脂肪の塊 脚色

脂肪の塊

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/18 01:12 UTC 版)

脚色

ジョン・フォードは自身の1939年監督作品『駅馬車』は実は「脂肪の塊」だと語った[10]。またマクブライドは映画で描かれる痛烈な社会風刺は、原作となったアーネスト・ヘイコックスの1937年の短編小説『ローズバーグ行き駅馬車』よりも、モーパッサンに深く影響されていると考察する[11]

モーパッサン原作の、より直接的な脚色も何作か存在する。1934年、モスクワ芸術座モスフィルムの後援の下、ミハイル・ロンム脚本・監督、ガリーナ・セルゲーエワ主演の『Pyshka』というサイレント映画版「脂肪の塊」を製作した。この映画は1955年にモスフィルムによってナレーションと音響効果が追加され再公開されたが、1958年にニューヨークで初演されるまではロシア国外には知られていなかった。ニューヨーク・タイムズの評論家ハワード・トンプソンは、この映画を「作り話、そして偽善と利己主義の容赦ない実況としてはかなり素晴らしい」筋書きを持っている以外は「只のカビ臭い骨董品だ」と評した[12]

1944年、ハリウッド監督のロバート・ワイズRKOの依頼で、モーパッサンの2つの短編「脂肪の塊」と1882年の「マドモワゼル・フィフィ」に基く映画『ナチスに挑んだ女』 (Mademoiselle Fifi) を制作した。音響効果技師、次いで編集技師(スタッフとして関わった作品中特に知られているのはオーソン・ウェルズが監督した『市民ケーン』と『偉大なるアンバーソン家の人々』である)としてスタートしたワイズにとって初監督作品であった。ストーリーはほぼ「脂肪の塊」を踏襲しているが、主演女優シモーヌ・シモン演じるエリザベス・ブーセはブール・ド・シュイフより「マドモワゼル・フィフィ(お嬢様では無く、プロイセン士官ウィルヘム・フォン・アイリック少尉のあだ名である)」のヒロイン、ラシェルにイメージの近い小柄な洗濯女として描かれている。またクルト・クリューガー演じるプロイセン士官もフィフィとあだ名されるフォン・アイリック少尉に置き換わっている[13]

フランスでは1945年にクリスチャン=ジャック監督、アンリ・ジャンソン英語版脚本、ミシュリーヌ・プレールルイ・サルー英語版主演の『Boule de Suif』が公開された。アメリカでは『Angel and Sinner』として1947年に公開。やはりサルーの演じる好色なプロイセン士官は「マドモワゼル・フィフィ」に基づいている。

2006年7月、オペラ『The Greater Good, or The Passion of Boule de Suif』(直訳: より大きな利益、或いは脂肪の塊の情熱)がクーパーズタウンのグリマグラスオペラ館フェスティバルの一環として開演した[14]。フィリップ・リテルの歌詞に基づきスティーヴン・ハートキ英語版が作曲、演出はデイヴィッド・シュバイツァーであった[15]

2009年、フランスの漫画家Li-Anによってコミカライズされ、デルクール社より刊行された[16]。Li-Anはインタビューに対して「脂肪の塊」がデルクール「Ex Libris」コレクションに選ばれた理由の一つとして「ジョン・フォードの『駅馬車』のほぼ原型となっている事」、そして元の短編小説は人間性に関して時代を超えたメッセージを投げ掛けていて、「人の価値は社会的地位に依存せず」人それぞれの人格が優先されると訴えている、と語った[17]

この他、日本でも川口松太郎により、普仏戦争を西南戦争に置き換え、「乗合馬車」として新派の戯曲になっている。「乗合馬車」は1935年溝口健二により「マリヤのお雪」という題名で映画化され、脂肪の塊(映画ではお雪)を山田五十鈴が演じている[18]


  1. ^ a b 村松定史「小説家として」『モーパッサン (Century Books - 人と思想)』清水書院、1996年11月20日、43頁。ISBN 4-389-41131-4 
  2. ^ 高山鉄男「解説」『脂肪のかたまり (岩波文庫)』岩波書店、2004年3月16日、98頁。ISBN 4-00-325501-1 
  3. ^ 渡辺一夫鈴木力衛「19世紀」『フランス文学案内 (岩波文庫)』岩波書店、1990年3月16日、204頁。ISBN 4-00350-001-6 
  4. ^ 高山、2004年3月16日、p. 103
  5. ^ 村松定史「戦争の果実」『モーパッサン』清水書院、1996年11月20日、115頁。 
  6. ^ a b c 村松定史「戦争の果実」『モーパッサン』清水書院、1996年11月20日、116頁。 
  7. ^ a b 高山、2004年3月16日、p. 105
  8. ^ 村松定史「戦争の果実」『モーパッサン』清水書院、1996年11月20日、117頁。 
  9. ^ 村松定史「戦争の果実」『モーパッサン』清水書院、1996年11月20日、118頁。 
  10. ^ Bogdanovich, Peter. John Ford. Berkeley: University of California Press, 1978. p. 69.
  11. ^ McBride, Joseph.Searching for John Ford: A Life. London: Faber and Faber, 2003, p.284
  12. ^ Thompson, Howard (1958年5月5日). “Movie Review: Boule de Suif (1945)”. ニューヨーク・タイムズ/nytimes.com. 2012年11月20日閲覧。
  13. ^ Mademoiselle Fifi (1944)”. インターネット・ムービー・データベース. 2012年11月20日閲覧。
  14. ^ Tommasini, Anthony (2006年7月16日). “Stephen Hartke's First Opera, 'The Greater Good,' Features an Aria for Clanging Soup Spoons”. ニューヨーク・タイムズ/nytimes.com. 2012年11月20日閲覧。
  15. ^ Holland, Bernard (2006年7月24日). “Opera Review: The Premiere of ‘The Greater Good’ at Glimmerglass Opera”. ニューヨーク・タイムズ/nytimes.com. 2012年11月20日閲覧。
  16. ^ Boule de Suif, de Maupassant. Scenario/Drawing by Li-An. Colors: Laurence Cross. Delcourt. Released 2009-01-07”. 2012年11月20日閲覧。 ISBN 978-2756013794
  17. ^ Latallerie, Audrey (2009年). “Interview with Li-An pour BOULE DE SUIF”. Delcourt. 2012年11月20日閲覧。
  18. ^ http://www.momat.go.jp/FC/NFC_Calendar/2006-11-12/kaisetsu_5.html





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