自由権 概説

自由権

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/06 17:51 UTC 版)

概説

自由とは、自己のあり方を、自己の責任において決しうることをいう[2]。自己決定に委ねられるものには、何をなすかについてだけでなく、ある行為をなすか否かについての決定まで含まれる[2]

ただし、その積極的効果については、社会規範としての法が保障する自由は、無制約な決定の可能性を認めるものではない[2]。例えば初期のフランス憲法は「自由」の定義とともにその限界を示していた[2]

1791年憲法の冒頭に置かれた1789年人権宣言第4条
自由とは、他を害しない一切のことをなしうる能力をいう。各人の自然権の行使は、社会の他の成員のおなじ権利の享有を確保すること以外に限界をもたない。この限界は法律によってのみ定められる。[2]

憲法による自由の保障は、何の自由であるかにより効果を異にするものであり、許容される制約の範囲や程度も一様でない[2]。ただ、自由主義諸国では概括的に経済的自由に比べて精神的自由についての憲法的保障の本質内容は広いという特徴があるとされる[3]。そこで違憲審査基準としては二重の基準論が主張される[4]。二重の基準論とは、経済的自由と精神的自由を区別し、前者の規制立法に関しては広く合憲性の推定を認め「合理性の基準」によって合憲性を判定するが、後者の規制立法に関しては合憲性の推定は排除され「合理性の基準」よりも厳格な基準によらなければならないとする法理をいう[4]。二重の基準論の根拠としては、例えば、表現の自由については経済的自由について認められる政策的な制限が認められないことや[4]、表現の自由の濫用による弊害は経済的自由の濫用による弊害ほど客観的に明白でない場合が多く、表現の自由の制限が必要やむを得ないか否かは一層厳密に判断する必要があることが挙げられている[4]。さらに、かりに経済的自由が不当に制限されているとしても自由な討論という民主主義的な政治プロセスを経て是正できるが、表現の自由が不当に制限されている場合には自由な討論そのものが制限されているため民主主義政治過程が十分に機能せずそれを是正することができないという問題を生じることも挙げられている[5]

人権は個人に保障されるもので、個人権とも言われるが、個人は社会との関係を無視して生存することはできないので、人権もとくに他人の人権との関係で制約されることがある。日本国憲法は、各人権に個別的に制限の根拠や程度を規定しないで、「公共の福祉」による制約が存する旨を一般的に定める方式をとっている[6]


注釈

  1. ^ 自由権の内の幾つかは公共の福祉を理由に制約される場合がある。

出典

  1. ^ "自由権". 日本大百科全書. コトバンクより2022年4月8日閲覧
  2. ^ a b c d e f 小嶋和司、立石眞『有斐閣双書(9)憲法概観 第7版』有斐閣、2011年、93頁。ISBN 978-4-641-11278-0 
  3. ^ 小嶋和司、立石眞『有斐閣双書(9)憲法概観 第7版』有斐閣、2011年、93-94頁。ISBN 978-4-641-11278-0 
  4. ^ a b c d 樋口陽一、佐藤幸治、中村睦男、浦部法穂『注解法律学全集(2)憲法II』青林書院、1997年、10頁。ISBN 4-417-01040-4 
  5. ^ 樋口陽一、佐藤幸治、中村睦男、浦部法穂『注解法律学全集(2)憲法II』青林書院、1997年、11頁。ISBN 4-417-01040-4 
  6. ^ 基本的人権の保障に関する調査小委員会 (2004年). “「公共の福祉(特に、表現の自由や学問の自由との調整)」に関する基礎的資料” (PDF). 衆議院憲法調査会事務局. pp. 1-2. 2014年10月31日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年2月15日閲覧。
  7. ^ 奥平康弘「人権体系及び内容の変容」『ジュリスト』第638巻、有斐閣、1977年、243-244頁。 
  8. ^ 宮沢俊義『法律学全集(4)憲法II新版』有斐閣、1958年、90-94頁。 
  9. ^ 樋口陽一、佐藤幸治、中村睦男、浦部法穂『注解法律学全集(1)憲法I』青林書院、1994年、177-178頁。ISBN 4-417-00936-8 
  10. ^ 樋口陽一、佐藤幸治、中村睦男、浦部法穂『注解法律学全集(2)憲法II』青林書院、1997年、104頁。ISBN 4-417-01040-4 
  11. ^ 樋口陽一、佐藤幸治、中村睦男、浦部法穂『注解法律学全集(2)憲法II』青林書院、1997年、104-105頁。ISBN 4-417-01040-4 
  12. ^ a b c 樋口陽一、佐藤幸治、中村睦男、浦部法穂『注解法律学全集(2)憲法II』青林書院、1997年、141頁。ISBN 4-417-01040-4 
  13. ^ a b c 樋口陽一、佐藤幸治、中村睦男、浦部法穂『注解法律学全集(1)憲法I』青林書院、1994年、177頁。ISBN 4-417-00936-8 
  14. ^ a b c 樋口陽一、佐藤幸治、中村睦男、浦部法穂『注解法律学全集(1)憲法I』青林書院、1994年、178頁。ISBN 4-417-00936-8 
  15. ^ 樋口陽一、佐藤幸治、中村睦男、浦部法穂『注解法律学全集(2)憲法II』青林書院、1997年、140頁。ISBN 4-417-01040-4 
  16. ^ 樋口陽一、佐藤幸治、中村睦男、浦部法穂『注解法律学全集(2)憲法II』青林書院、1997年、141-142頁。ISBN 4-417-01040-4 


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