アエロフロート821便墜落事故 乗客

アエロフロート821便墜落事故

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/07/05 09:17 UTC 版)

乗客

アエロフロート=ノルドの公式発表によれば、搭乗者は子供7人を含む乗客82名と乗員6名であり、全員死亡した。犠牲者にはロシア人66名の他に外国人22名が含まれていた[注釈 1]

要人の中には、ウラジミール・パコージン(ロシア・サンボ連盟副会長、ロシアン・トップチーム代表、元ソ連国家スポーツ省事務次官)や[17]第1次チェチェン戦争における武装勢力掃討作戦でロシア統合軍集団を指揮したゲンナジー・トロシェフ連邦大統領顧問も乗客として搭乗しており[16]、事故の犠牲になった。アエロフロートは「事故の補償義務を履行して遺族に各200万ルーブル(約300万円)を支払う」と表明した。

国籍 乗客 乗員
ロシア 60 6 66
アゼルバイジャン 9 0 9
 ウクライナ 5 0 5
 ベラルーシ 1 0 1
フランス 1 0 1
スイス 1 0 1
 ラトビア 1 0 1
ドイツ 1 0 1
トルコ 1 0 1
イタリア 1 0 1
中華人民共和国 1 0 1
合計 82 6 88

交信内容

管制塔と821便の間で交わされた交信内容が公開されている。最終調査報告書によれば、操縦士は事故当時酩酊しており、これは録音からも聞き取れるという。

当直だった管制官によれば、事故機の最終進入はローカライザから右に離れ過ぎていたので、針路を修整するよう指示した。更に着陸のため降下すべきところを、同機は何故か上昇に転じた。

管制官は821便に対して高度を確認するよう要求した。「こちらのデータでは上昇しているように見える。現在高度900メートル (3,000 ft)、確認せよ」。821便はその段階では本来高度600メートル (2,000 ft)から更に300メートル (980 ft)降下すべきだった。操縦士は「了解、降下する」と返答してから1,200メートル (3,900 ft)まで上昇し、降下経路(グライドパス)を捕捉不能になった。管制官は同機に右旋回して着陸復行するよう指示した。操縦士は肯定応答したが従わず、逆に左旋回して進入続行許可を求めた。管制官は一体大丈夫なのかと尋ねたが、同機は大丈夫だと答えた。

管制官は着陸復行するよう改めて指示して別の管制周波数に切り替えるよう伝えた。ところが操縦士は切替先の管制官に通信せず急速に降下を始めた。高度約600メートル (2,000 ft)となったところで悲鳴と「ああ!」という叫び声が聞こえ、管制官は600を維持しろと叫んだが、直後に爆発の閃光を見た[18]

事故原因

墜落現場と追悼碑の眺望

ロシアの国家間航空委員会が事故調査委を設置して調査を主導し、米国からも国家運輸安全委員会(NTSB)と連邦航空局(FAA)およびボーイング社が協力した[19]。機体はバミューダ諸島で登記されていたので、協定に基づきイギリスからも航空事故調査局(AAIB)の上級調査官2名が参加し、バミューダの民間航空省職員に協力した[20]。また、エンジンはフランス製だったので、フランス航空事故調査局(BEA)も調査に参加した[21]

ブラックボックスは2つとも無事回収され、そのデータから事故機のエンジンに火災はなく、地表に衝突するまで正常に稼動していたことが判明した。

2009年5月29日、最終報告書が公表され、以下の事故原因が挙げられた[14][22][23][7]

  • 事故の直接原因は、着陸段階で運航乗務員特に機長が空間識失調に陥ったことである。機体は左にバンクし引っくり返って急降下した。空間識失調は夜間に雲中でオートパイロットとオートスロットルを解除して飛んでいる最中に生じた。
  • 根本原因はクルー・リソース・マネジメント (CRM) の貧弱さにある。着陸数分前から、機長のイライラしている声がCVRに記録されていることなどから、クルー同士のチームワークに問題があったことが判明している。
  • パイロットたちは以前Tu-134An-2に乗務していたが、それらの姿勢指示器(ADI)が計器上で機体を表す印が動いてバンク角を示したのに対し、737のADIは背景の地平線が動いて姿勢を示す方式だった。つまり、アエロフロート=ノルドによる、西側製ADIの扱いに関する訓練が不十分だった。
  • 機長・副操縦士共に、737の操縦には未熟だった上、副操縦士は、両エンジンの推力が不均等な737の操縦が特に不得意だったことが訓練教官からの証言で明らかになっている。そのため、このようなパイロットの組み合わせは、本来ならばあってはいけないものだった。つまり、アエロフロート=ノルドによる737の管理と運用が不適切だった。
  • 事故機はスロットルの不具合を長らく放置されていた。このため操縦士は左右エンジンのスロットルを別々に操作しなければならず、操縦上の負担となっていた。
  • 検死解剖にて機長の体組織から分量不明のアルコールが検出された[24]。なお、821便が離陸する前、乗客のうち1人が英国の知人宛にSMSでメッセージを送り、機内アナウンスの機長の声が完全に酔っているように聞こえて怖いと述べていた。そのため乗客たちが不安がり、客室乗務員が宥めて回ったという[14]

欧米諸国と旧ソ連のADIの表示方式の違い(欧米式は地平線を表す線が動き、ソ連式は機体を表す印が動く)による墜落事故は何件か起きている。スイスチューリッヒで起きたクロスエア498便墜落事故も同様の原因だった。


