴォドニック 2011, 位置16-22/216
- ^ ピーター・サヴォドニック 2011, 位置22/216
- ^ ピーター・サヴォドニック 2011, 位置28/216
- ^ a b @priyom_org (2016年10月17日). "Today's extraordinary Russian military channel marker message stats" (英語). X(旧Twitter)より2020年10月25日閲覧。
- ^ a b “Pre2010” (英語). Priyom.org. 2020年10月25日閲覧。
- ^ UVB 76 in august 1976 MUST WATCH! RARE. Youtube (published 19 May 2015). 2 August 1976. 2020年10月25日閲覧。
- ^ a b “The Buzzer” (英語). Priyom.org. 2017年3月16日閲覧。
- ^ “2016” (英語). Priyom.org. 2020年10月25日閲覧。
- ^ UZB-76/UVB-76 record from 1997. 2011年9月21日閲覧。
- ^ “録音サンプル” (英語). SoundCloud. 2017年3月16日閲覧。
- ^ Kužník, Jan (2010年8月27日). “Mysteriózní rádio už 30 let vysílá záhadný signál a teď i tajnou šifru” (チェコ語). iDNES.cz 2020年10月25日閲覧。
- ^ Cox, Joseph; Rose, Janus (2022年1月20日). “Pirates Spammed an Infamous Soviet Short-wave Radio Station with Memes” (英語). Vice. 2024年4月19日閲覧。
- ^ “40年続く謎の短波放送「UVB-76」がハッキングされる。ネットミームとなった音楽や画像が流される”. カラパイア (株式会社ミンキュア). (2022年1月24日) 2022年1月27日閲覧。
- ^ “El misterioso zumbido de la estación de radio UVB-76” (スペイン語). El Reservado. (2011年1月24日). オリジナルの2016年4月4日時点におけるアーカイブ。 2011年1月31日閲覧。
- ^ a b ピーター・サヴォドニック 2011, 位置88-106/216
- ^ Jason Walsh(湯田 賢司、長谷 睦 訳) (2004年11月18日). “スパイご用達? 短波「乱数放送局」の謎”. Wired 2020年10月25日閲覧。
- ^ ピーター・サヴォドニック 2011, 位置108/216
- ^ “Russian HF beacons [MX]” (英語). Thirty-second edition of the N&O column / Spooks newsletter (2000年12月24日). 2020年2月10日時点のオリジナルよりアーカイブ。2010年8月26日閲覧。
- ^ “Single letter markers – posts from the SPOOKS and WUN listservers” (英語) (2000年). 2007年11月25日時点のオリジナルよりアーカイブ。2008年8月29日閲覧。
- ^ Pleikys, Rimantas (1998). Jamming. Vilnius Lithuania: Rimantas Pleikys
- ^ ピーター・サヴォドニック 2011, 位置58/216
- ^ Gorvett, Zaria (2020年7月16日). “The ghostly radio station that no one claims to run” (英語). BBC 2020年10月25日閲覧。
- ^ Anisimov, S. V.; Dmitriev, E. M.; Aphinogenov, K. V.; Guriev, A. V.. “Geomagnetic observations in Borok geophysical observatory”. Russian Journal of Earth Sciences (Geophysical Center RAS) 10. doi:10.2205/2011NZ000104, 2011 2017年5月20日閲覧。. 段落番号[33]参照。
- ^ “Information-measuring complex and database of mid-latitude Borok Geophysical Observatory” (英語) (2008年4月17日). 2012年2月10日閲覧。
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