インスレーター (遺伝学)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/31 15:45 UTC 版)
ナビゲーションに移動 検索に移動インスレーターはエンハンサーを遮断するか、クロマチンの変化の障壁となるか、またはその両方として機能する。インスレーターがこの2つの機能を発揮する機構としては、DNAのループ形成やヌクレオソームの修飾などが挙げられる[3][4]。インスレーターには、CTCFインスレーター、gypsyインスレーター、βグロビン遺伝子座など、多くの例がある。CTCFインスレーターは脊椎動物で特に重要であり、gypsyインスレーターはショウジョウバエDrosphilaでの遺伝子発現と関係している。βグロビン遺伝子座はニワトリで最初にインスレーター活性が研究され、後にヒトでも研究されたが、いずれもCTCFを利用している[5]。
インスレーターと遺伝学との関係は、インプリンティング機構への関与と、転写調節能力にある。インスレーターの変異は、細胞周期の調節異常、腫瘍形成、増殖抑制因子のサイレンシングを通じて、がんと関係している。
機能
- エンハンサー遮断活性(enhancer blocker) - 離れた位置にあるエンハンサーが遺伝子に隣接するプロモーターに作用するのを防ぐ。
- バリア活性(barrier insulator)- 隣接するヘテロクロマチン領域の拡大によるユークロマチンのサイレンシングを防ぐ。
エンハンサー遮断活性は染色体間でも起こる相互作用であるとされているが、バリア活性は同一染色体内に限られる。染色体上で隣接する2つの遺伝子が非常に異なる転写パターンを持つ場合、一方の遺伝子の誘導や抑制機構が隣接遺伝子に影響することを防ぐためにインスレーターが必要となる[6]。インスレーターはトポロジカルドメイン(TAD)の境界に密集していることも発見されており、発現調節の基本的な構造単位である"chromosome neighborhoods"へとゲノムを区画化する役割を持っている可能性がある[7][8]。
一部のインスレーターはエンハンサー遮断活性とバリア活性の双方を持つが、他のものはどちらか一方の活性しか持たない[3]。インスレーターの例としては次のようなものがある。
- キイロショウジョウバエDrosophila melanogasterのインスレーター、gypsy、scs、scs'はいずれもエンハンサー遮断インスレーターである。
- ニワトリGallus gallusのインスレーター、Lys 5' Aはエンハンサー遮断活性とバリア活性を持ち、HS4はエンハンサー遮断活性のみを持つ。
- 出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeのインスレーター、STARとUASrpgはどちらもバリアインスレーターである。
- ヒトHomo sapiensのHS5インスレーターはエンハンサー遮断インスレーターである。
作用機構
エンハンサー遮断インスレーター
エンハンサー遮断インスレーターは核内でクロマチンループドメインを形成し、エンハンサーと標的遺伝子のプロモーターを分離する。ループドメインはエンハンサー遮断エレメントどうしの相互作用や、核内の構造エレメントへのクロマチン繊維の固定によって形成される[4]。こうしたインスレーターの作用は標的遺伝子のプロモーターと、その上流または下流に位置するエンハンサーとの位置関係に依存しており、またインスレーターによるエンハンサー遮断作用はエンハンサーの作用機構に依存している。エンハンサーが標的遺伝子のプロモーターとのループ形成によって直接相互作用する場合[9]、インスレーターはエンハンサーとプロモーターを分離するループドメインを形成してプロモーター-エンハンサーループの形成を防ぐことでこの相互作用を阻害する[4]。エンハンサーはプロモーターへシグナルを送ることで作用する場合もあり、インスレーターはループ形成の基盤となっているヌクレオタンパク質複合体を標的化することでこのシグナルを阻害している可能性がある[4]。
バリアインスレーター
バリア活性はヘテロクロマチン形成経路の特定の過程の阻害と関連付けられている。こうしたタイプのインスレーターは、ヘテロクロマチン形成の中核をなす反応サイクルの基質である、ヌクレオソームの修飾を行う。こうした修飾はさまざまな機構で行われ、例えばヌクレオソームを除去することでヘテロクロマチンの拡大とサイレンシングが防がれる。修飾はヒストンアセチルトランスフェラーゼやATP依存性クロマチンリモデリング複合体のリクルートによっても行われる[4]。
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- 1 インスレーター (遺伝学)とは
- 2 インスレーター (遺伝学)の概要
- 3 CTCFインスレーター
- 4 遺伝学との関係
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