箱根火山の形成史
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芦ノ湖の形成史
箱根カルデラの形成が始まったと考えられる約23万年前以降、早くも約18万年前にはカルデラ湖の存在が確認されている。これは当時の火山活動に伴うテフラが良く保存されている大磯丘陵では、約18万年前の箱根火山のテフラ層から、成因に水が関係する火山豆石が確認され、火山豆石の中からは湖や沼の底部に生息する淡水性の珪藻化石が見つかっており、遅くとも18万年前には箱根火山にはカルデラが形成され、カルデラ内にはカルデラ湖があったことがわかる[29][30]。
1994年に湖尻で行われたボーリング調査の結果、現在の中央火口丘の溶岩が噴出する以前、カルデラ内には湖があったことが判明し、その後、早川が火山活動によって堰き止められることにより、複数回湖が誕生したことも明らかになってきた[53]。カルデラ形成後、火山活動によってカルデラ内に湖が生まれたり消滅したりを繰り返していたと考えられる[54]。
約6万5000年前の大噴火後、カルデラ内の南西部には湖が存在したと考えられる。その後湖は縮小していくが、約4万年前に古期神山から噴出した火砕流が、現在の小塚山付近で早川を堰き止め、仙石原湖が出来た。その後仙石原湖は徐々に縮小し、約2万2000年前に神山から噴出した火砕流によって仙石原湖は先芦ノ湖と仙石原湖に分断された。仙石原湖はその後も縮小を続け、約5000年前になると湿原となった[55][50]。
一方、先芦ノ湖では約2万年前までは面積が広がったが、その後面積が縮小していく。約1万年前以降になると先芦ノ湖中部での隆起活動の結果、湖の中部に狭窄部が生まれ、狭窄部の奥では湖の拡大が見られるようになった[56]。
約3100年前の神山の山体崩壊による岩屑なだれによって早川が堰き止められ、先芦ノ湖は再拡大して現在の芦ノ湖が形成された。そして約5000年前に湿原となった仙石原は、神山の山体崩壊による堆積物の流入や富士山起源のテフラが降下したことによって、約2600年前には湿原が消失して杉林となった。その後仙石原の杉林は消滅し、天然記念物に指定されている箱根仙石原湿原植物群落がある湿原が形成される。なぜいったん陸化して杉林となった仙石原に湿原が復活したのかは今もって不明である[53][56][50]。
注釈
- ^ 例えば久野の研究に基づく箱根火山の成因説は、参考文献として挙げた(守屋(1983))、(平田(1999))、神奈川の自然をたずねて編集委員会『神奈川の自然をたずねて』(2003)、藤岡ほか『伊豆・小笠原弧の衝突(第二刷)』(2008)、『神奈川県立博物館調査研究報告(自然科学)第13号 箱根火山』(2008)、(いま証される噴火の歴史(2008))全てで説明がなされている。
- ^ 白銀山の噴火活動については、(平田(1999))は箱根火山を構成する成層火山群に山体崩壊が発生し、その結果、成層火山群南東側に馬蹄型のカルデラが生まれ、カルデラ内に新たに形成された成層火山が白銀山の活動であるとした。(長井.高橋(2008))は、複数の噴火口によって続けられた噴火活動の結果、白銀山の山体が形成されたとする。
- ^ 久野がこれまで唱えていたカルデラの形成過程を大幅に見直した論文は、久野の死後、1970年に久野を筆頭者とした共著の形式で発表されている。一般的には久野の論文とされているが、(平田(1999))は、久野の論文の特徴である丹念なフィールドワークに基づく綿密な考証がなされていないとして、論文の内容的に久野の研究とは考えがたいとしている。
- ^ 久野はボーリングによって箱根火山の基盤となる岩盤(湯ヶ島層)が検出されたと考えたが、萬年(2008)によれば湯ヶ島層ではなく、大規模な噴火によって出来たじょうご型のカルデラを埋めた堆積物であるとの説が出されている。
出典
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- ^ 箱根山の火山活動解説資料(平成27年6月)(気象庁地震火山部 火山監視・情報センター PDF)
- ^ 平田ほか(2008), p. 59.
- ^ 有鄰 座談会 高橋正樹・萬年一剛・山下浩之・松信裕 『箱根火山 噴火の新しいメカニズムを探る(1)』 - 有隣堂
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- ^ いま証される噴火の歴史(2008), p. 37.
- ^ 平田ほか(2008), p. 9-10.
- ^ 有鄰 座談会 高橋正樹・萬年一剛・山下浩之・松信裕 『箱根火山 噴火の新しいメカニズムを探る(3)』 - 有隣堂
- ^ a b 藤岡ほか(2008)pp.54-55、有鄰 座談会 高橋正樹・萬年一剛・山下浩之・松信裕 『箱根火山 噴火の新しいメカニズムを探る(3)』 - 有隣堂
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