裁判について
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/06 04:28 UTC 版)
裁判の争点の一つは、学生にヴァイオリンを斡旋することが教授の職務に含まれるかどうかということだった。職務なら、国立大学教授の行為として受託収賄罪が成立する。私的行為なら、謝礼を受け取ることは犯罪とならない。この点について、判決言い渡しの直前に至り、検察官が裁判所の勧告に従って訴因を一部変更したため、その当否が問題となった。その訴因変更の内容は、海野の職務内容を旧訴因よりも拡大したものとなっていた。このため、伊達秋雄(法政大学名誉教授)から「すでに自ら撤回した旧訴因を維持する旧論告が、これと矛盾するやにみえる新訴因を支持する論告として意味をもちうるであろうか。そのような経緯では、弁護人としては、新訴因の争点が何処にあるのか、その判断に迷わざるをえない。弁護人としては訴因変更の勧告をした裁判所に釈明を求めるわけにはいかないから、争点不明のまま弁護を行わざるをえない」との批判を受けた。 判決は「芸大教授が学生からバイオリンの買替えの相談を受けた場合に、教授の行うバイオリンの選定についての助言指導は、バイオリンの演奏技術の指導と密接不可分の関係に立」ち、そのため「広い意味では演奏技術の指導にあたる教授の教授内容に含まれる」とする内容だったが、この点について伊達は「どのようなバイオリンを使うかという問題は、演奏技術の指導向上、つまりバイオリン教育そのものにとって、それほど重要な意義をもつものとはいえない」と批判した。 また、問題のビネロンの弓が海野に供与された時期についても、検察官は「1979年1月26日頃、芸大弦楽部会で新規購入のバイオリンとしてガダニーニを選定することが最終決定された後、同月下旬頃に弓の供与がなされた」と冒頭陳述で主張し、その内容に沿った供述調書を証拠として提出していたが、裁判の過程で、1979年1月下旬にまず弓の供与が行われてから1979年2月1日にガダニーニ購入が最終決定されたことが認定された。この点について伊達は「本件における贈収賄の趣旨に関する最も重要な証拠(供述調書のこと─引用者註)は、その証拠価値を失った」と批判したが、裁判所は「弓の供与とバイオリン購入の最終決定の時期的な前後が検察官の主張のとおり認定できないことをもって結論にはなんら影響を及ぼさない」と判示している。
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