有向点族
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/08/29 04:10 UTC 版)
フィルターとの関係
有向点族が定義されたもともとの動機は「点列に関わる諸定理から可算性に関する条件を外す」というものであったが、同じ動機からフィルターという概念も生まれている。有向点族の概念とフィルターの概念は異なる研究者により同時期に独立に提案されたものであるが、実は収束性という観点から見たときには両者は実質的に差異がないものだという事実が知られている。
(以下、この節の記述はフィルターの基本的な知識を要求する。フィルターの項目も参照)。
以下の2つの定理はこの事実を定式化したものである。最初の定理は有向点族の収束はフィルターの収束によって捉えられる事を示している:
定理[5] |
---|
X を位相空間とする。このときX 上の有向点族にX 上のフィルター基を対応させる関数Iで次の性質を満たすものが存在する:任意のa ∈ X と任意の有向集合Λと任意の有向点族(xλ)λ∈Λに対し、
|
上の定理におけるIは以下のように定義できる:
I((xλ)λ∈Λ)がフィルター基の定義を満たす事は簡単に示す事ができる。
次の定理は逆にフィルターの収束は有向点族の収束によって捉えられる事を示している:
定理[5] | |
---|---|
X を位相空間とする。このときX 上のフィルター基にX 上の有向点族を対応させる関数Jで次の性質を満たすものが存在する:任意のa ∈ X と任意のフィルター基に対し、
|
ただしIとJは逆関数の関係にあるわけではなく、は常に成り立つがJ(I((xλ)λ∈Λ))=(xλ)λ∈Λとは限らない。
Jの定義は若干複雑である。
まずフィルター基に対し、集合を
により定義し、に順序関係
を入れると、は有向集合とみなせる。
そこで
を考えると、これはを添字集合とする有向点族とみなせるので、この有向点族をとする。
普遍部分有向点族の存在性定理の証明の概略
この定理の証明では上で作った関数IとJ(を少し改変したもの)を用いる。
(xλ)λ∈Λを位相空間X 上の任意の有向点族とし、
とし、をより細かい極大フィルターとする。(このようなの存在性はツォルンの補題より容易に示せる。)
さらに添え字集合Γを
により定義し包含関係の逆順序とΛの順序の直積順序を入れ、h を
により定義すると有向点族(xh(γ))γ∈Γが(xλ)λ∈Λの部分有向点族となる事が簡単に確かめられる。しかもの極大性からこの有向点族の普遍性が従う。
- ^ Moore & Smith 1922.
- ^ Kelley 1975, p. 65
- ^ Steen & Seebach 1995, p. 68, Example 43.7, 43.8.
- ^ Steen & Seebach 1995, p. 125, Example 105.1, 105.5.
- ^ a b この定理とその証明は参考文献に挙げたPete Clarkの資料を参考にした。
- 有向点族のページへのリンク