注釈

  1. ^ 事故当初の報道では21人とされていた[16]

出典

  1. ^ "A Boeing-737 belonging to Aeroflot-Nord crashed today at the airport of Perm" (Press release). アエロフロート. 14 September 2008. 2008年9月18日時点のオリジナルよりアーカイブ。2008年9月14日閲覧 不明な引数|deadurl=は無視されます。(もしかして:|url-status=) (説明)
  2. ^ aviation-safety.net
  3. ^ a b c Novaya Gazeta (2008年9月24日). “Все нормально в экипаже? ? Первым заподозрил неладное диспетчер аэропорта Большое Савино” (ロシア語). Novaya Gazeta. 2008年12月7日時点のオリジナルよりアーカイブ。2018年2月26日閲覧。
  4. ^ The Moscow Times (2008-10-31), Perm Crash Pilots Used Fake Papers, Moscow Times, オリジナルの2008-11-21時点におけるアーカイブ。, https://web.archive.org/web/20081121180954/http://www.moscowtimes.ru/article/1010/42/372073.htm 
  5. ^ Aero News Net (2008-11-03), Aeroflot Nord pilots reported to have used false papers, Aero News Net, http://www.aero-news.net/index.cfm?ContentBlockID=5e2b3ade-a1df-4414-84c7-3c5803363b75& 2018年2月26日閲覧。 
  6. ^ Crash: Aeroflot-Nord B735 at Perm on Sep 14th 2008, impacted ground while on approach to Perm”. Aviation Herald. 2008年9月14日閲覧。
  7. ^ a b AAIB. “IAC - Final report B 737-505 VP-BKO”. 航空事故調査局(AAIB). 2014年11月4日時点のオリジナルよりアーカイブ。2018年2月27日閲覧。
  8. ^ a b “Passenger plane crashes in Russia”. BBC. (2008年9月14日). オリジナルの2008年9月14日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20080914065212/http://news.bbc.co.uk/2/hi/europe/7614951.stm 2008年9月14日閲覧。 
  9. ^ “88 человек погибли при крушении "Боинга-737" под Пермью” (ロシア語). Lenta.Ru. (2008年9月14日). オリジナルの2008年9月15日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20080915130330/http://lenta.ru/news/2008/09/14/aircrash/ 2008年9月14日閲覧。 
  10. ^ “Самолет в Перми упал недалеко от жилых домов” (ロシア語). (2008年9月14日) (2008-09-14発行). オリジナルの2008年9月14日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20080914234700/http://www.gazeta.ru/news/lenta/2008/09/14/n_1270150.shtml 2008年9月14日閲覧。 
  11. ^ При падении Boeing 737 повреждена Транссибирская магистраль” (ロシア語). Gazeta.ru (2008年9月14日). 2008年9月14日時点のオリジナルよりアーカイブ。2008年9月14日閲覧。
  12. ^ Диспетчер: экипаж Boeing вел себя неадекватно ? Газета.Ru: Хроника дня” (ロシア語). Gazeta.ru. 2008年9月16日時点のオリジナルよりアーカイブ。2008年9月15日閲覧。
  13. ^ “88 die in Russian jet crash”. Toronto Star. Associated Press: p. 26. (2008年9月15日) 
  14. ^ a b c AAIB. “Foreign Reports”. 航空事故調査局(AAIB). 2013年2月2日時点のオリジナルよりアーカイブ。2018年2月27日閲覧。
  15. ^ При падении Boeing 737 повреждена Транссибирская магистраль - Газета.Ru | Новости” (ロシア語). Газета.Ru. 2008年9月14日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年2月21日閲覧。
  16. ^ a b c d 大内佐紀. “露で国内線旅客機墜落、88人全員死亡…シベリア鉄道も被害”. 読売新聞. 2008年9月15日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年2月21日閲覧。
  17. ^ ウラジミール・パコージンさんが飛行機事故で死去”. 週刊プロレス (2008年9月15日). 2023年1月24日閲覧。
  18. ^ RIAノーボスチ (2008年9月15日). “Диспетчер о последних минутах перед авиакатастрофой в Перми”. RIAノーボスチ. 2008年9月18日時点のオリジナルよりアーカイブ。2008年9月15日閲覧。
  19. ^ "NTSB assists government of Russia in aviation accident" (Press release). 国家運輸安全委員会. 14 September 2008. 2008年9月16日時点のオリジナルよりアーカイブ。 不明な引数|deadurl=は無視されます。(もしかして:|url-status=) (説明)
  20. ^ AAIB (2008年9月16日). “AAIB PARTICIPATE IN RUSSIAN AVIATION ACCIDENT INVESTIGATION”. 航空事故調査局(AAIB). 2013年2月2日時点のオリジナルよりアーカイブ。2008年9月2日閲覧。
  21. ^ NTSB. “Factual report, NTSB ID: DCA08RA097” (PDF). 国家運輸安全委員会. 2008年12月5日時点のオリジナルよりアーカイブ。2018年2月27日閲覧。
  22. ^ Boeing-737”. 2016年12月22日時点のオリジナルよりアーカイブ。2017年1月23日閲覧。
  23. ^ Боинг-737-500 VP-BKO 14.09.2008”. 国家間航空委員会. 2016年12月22日時点のオリジナルよりアーカイブ。2009年2月19日閲覧。
  24. ^ AVIA RU Network: Новости”. 2017年1月23日閲覧。






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