ヘチマ 栽培

ヘチマ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/30 02:57 UTC 版)

栽培

夏場に、窓や庭に日陰を作るために植えられている[3]。強健で作りやすい植物で、肥沃な土地であれば栽培は容易である[12]。高温多湿を好む性質で、生育適温は25 - 30度、生育最低気温は10度、生育最高気温は35度程度で、果菜類の中でも高温の部類に入る[15]。土地適応性はかなり広いほうであるが、適度な湿度のある肥沃な砂壌土が適しており、湿地や乾燥地は栽培に適しない[15]。土壌酸度も適応幅は広いが、pH 5.0 以下では生育が劣る[15]連作は避ける[12]

強靱で栽培は容易であるが、栽培する土壌は病虫害の対策のため消毒が必要で、石灰を播いて、排水をよくするために植え付けする位置にをつくる[18]。発芽温度が高いので、25 - 28度で種を播いて発芽させ、子葉が展開したら育苗のため鉢上げして20 - 30度で管理する[18]。タネはかなり大きいので、覆土は1 - 2 cmぐらいにする。晩霜の心配がないころ、草丈40 - 50 cmになった苗を、株間[注 3]は3 mほどあけて定植する[18]。つるが伸びてきたら、高さ2 - 4 mぐらいの支柱や棚を立てたりネットを張ってつるを誘引[注 4]してやり、その後は誘引や整枝は行わない[15]。株元は敷きわらを行って乾燥防止を図ったり、乾燥期には水やりも必要になる[19]。ヘチマをとるほか、緑陰としての人気が高まっている。

病虫害で大きな被害に見舞われることは稀であるが、病害としては、モザイク病[注 5]斑点病、しり腐病、つる割病べと病炭そ病にかかることがある[19]害虫ネコブセンチュウ類があるほか、ワタアブラムシ、ワタヘリクロノメイガ、ウリハムシ、タネバエ、ハダニ、キボシマルトビムシなどがある[19]

一般には普通栽培が行われており作形の分化はあまり見られないが、ビニールハウスによる早期出荷のための促成栽培と、輪作や間作による半促成栽培が一部で行われている[15]

東南アジアや中国、台湾では、未熟果を年中青果として市場出荷用や自給用に、熟果は繊維用に利用するため栽培している[11]。日本における栽培の中心地は、鹿児島県沖縄県宮崎県などの南九州と、静岡県である[15]。昭和40年代ごろまで栽培面積は300ヘクタール (ha) ほどあり、その大部分は静岡県における繊維採取用の栽培であったが、工場製品に需要を奪われて著しく減少した[11]

栽培品種

  • 食用種
    果実は成熟すると長さ1 m、直径9 cmていどになる。果皮はなめらかで、首部がやや細く、胴部がやや太い。青果用に栽培されており、収穫する果実は長さ50 cm、直径5 cmくらいの幼果で、果肉はやわらかく、特有の香りと甘味が好まれる。産地では、果実の上下の太さが変わらず、長さが短くて曲がりがない系統選抜を続けている[21]
  • だるま(達磨)
    静岡県で繊維用として輸出向けに栽培されているもので、「大だるま」「改良だるま」「耐病だるま」「鶴首」ほか数品種ある。「大だるま」は長さ30 cmほどの短果で、繊維が緻密である[21]。「改良だるま」は、大だるまと鶴首の雑種から育成された品種で、首が細い長果で繊維が緻密であるが、現在は用いられない[21]。「耐病だるま」は、「改良だるま」の中からつる割れ病に強い系統を選抜したものである[21]。「鶴首」は、果実が中太で長さ70 - 90 cmになり、首から胴にかけて細く、繊維は緻密である[21]。また、静岡県では耐病性や収量に優れた育種を目的に、「改良だるま」からの選抜で「北浜」「浜名」が育成され、天竜と浜北の雑種後代から「あきは」が育成されている[21]
  • 長へちま
    別名「九尺へちま」ともよばれる中国の品種で、果実は長さ1 - 2 m、直径6 - 9 cmと非常に細長い[21]。観賞用や繊維用に栽培される[21]

注釈

  1. ^ つる性植物で、はじめの発芽から伸びて主枝となる茎のこと[17]
  2. ^ 親づるの葉のつけ根から出たわき芽が伸びた枝となるつる性の茎のこと[17]
  3. ^ 野菜などの作物を畑で栽培するとき、適正な収穫を得るために要する株と株との間のこと[17]
  4. ^ 支柱を立てたとき、支柱に茎やつるを結びつけて株が倒れないようにすること[17]
  5. ^ 葉に緑色の濃淡がモザイク状になってまだら模様が入り、表面が凹凸になって縮れる、アブラムシが媒介するウイルス性の病気[20]

出典

  1. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Luffa aegyptiaca Mill. ヘチマ(標準)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2022年10月25日閲覧。
  2. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Luffa cylindrica M.Roem. ヘチマ(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2022年10月25日閲覧。
  3. ^ a b c d e f g h i j k l m 田中孝治 1995, p. 110.
  4. ^ a b c 貝津好孝 1995, p. 169.
  5. ^ a b c d e f g 主婦の友社編 2011, p. 245.
  6. ^ 田中孝治 1996, p. 110.
  7. ^ 稲垣栄洋 2010, p. 76.
  8. ^ a b c 猪股慶子監修 成美堂出版編集部編 2012, p. 96.
  9. ^ 「食文化雑学」原語か考えるホントの語原 文芸社 2015
  10. ^ a b はままつ農業のここが肝。 浜松市役所、2013年9月1日
  11. ^ a b c d e f g h i j k 農文協編 2004, p. 295.
  12. ^ a b c d e f g h i j k l m 馬場篤 1996, p. 101.
  13. ^ a b 農産物の輸出増加『模範農村と人物』香坂昌孝 著 (求光閣書店, 1917)
  14. ^ 浜松市史 三 「浜松町農会 浜名郡農会」 浜松市立中央図書館/浜松市文化遺産デジタルアーカイブ
  15. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z aa ab ac 農文協編 2004, p. 296.
  16. ^ 主婦の友社編 2004, p. 296.
  17. ^ a b c d 金子美登・野口勲監修 成美堂出版編集部編『有機・無農薬 家庭菜園 ご当地ふるさと野菜の育て方』成美堂出版、2011年4月1日、189 - 187頁。ISBN 978-4-415-30991-0 
  18. ^ a b c 農文協編 2004, p. 298.
  19. ^ a b c 農文協編 2004, p. 299.
  20. ^ 主婦の友社編 2011, p. 巻末とじ込み.
  21. ^ a b c d e f g h 農文協編 2004, p. 297.
  22. ^ a b c 講談社編 2013, p. 104.
  23. ^ a b c ゴーヤーより苦いヘチマやユウガオにご注意!” (PDF). 沖縄県衛生環境研究所. 2013年5月16日閲覧。
  24. ^ 猪股慶子監修 成美堂出版編集部編 2012, p. 79.
  25. ^ 宮尾 茂雄. “漬物塩嘉言と小田原屋主人”. 東京家政大学・食品加工学研究室. 2023年1月12日閲覧。
  26. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Luffa acutangula (L.) Roxb. トカドヘチマ(標準)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2022年10月25日閲覧。


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