経済理論史におけるMMT:表券主義理論として
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「現代貨幣理論」の記事における「経済理論史におけるMMT:表券主義理論として」の解説
「表券主義」、「金属主義」、「管理通貨制度」、および「金本位制」を参照 MMTに影響を与えた先行理論には、ゲオルグ・フリードリヒ・クナップの表券主義、アルフレッド・ミッチェル=イネスの信用貨幣論、ラーナーの機能的財政論、ミンスキーの銀行システム論(金融不安定性論)、ウェイン・ゴドリー (Wynne Godley) の部門バランス論 (Sectoral balances) などがあり、MMTはこうしたアプローチを統合した理論である。 表券主義 (chartalism) は、貨幣の本質を国家による貨幣の制定と見なす学説であり、国家貨幣説とも呼ばれ、クナップによって提唱された。クナップは『貨幣国定説』(1905年) で、貨幣はコモディティ(実物貨幣)というよりも法による創造物であると論じた。クナップによれば、当時の金本位制とは、通貨単位の価値がその通貨が含むまたは交換される貴金属の量に依存する考え方であるとして、これを金属主義と呼んだ。これに対してクナップは、国家は純粋な紙幣を創造することができ、国家による貨幣が公共支出機関によって受け入れられているという限りにおいて、紙幣を法定通貨と認識することで商品と交換可能にすることができるとするとする表券主義を論じた。経済における国家の役割に関するクナップの思想は、ケインズおよびケインジアン学派に影響を与えた。L.ランダル・レイやマシュー・フォースター(Mathew Forstater)らMMTを主張する経済学者は、クナップの他に、アダム・スミス、ジャン=バティスト・セイ、J.S.ミル、カール・マルクス、ウィリアム・スタンレー・ジェヴォンズなど初期の古典派経済学における課税主導の紙としての通貨という表券主義的な観方をさらに一般化したとも主張する。 レイ以外のMMTを主張する経済学者、ウォーレン・モズラー (Warren Mosler), ステファニー・ケルトン、ビル・ミッチェル、MMTの数学的フレームワークを行ったパブリナ・R・チェネーバ (Pavlina R. Tcherneva) らも貨幣創造(money creation; 信用創造)の仕組みの研究をすすめ、こうしてMMTによって表券主義思想が復興し、レイはこれを新表券主義 (Neo-Chartalism)と称した。 MMTに大きな影響を与えた別の理論としては、アルフレッド・ミッチェル=イネスの信用貨幣論がある。ミッチェル=イネスは、貨幣は交換の媒介としてではなく、政府による課税を通じた繰延支払の基準 (standard of deferred payment) として存在しているとし、政府の資金は課税によって回収できる負債であると論じた このほか、MMTに影響を与えた経済学者としては、貨幣価値が金と密接に関連しているという考えを放棄すべきだとした上でインフレや不況対策を回避してきた責任は貨幣を発行したり課税する能力のある国家にあると主張したラーナー、金融不安定性仮説を提唱して信用創造を表券主義的に理解したミンスキーなどがいる。 MMTおよび表券主義的思想を支持ないしそれに近い研究をしている研究者には、銀行と金融システムの詳細なテクニカル分析を行ったスコット・フルワイラー、ジョン・ケネス・ガルブレイスの息子ジェームズ・ケネス・ガルブレイス、銀行貨幣と国家貨幣との違いを一覧表にしたバジル・ムーア、スティーブン・ヘイル、著書『フリーマネー』で表券主義のエッセンスを平易に説明したロジャー・マルコム・ミッチェルなどがいる。 2019年2月には、ビル・ミッチェル、ランダル・レイ、マーティン・ワッツらによる初のMMTをベースとした経済学の教科書『マクロ経済学』が出版された。
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