ゲリラ 国際法上の位置づけ

ゲリラ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/06/30 08:20 UTC 版)

国際法上の位置づけ

ゲリラ戦は、正規軍同士の戦争で劣勢が明白な側が、敗北を認めずに続行する延長戦として用いることが多い。強国にとってゲリラ戦は弱い敵を屈服させにくくする障害でしかない。しかし、弱者にとってゲリラ戦は侵略に対する有効な戦法であり、中にはゲリラ戦によって独立を勝ち取った国もある(インドネシア独立戦争など)。そのため、ゲリラ戦を正当な戦争の方法として認めるかをめぐって、近代戦時国際法(現代の国際人道法)の形成期に対立があった。

この対立は、ゲリラ戦に従事した者が戦闘中、または非戦闘中に敵に捕らえられたときの捕虜待遇と直結するものである。ゲリラ戦否認はゲリラ兵を凶悪な殺人者として処刑して良いとする主張に道を開く。語源となった半島戦争では、フランスの正規軍が捕らえたスペインのゲリラ兵を銃殺しており、報復として、捕らえられたフランス兵も銃殺された[1]。スペイン以外でも、政府や正規軍が崩壊した状態で民族主義的動機から武器をとった将兵は、敵から山賊扱いされて銃殺されることが多かった[2]。ゲリラ戦を容認すれば戦闘参加を理由に処刑されることはなくなる。ゲリラ戦の比重が大きかった1830年代のカルリスタ戦争では、はじめ捕虜が殺害されたが、後に協定が結ばれて、捕虜交換が実施されるようになった[3]

1874年のブリュッセル会議、1899年ハーグ会議で両者の妥協として生まれた諸条約は、基本的にゲリラ戦を容認する立場をとりつつも、民間人保護のために制限を課した。

ハーグ陸戦条約は、責任を持つ長を持ち、遠方から認識できる徽章を付け、公然武器を携行し、戦争の法規と慣例を遵守する民兵義勇兵は交戦者資格を持つと定めた(1条)。また、占領地の人民が敵の接近に際して軍を組織する暇なく公然武器を携行し、戦争の法規と慣例を遵守するときには、これもまた、交戦者資格を持つとした(2条)。条件は、非戦闘員たる住民と戦闘員たるゲリラ兵を区別し、一般住民を装って接近してから突如武器を取り出して攻撃を加えるような背信を防ぐ意義を持つ。

しかし、これらの条件は、満たすことが難しいだけでなく、満たした場合においても敵国から戦闘員としての権利を否認されることが多かった。ゲリラは、制服や徽章を着用していない場合が多く、着用していても敵に制服・徽章としての効力を否定されることが多かったからである。

第二次世界大戦後、植民地からの独立のためにゲリラ戦を遂行する組織に交戦者資格を与えようとする動きが高まり、ジュネーブ条約第一議定書で正規軍とゲリラに区別なく交戦者資格を与える規定が盛り込まれた。同議定書は、敵側の承認の有無にかかわらず政府・当局の下で武装され組織された集団を軍隊と定め、正規軍と非正規軍の区別を廃した(43条1項)。一般住民との区別のためには、攻撃準備行動中に敵に見られている間と交戦中に公然と武器を携行することを条件とした(44条)。

この拡張を勘案しても、都市ゲリラが戦闘員として認められる余地はほとんどない。条約が課した条件を満たさない状態で戦闘した兵士が敵に捕らえられた場合、捕虜として遇されることはなく、その戦闘参加行為は犯罪として裁かれる。被捕縛者は、戦争犯罪者として扱われ、権限のある裁判所に後送して、その処遇を決定する[4]。ゲリラの嫌疑をかけたれた文民は、法的には文民とみなされる(第一追加議定書第50条第1項)。また、独立性および公平性を有する裁判所に下された有罪判決によらずして、刑を執行してはならない(第二追加議定書第6条第2項)。


注釈

  1. ^ 特異なケースであるものの、日本の三島由紀夫が主宰した民族派団体『楯の会』も(左翼革命発生時においての反動作戦としての)ゲリラ戦を研究対象としていた

出典

  1. ^ Francis Lieber "Guerrilla Parties", p.7.
  2. ^ Francis Lieber "Guerrilla Parties", pp. 10 - 14.
  3. ^ Francis Lieber "Guerrilla Parties", p.19.
  4. ^ 足立純夫『現代戦争法規論』(啓正社、1979年)187頁、ジュネーヴ諸条約 (1949年)第三条約第五条第二項参照
  5. ^ 「テロ、ゲリラ」を展開し暴力革命を目指す過激派」(PDF)『焦点』第269号、警察庁、2004年9月、p. 16、2009年10月30日閲覧 





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