温帯低気圧
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/31 04:46 UTC 版)
傾圧不安定波
ノルウェー学派は低気圧の発生の原因となる暖気と寒気の南北への移動は、前線の南北の風速の差(水平シア)が大きくなると前線面が不安定化して発生すると考えていた。この説を前線波動説という。しかしこのような原因からは実際の低気圧の発生過程を説明することはできなかった。1940年代後半にジュール・チャーニーやエリック・イーディーは前線の南北の温度差が大きいと地上と上空の風速の差(鉛直シア)が大きくなって不安定となり、南北への気流の蛇行が起こることを発見した。このようにして生じる気流の南北への波動を傾圧不安定波という。現在では上空の偏西風に発生した傾圧不安定波が地上の前線と相互作用して低気圧が発生すると考えられている。
3次元的な低気圧モデル
トラフでは等高度面において東側に暖気移流があり、西側には寒気移流がある。暖気移流の下では静水圧平衡の関係から気圧が減り、その低気圧に対しても同様のことが言えるので、上層の低気圧は西に傾くように下層に伝播し、トラフの東側の地上には低気圧ができる。これを傾圧不安定波という。トラフの東側やリッジの西側、ジェットストリークと呼ばれる上空の強風帯の上流の低緯度側、下流の高緯度側では傾度風と地衡風の風速の関係により気流が発散している。すなわち、気流の密度が減るので。これも低気圧の発達に寄与する。また、地表摩擦の影響を受け上昇気流が発生する。(スピンダウン効果)
有効位置エネルギーの一部は鉛直方向の循環による運動エネルギーに転化されるが、大気下層に明瞭な前線が無くても低気圧の発生によって新たに前線が発生することがよく知られているように、温帯低気圧にとってそのことは本質的ではない。温帯低気圧は有効位置エネルギーが水平の渦運動(傾圧不安定波)に転化されることにより高気圧とペアで発生し、寒冷前線や温暖前線はあくまでも摩擦収束によるフロントの強化で発生するものである。(前線強化過程を参照)
上空の気圧の谷の周りの気流と地上の低気圧の周りの気流が結びつく結果、低気圧の周りには主に3つの3次元的な空気の流れが存在する。1つ目は低気圧の南側から北東へ流れる湿った暖気の上昇気流であるウォームコンベアーベルト (Warm Conveyor Belt, WCB) である。2つ目は低気圧の北側の地上付近を東から西へ流れるコールドコンベアーベルト (CCB) である。3つ目は低気圧の西側から南東方向へ流れる乾いた寒気の下降気流であるドライイントルージョン(乾燥侵入)である。ウォームコンベアーベルトとコールドコンベアーベルトの境界面が温暖前線、ドライイントルージョンとウォームコンベアーベルトの境界面が寒冷前線にあたる。また、一般に前線を境に等圧線が折れ曲がる、これは寒気側が暖気側に比べて相対的に重く、高圧なためである。
- ^ 鈴木和史「台風の温帯低気圧化における衛星画像の特徴」(PDF)『気象衛星センター技術報告』第38号、気象庁、2000年3月。ISSN 0388-9653。 NCID AN00331581 。2015年10月7日閲覧。
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